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性科学を学ぶ-その6-なぜ性科学は重要か?

今回は、「Sexology the basics」の1章”性科学とは何か?”から、『なぜ性科学は重要か?』を学んでいきます。



無用な苦悩を避けるため

臨床性科学者にとって、性生活や人間関係に悩むクライアントや患者に出会うことはよくあることです:クライアントは次のように考えています。

・自分の外陰部は変なんじゃないか。
・ペニスの大きさが十分でない。(中略)
・パートナーは自分の欲求をすべて満たしてくれるはずだと考えている。パートナーは、自分が何を感じているのか、言われなくてもわかっているはずだと考えている。(中略)

これらの苦悩はすべて、セックスや人間関係に関する世間の誤った情報によって誘発された恥、怒り、恨み、悲しみ、失望から作られています。これが、性科学という分野が非常に重要である理由の1つです。

「Sexology the basics」[1]より(DeepL翻訳、太字化は本記事による)

こうあるべきだというイメージと、現実の自分とのギャップによって、苦悩が生まれる。そしてその苦悩は、「そのままの自分でいいんだ」という自尊心を脅かすものとなってしまうのだと思います。

ただしそもそも、「こうあるべきだ」という我々の考えやイメージはどこで作られているのか。ネットを始めとするメディアや身近な人との会話を通して、あたかも「正しいと思わされている情報」によって形成されていることが少なくないのではと思います。

従って性科学はそうではなく、客観的事実に基づく性の情報を提供することで、こうあるべき自分と現実の自分との無用なギャップを小さくし、苦悩を回避する、自尊心を保つ。これが性科学の役割の1つだ、ということなのだと思います。


人を保護するため

同じ根っこの話ですが、「あたかも正しいような情報」は、自分のみならず、他者を傷付けることにもなり得ます。

現代の性科学の分野は、人々が (中略)他者から心理的に(時には物理的に)傷つけられ、恥をかかされることを避けるために、ジェンダー、セクシュアリティ、人間関係に関する正確な専門情報を提供することに貢献しています。

「Sexology the basics」[1]より(DeepL翻訳、太字化は本記事による)

性科学は確かな専門情報によって、性の権利への侵害から個人を保護する役割を果たす、このように理解しました。


100年後にも性科学は役割を果たすのか?

ちょっと意地悪な視点から。

性の「科学」というからには、普遍性や再現性が要求されると思っています。つまり現代の性科学の成果、その積み上げは、全てではないせよ、例えば100年後の社会の人々にも適応することが求められるのではないかと思います。

性科学の中身についてはまだ入り口(1章)なので何とも言えませんが、前回記事で、性科学は「生物-心理-社会モデル」の枠組みを使っている、とありました。

人の性的ふるまいにおける、生物的要因・心理的要因の2つは100年後においてもほとんど変化がないのではないかと思われます。一方で社会的要因はどうでしょうか。おそらく社会環境は大きく変化し、文化や価値観も変容を免れないと予想されます。そしてこれら3つの要因からなるモデル、そのうちの社会的要因が変化することによって、現代の性科学は100年後には使えないものになってしまう可能性が考えられます。

それでも現代に役立てば十分、という意見が出るかもしれません。それには同意します。ただ今だけ(あるいは社会環境がほぼ変わらないといえる10年程度のオーダー)に使えるのものは、科学とは呼べないと私は思うのです。

性科学が科学であるために。それは、長期的な変化を避けられない社会的要因、その中にある動的な要素を変数として織り込めるかどうか、だと考えます。人間社会にとって普遍的なもの、あるいは変容するもの、それらを丁寧に選り分けながら積み上げる、といってもいいかもしれません。そうすることで、100年後の人類は「ぶ厚い性科学」を手にすることができるのではないでしょうか。

、、と、学び始めの小僧が偉そうなことを言ってますね。ご容赦!


最後までお読みくださりありがとうございました。次回は『セックス・ポジティブ』について学んでみます。


参考文献
[1]Silva Neves 「Sexology the basics」Routledge社

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