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「名前をつけて愛でること」が、世代をこえて繋ぐもの

2021年12月、東京・広尾にあるEAT PLAY WORKSでトークイベントが開催されました。テーマは、「サスティナブルは元々日本に備わっていた」。

SEVEN THREE.ディレクターの尾崎と一緒に登壇されていたのは、アスリート陶芸家である山田翔太さんと、世界的にサステナビリティをリードしているノルウェー出身のコメディアン・ミスターヤバタンさん。

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左からモデレーターの坂口真生さん、山田さん、尾崎、ミスターヤバタンさん

イベントの最中、山田さんがおっしゃっていたのは「金魚真珠とお茶の世界には繋がりがある」ということ。山田さんは初めて尾崎と会った際、茶人では?と思うほど、茶道の世界と近しいものを感じたそう。

イベント内では語り尽くせなかったその共通点について、後日行った尾崎と山田さんの対談をお届けします。

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山田翔太 / アスリート陶芸家 
1998年千葉県生まれ。高校で陶芸を始め、東京都内の共同工房にて作陶。
10年間のラグビー経験をいかし、現在はトライアスロン選手として大会に出場。会社員として働きながら、 うつわにアスリートの美意識を取り入れた ”Athlete Ceramist”として、東京とフランスを拠点に活動中。


自分の見ている世界に名前をつけること=見立て

尾崎:山田さん、今日はよろしくお願いします。

山田:よろしくお願いします!先日イベントでご一緒させていただいた時にはあまり時間がなかったので、今日は色々お話できればと思います。

尾崎:ありがとうございます。
山田さん、初めてお会いした時に「尾崎さん前世は茶人だったんじゃない?」って言ってくださいましたよね(笑)。金魚真珠は、お茶の世界と通ずるものがあるって。あれがすごく興味深くて、詳しくお伺いできたらなと思います。

山田:そうですね。お話を聞いた時に、尾崎さんの感性はすごく茶人的だなと思ったんです。茶道では、専門道具ではないものを転用・活用してお茶を楽しむ文化があります。それが「見立て」。お茶碗のシミが雨が滴ったように見えることから「雨漏り」と呼んだりするのも、見立てです。
歪な形の真珠が金魚に見えることに気づき、「金魚真珠」という名前を与えたことは、まさに見立てなんですよ。

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尾崎:知らなかった……茶道には、そういう文化があるんですね。

山田:昔から日本人は不完全な部分に美しさを見出したり、名前をつけて愛でることを美徳としてきたんでしょうね。

見立てとはつまり、自分の見ている世界に名前をつけること。
その心は、今でもこうして受け継がれているんです。

愛着を育てることは、サステナブルに繋がる

山田:僕も自分のつくる茶碗を富士山に見立てて「富士茶碗」と名前をつけていますが、物に名前をつけることで、紛失や破損のリスクは確実に減ると思っています。

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尾崎:それはやっぱり、愛着が湧いてくるからですよね。

山田:うん。金魚真珠を身につけている人も、きっとそうだと思います。
見立てて名前をつけた本人だけでなく、それを受け取った人にも「名前をつけて可愛がる」という気持ちは伝染する。

器や真珠を通して愛着を繋いでいくことも、“サステナブル”に繋がっていますよね。

尾崎:なるほど!
SEVEN THREE.のあこや真珠も、市場に流通させるのが難しかったバロックパールを取り扱うことで、SDGsの目標「つくる責任つかう責任」「海の豊かさを守ろう」に通じていますが、金魚真珠と名付けて一粒一粒に愛着を持つこと自体も、サステナブルに繋がってる。

山田:そうそう!再生資源の利用とか、わかりやすく直接的なアプローチではなくても、少し視点を変えることで自分にできることって見えてきますよね。そのひとつとして、僕はお客さんに命銘(※)権を委ねるようにしているんです。

※茶道では「名」を「銘」と書きます

尾崎:命銘権を委ねる……?

