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生きるには長すぎる「100年時代」の人生をどこまでも深掘りしていく筆致は、松尾スズキがますます凄みを増した表現者になったことを私たちに感じさせてくれる…★劇評★【舞台=命、ギガ長スW(三宅弘城・ともさかりえバージョン)(2022)】

 撮られる者と観る者、そしてその間にいる撮る者。ドキュメンタリーという表現形式の中に存在する摩訶不思議な関係性のバランスシート。危うくとも絶妙な均衡が成立したその途端、真実の上に立っているはずのドキュメンタリーには真実とは少々距離のある要素が芽生え始める。表面的にはすっとぼけたナンセンスなムードをはらみながらも、その深層に潜む社会性と哲学的な問い掛けは、作品を油断ならない要素で包んでいる。松尾スズキが2019年に立ち上げた大人計画とは別の部活動ユニット「東京成人演劇部」の第1弾公演として小演劇の聖地である東京・下北沢のザ・スズナリをはじめ全国6カ所で上演し、戯曲・シナリオ部門で読売文学賞を受賞した二人舞台「命、ギガ長ス」が今年2022年、ザ・スズナリに帰って来た。しかも「東京成人演劇部」の第2弾公演となる今回は、松尾と安藤玉恵だけだったキャストが、宮藤官九郎と安藤玉恵、三宅弘城とともさかりえという魅力的な2つのバージョンに増え、松尾は演出に専念しての再演公演「命、ギガ長スW」が実現したのだ。確かな進化を見せる中で、2つのバージョンそれぞれが生み出すこの傑作の新しい要素も見え始めてきた。真っ当な社会問題である「8050問題」と「ドキュメンタリーの欺瞞と真実」を突き付けながら、生きるには長すぎる「100年時代」の人生をどこまでも深掘りしていく筆致は、松尾がますます凄みを増した表現者になったことを私たちに感じさせてくれる。(画像は舞台「命、ギガ長スW」とは関係ありません。単なるイメージです)

 舞台「命、ギガ長スW」は2022年3月4日~4月3日に東京・下北沢のザ・スズナリで、4月7~11日に大阪市の近鉄アート館で、4月15~17日に福岡県北九州市の北九州芸術劇場 中劇場で、4月23~24日に長野県松本市のまつもと市民芸術館 実験劇場で上演される。


★阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」でも序文は無料で読めます。舞台写真はブログでのみ公開しております。

★ブログでの劇評は序文のみ掲載し、それ以降の続きを含む劇評の全体像はクリエイターのための作品発表型SNS「阪 清和note」で有料(300円)公開しています。なお劇評の続きには作品の魅力や前提となる設定の説明。三宅弘城さんとともさかりえさんの演技に対する批評、松尾スズキさんの演出や舞台表現に対する評価などが掲載されています。

【注】劇評など一部のコンテンツの全体像を無条件に無料でお読みいただけるサービスは2018年4月7日をもって終了いたしました。「有料化お知らせ記事」をお読みいただき、ご理解を賜れば幸いです。

 なお、舞台「命、ギガ長スW」は三宅弘城と、ともさかりえによる「長ス組」と、宮藤官九郎と安藤玉恵による「ギガ組」の2バージョンが上演されていますが、取材機会の関係で劇評を掲載するのは、「命、ギガ長スW(三宅弘城・ともさかりえバージョン)」の「長ス組」のみに限らせていただきます。ご了承ください。

 このバージョンではカバーできない「ギガ組」に出演されている宮藤官九郎さんと安藤玉恵さんのファンの皆さま方や関係者の方々には大変心苦しく感じております。人気公演のため取材機会も限られます。なにとぞご容赦ください。

 ただし、ブログのみに掲載する舞台写真に関しては、宮藤官九郎さんと安藤玉恵さんの出演する「ギガ組」バージョンの写真も掲載しています。文章では宮藤官九郎さんと安藤玉恵さんに言及できませんが、ブログの舞台写真でお楽しみください。


★舞台「命、ギガ長スW」公演情報

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