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性科学を学ぶ-その3-セックス・セクシュアリティの小史

今回は、「Sexology the basics」の1章”性科学とは何か?”から、『セックス・セクシュアリティの小史』を学んでいきます。[1]


自由な性(古代~中世以前)

私たちが目にする限り、人類はセックス、性行為、そして性器に魅了されてきました。洞窟壁画や古代美術には、男性、女性、ノンバイナリーの人々が一人または複数の人と性行為を行う様子が描かれ、多様な性的指向を示すものが発見されています。人類が誕生して以来、さまざまな文明が性を利用してエロティックな芸術を作り、性的な崇拝によって霊性を獲得し、日常生活に性を取り入れてきました。

「Sexology the basics」[1]より(DeepL翻訳)

少し調べてみると、sexや性器、性愛の様子をかたどった、芸術作品が今も多く残っています。


同性愛の情景を描いたフレスコ画(紀元前 530 年頃、エルトリア美術館、イタリア)[2]

(なんとも表現しがたい構図ですが、牛?も興奮しているようです)

男性の骸骨が女性の骸骨を抱きしめてキスをしている様子を表したポット、モチェ文明(西暦100~800年)、ペルー。[3]

(むしゃぶりあう、ほおばりあうようなキスです。)

これら作品は、見る人にエロティックな感情を呼び起こしたり、作者自身のエロティックな感情を高揚するものだったのかもしれません。あるいは、いかに快楽を得るか、いかに子孫を残すかといった、セックスの仕方を伝承する目的だったかもしれません。

いずれにしても、セックスや性的なことは古代から連綿として、人を焚き付けるものだった、ということが分かります。

また、同性愛についてもタブーのなかった、少なかった時代でもあり、ある程度自由に表現されていたようです。

親密な二人の女性を描いた酒杯。紀元前490~480年、イタリア[4]

(この絵の情景が、女性の同性愛を表現しているものなのか、あるいは性的ではない日常的なやりとりだったのかは定かではありません。ただ、右の女性が手で触れようとしている姿からは、私は性的なニュアンスを感じます)

性の禁止・抑圧(中世~近代)

イギリスでは、性の禁止と抑圧は中世のキリスト教に始まり 、ヴィクトリア朝まで続きました。

「Sexology the basics」[1]より(DeepL翻訳)
ヴィクトリア朝:ヴィクトリア女王がイギリスを統治していた1837年から1901年の期間

中世キリスト教では、いわゆる子作りを目的としたセックスはいいけど、快楽を目的としたセックスはダメ。もちろん同性愛も禁止。

考えるに、キリスト教という権力が、快楽のセックス、あるいは同性愛のセックスという、生死に関わらないある種のエンターテインメントをもし許してまうと、民衆への支配が効かなくなってしまう。それを恐れてのことではないかと思われます。

性の解放?(20世紀後半)

1960年代から70年代にかけて(中略)、セックスのタブーを解き、より自由な性を手に入れるという、大きな解放運動がありました。
(中略)残念ながら、同性愛者の性的自由は、1980年代初頭にHIV/AIDSの流行によって再び減衰してしまいました。
(中略) 世界保健機関(WHO)による国際疾病分類(ICD)では、1990年まで「同性愛」という診断が精神疾患として残っていました。

「Sexology the basics」[1]より(DeepL翻訳)

性の解放運動により、キリスト教的な性の抑圧・タブーは緩められ、同性愛が認められ始めたり、経口避妊薬(ピル)が欧米で使われ始めたのもこの頃だそうです。

一方で同性愛に関しては、HIV/AIDS流行により「谷の時代」があった。1990年までWHOで同性愛が精神疾患とみなされていたとは、現代の目線から見たとき、驚きというほかありません。

HIV等の社会や個人にとっての「脅威」が生まれるとき、病理のみを悪とみなすのではなく、人間の性質(ここでは同性愛)までを悪とみなす。そのような力を、社会権力が持ちうる、あるいは人が集まると持ちうる、ということは覚えておきたいことです。

現代の性、未来の性?

そして現代におけるここ10年ほどは、LGBTQやセックスポジティブといった性のあり方、価値感への社会的包摂が進みつつある時代と言えると思います。禁止や抑圧が解消されていくことは、単純に良いことだと思います。

ただその一方で、今回、性の小史を見てきた上であらためて心しておきたいことは、現代の性にまつわる潮流も、時代的な面、社会的な面からの性の捉え方の1つに過ぎないのだろう、ということです。

現代の潮流こそが「性の真のありかた」ではなく、時代によって、社会によって、性の捉え方・用い方はそれぞれに存在する。それくらいの気構えでいた方が、性の「科学」に必要とされる、確かな積み重ね、普遍的なものに近づけるのではないか、と思われるのです。

今から100年後、2120年代の社会において、性はどのような価値観になっているのか。生殖のためのsexと悦びのためのsexはさらに切り離され、前者は人工授精だけになっているかもしれません。AR(拡張現実)が進歩し、AI相手にsexが楽しめるかもしれません。もっと性に開けっぴろげになっているかもしれません。

そういう未来にもおいても残っているような、現代の性科学とはどんなものなのか、それを考えつつ、引き続き学んでいきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。


参考文献
[1]Silva Neves 「Sexology the basics」Routledge社
[2]Finestre sull'Arte Webサイト  (https://www.finestresullarte.info/en/works-and-artists/the-etruscans-and-sex-how-our-ancestors-made-love)
[3] Sapiens Webサイト(https://www.sapiens.org/biology/moche-skeleton-sex-pots/)
[4]
 Tales of times forgotten Webサイト(https://talesoftimesforgotten.com/2022/04/04/how-were-lesbians-regarded-in-ancient-greece-and-rome/


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