見出し画像

ジャンク小説 「Syuri」

※筆者がただただ気まぐれに書き殴ったガラクタのような小説。くれぐれも真剣に読まないでください!



「Syuri」

空になったマルボロのソフトパックを手のひらでぐしゃっと潰す。

大きく息を吐き出しながら上を向くと、暗くなりかけた夜空をタバコの煙が漂う。

心地よい疲労感に包まれながら、スマホ片手に音楽を再生し、イヤホンを耳に装着する。

ジョン・レノンの「Love」。

左耳にイヤホンがピッタリとはまった瞬間、もう一方のイヤホンを取り上げられ、顔を上げる。

彼女が笑顔で僕を覗き込む。

緩んだ目元で、マスクの下でもほほ笑んでいることがわかった。

「なに聴いてる?」

リアクションに戸惑う僕を置き去りにして、彼女は片方のイヤホンを耳に装着した。

「誰の曲?」

彼女の言葉を無視して、携帯灰皿にタバコを押し付ける。

「帰るよ」

彼女からイヤホンを取り上げようと、伸ばした手はキュッと掴まれた。

冷たくて華奢な指で、僕を引き留めようとしている。

「もう一本吸っていいよ」

「吸わないよ。もう帰るから返して」

「じゃあこの曲終わるまで」

なんだかムキになった様子の彼女は、僕の腕を手繰り寄せ、その場にしゃがみ込んだ。

外れてしまったイヤホンを装着し直している。

左耳に感じるジョンレノンの歌声と、彼女の些細な反抗。

「彼女いないんなら、もう一度私のこと考えてほしいな」

呟く彼女の瞳には、なにが映っているのだろう。

横顔を見つめてみるけれど、僕にはわからない。

「考えらんない」

僕の半分ほどしか人生を歩んでいない彼女と僕の間には、越えられない鉄の壁がある。

その鉄は想像以上に固くて、重たくて、触るときっとひんやり冷たい。

「なんで?」

小さな顔に大きなマスク。流れ星みたいにキラキラした瞳が僕を見つめる。

「だってまだ顔も知らないし」

思うことはただひとつ。

こんなにも真っ直ぐな女の子を傷つけてはいけない、ということ。

そっと手を伸ばして、彼女のマスクをずり下げる。

いとも簡単に防壁を崩されたお姫様は、驚いたのかポカンと口を開いたまま。

初めて見る彼女の顔に、思わずキスをした。

綺麗ごとはどこか遠くへ飛んで行き、鉄の壁はあっさりと溶けてしまった。

左耳から聞こえるジョン・レノンの声がそっと僕の背中を押してくれた気がした。

彼女の耳にも同じメロディが流れている。

ピアノの後奏。

もう曲が終わる。

新しい世界へ歩き出そう。

不思議なぐらい自然と笑みがこぼれた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?