虚言癖の溜まり場
仕事終わりに、最近お気に入りのバーでクラフトビールと煙草を燻らせながら、その場に居合わせた人と会話するのにハマっている。
実はこのバーは変わった客が集まるのだ。
この店の客は一人客がほとんどで、客の皆が虚言しか言わない。
一昨日出会った、スーツに見をまとった新卒OLと称していた20代前半の女性は、今日は30代後半の専業主婦と名乗っていた。
最近よく見る中年の男性は、印刷会社社長と言っていたが、最近は自分が勤める会社の兄弟会社の課長と名乗っている。
しかし、私を含め、顔馴染みの人もいたが、誰一人そのことに突っ込むことなく、真偽が定かではない家庭の愚痴話や会社での武勇伝を聞きながらお酒を飲むのだ。
顔馴染みの人がほとんどだが、その人がどこの誰なのかどこで何している者なのか誰一人として知るものはいない。
しかし、皆この適当で曖昧さと虚言が許されるこのメルヘンチックな空間に、安心感、居心地の良さを求めて集まっている。
だからなのか、誰一人として詮索しようとしたり、深酒をしたり、付き纏うような無益なことをするものも居ない。
その節度の良さも安心感、居心地の良さをもたらすのだう。
もしかしてこのバーの常連は演者、あるいは小説家なのかも知れない。
今日も新たな仮面を被り、バーの玄関のベルを鳴らしたいと思う。
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