山田:総称として「富士茶碗」とは名付けていて、個展では作品のひとつ一つに既に名前をつけて展示していますが、それだけだと面白くないなと思って。購入していただいたお客様には、「何かインスピレーションがあれば、その名前でお渡ししますよ」と伝えているんです。

先日も、三日三晩悩んで「生命エネルギーを強く感じるから、源(みなもと)茶碗にする」と言ってくださった方がいて。
桐箱と保証書にも、銘を書いてお渡ししています。

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尾崎:それは絶対に記憶に残るし、素敵ですね。
以前取材していただいたテレビ番組『一攫千金!宝の山』で、出演者の皆さんが好きな真珠を選び、金魚真珠のセカンドネームをつけてくださる企画があったんです。

「かぶ真珠」とか「キャットパール」とか……個性がすごく表れていて面白かったですし、刺激になりました。

山田:番組拝見しました!面白かったですよね。まさに僕がしていきたいと思っているのはああいうことで。ひとつ一つの特徴を捉えて名前をつける見立てをすでにされていたので、驚きました。

真珠も器も、お客様自身に命銘していただくことは、究極のパーソナライズになると思うんです。

「神は細部に宿る」という心を、
日本人は昔から大切にしてきた

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山田:今は色んなものの答えが簡単に手に入りすぎてしまうから、自分の目で小さな変化に気付いて、自分の頭と心を動かす見立ては大切な訓練だと思っています。

一見同じように見える物の些細な変化に気付いたり、各々の特徴を言葉にしてみたり、大昔から日本人が当たり前にしてきたことなんですけどね。お茶だけでなく、和歌や香り、色もそう。

特に色はわかりやすくて、日本人の色へのこだわりって物凄いんですよ。
例えば、平安時代の貴族が着ていた装束。重ね着している着物の色の組み合わせごとに、名前がついているんです。

尾崎:全ての色の組み合わせにですか…?

山田:うん、全ての組み合わせに。この5色をこの順番で重ね着するのが「白菊」、この順番だと「紅紅葉」というように。それはもうすごい量のパターンで……今でもその資料が残っていて、受け継がれているんです。
これはまさに、日本的な感性だなと思いました。

尾崎:すごい……そんなに昔の人たちの感性が、今も伝承され続けているんですね。

山田:「一流品は、ぱっと見誰も気づかないような細部までこだわりぬかれている」という意味で神は細部に宿るってよく言われますけど、日本人には昔からそういう感覚があったのでしょうね。
SEVEN THREE.のジュエリーも、細部へのこだわりが強いですよね。

尾崎:ありがとうございます。
真珠の品質基準が高いことはもちろんですが、使用する金具にもこだわっています。

お客様の気分でカスタマイズできるように、取り外し可能なパーツを選んでいたり、真珠とチェーンを繋ぐ土台も、しっかり固定されるものを厳選しました。

ジュエリーボックスは用途を限定しないものがいいなぁと思って、今のカタチにしています。実は、ショッパーも型から作成したオリジナルなんです。

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山田:ショッパーも型から……!それは知らなかった、素敵なこだわりですね。

歴史を辿ってみると、手に取る人を想像し、細部まで丁寧に手間をかけられる心は、僕らのDNAレベルで受け継がれているものなのかもしれないなぁと思ったりします。

尾崎:「愛称をつける」ということが、深掘りしてみるとお茶の世界や日本の歴史とこんなふうに繋がっていくとは思いませんでした……すごく興味深かったです。

山田さん、今日はお忙しい中ありがとうございました。

山田:いえいえ、こちらこそありがとうございました!
お茶も色も香りも、歴史を辿ってみるとすごく奥が深くて面白いので、ぜひまた「見立て」を通してお話しできたら嬉しいです。

【山田翔太さん 公式HPはこちら】

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Writhing:ほしゆき


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