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性科学を学ぶ-その4-セクソロジーの小史

今回は、「Sexology the basics」の1章”性科学とは何か?”から、『セクソロジーの小史』を学んでいきます。

なお少しややこしいですが、前回は「セックス・セクシュアリティの小史」でした。今回は学問としての「セクソロジー」の変遷についてです。


セクソロジーの大まかな年表

本著では、4~5ページに渡って性科学の始まりから現代(20世紀後半)にいたるまでが記述されています[1]。本記事ではこれを元に、主要と思われるポイントを年表形式に再構成してみました。

  • 1852年 ”セクソロジー”という言葉が作られる(アメリカの骨相学者オーソン・スクワイア・ファウラー)

  • 1886年 「性の精神病理」出版。性科学の最初の科学的テキストと考えられている。(ドイツ・オーストリアの医学者・精神科医リヒャルト・フォン・クラフト=エビング)[2]

  • 1897年 「性的反転(Sexual Inversion)」出版。英国で初めて出版された同性愛についての非病理学的研究。(イギリスの医師ハヴロック・エリス)[3][4]

  • 19世紀後半~20世紀初頭 幼児期から成人期までの性的発達について、「口腔期、肛門期、男根期、潜伏期、性器期」の5段階の心理的発達理論が出された(オーストリアの精神分析家ジークムント・フロイト)[5]

  • 1948~53年 1万8千人のアメリカ人男女を対象にした性のインタビュー調査を元にした「男性における性行動」「女性における性行動」出版。「キンゼイ・スケール」と呼ばれる、異性愛者と同性愛者という性的指向をスペクトラムで示す尺度が導入された。(アメリカの性科学者アルフレッド・キンゼイ)[6][7]

  • 1966~70年 「人間の性反応」「人間の性不全」出版。人間の性反応を、性的興奮期、高原期、オルガズム期、消退期の4段階の性反応モデルを示した(アメリカの婦人科医W.マスターズ、性科学者V.ジョンソン)[7]

  • 1976~84年 「性の歴史」第1巻~3巻出版。言説の対象としてのセクシュアリティの出現を考察した。(フランスの歴史学者・哲学者ミシェル・フーコー)[8]

最新のセクソロジーは今後学んでいくとして、ここでは20世紀後半までのおよそ150年に渡るセクソロジーの変遷を追ってみました。

セクソロジーを構成してきたものは何か?

この年表、変遷から、セクソロジーはどういう領域をカバーしてきたのか?もう少し踏み込むと、セクソロジーを構成してきたものは何なのか?を考えてみたいと思います。

大きく3つの構成要素がありそうです。それは、人の中にある性人と人と間の性社会としての性です。

人の中にある性

人の性行動、性反応についての領域。フロイトの5段階の心理発達モデル、マスターズ&ジョンソンの4段階の性反応モデル等を指します。人が性的なことに接したとき心理にどういう反応が起こるのか、身体に何が起こるのか、そういったことを突きとめ、明らかにしようとする領域。この領域には、自分はどのような性的属性か、それに一貫性・持続性を感じるかといったジェンダー・アイデンティティを含めていいかもしれません。

人と人の間にある性

異性愛、同性愛といった性的指向。あるいは(年表には出てきませんが)カップル関係、夫婦関係といった、人と人との間で取り交わされる相互作用をみる領域。1つ目に挙げた、性行動や性反応では、それらを引き起こすものがたとえ人であったとしても、その人はあくまで外部からの「刺激」として取り扱われることでしょう。一方ここでは、人は単なる刺激ではなく、投げかけようとする相手、受け取ってくれる相手、あるいはときに摩擦が起こる相手という点で、1つ目とは別物と言えると思います。

社会における性

性的なものを社会や文化がどう取り扱うか、あるいは何をもって性的だと社会がみなすか。これらは人の性的な価値観に大きな影響を与えます。例えば、SMプレイがAVやエロ本で「エロティックな行為」としてもし描かれていなければ、SMに興奮を覚えることは稀かもしれません。そして、この社会がみなす「性」においては、「〇〇は性的(エロティック)だ、▽▽なら非性的だ」という社会的な性の価値観が、時代時代によって動的に変わっていくものであり、人間社会に固定して備わっているものではない、という特徴をもっている。それ故に他の2つとは独自に、哲学や社会学としての性として深められているのではないでしょうか。

そして、これら3つの要素は、それぞれを独立なものとして分離できるものではなく、やはり相互に影響しあっているはずで、これらのダイナミクスを取り扱おうとするのが、セクソロジーではないか。こんなことが少しずつ見えてきた気がします。


最後までお読みいただきありがとうございました。
次回は「生物-心理-社会モデル(The bio-psycho-social model)」について学び、考えてみることにします。

参考文献
[1]Silva Neves 「Sexology the basics」Routledge社
[2]Wikipedia リヒャルト・フォン・クラフト=エビング
[3]Wikipedia Sexual Inversion
[4]Wikipedia ハヴロック・エリス
[5]Wikipedia ジークムント・フロイト
[6]Wikipedia キンゼイ報告
[7]日本性科学会「セックス・セラピー入門」
[8]Wikipedia The history of sexuality


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