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多層的な意味合いの光を乱反射のように拡散させながら、らせんのように観客の心に深く刻み込まれていく問題作…★劇評★【舞台=球体の球体 Sphere of Sphere(2024)】

 子どものころから、中に何が入っているのか分からない福袋が嫌いだった。いまは中身が予告されている福袋もあるので、そういう嫌われ方をされることはあまりないのかもしれない。同じように、ガチャ(カプセルトイ)にもあまり触手が伸びなかった。ハンドルを回して落ちてきたカプセルを開けてみるまでは中身の商品が分からないシステムが子ども心にも納得がいかなかったからだ。ガチャはやがて巨大なブームとなり、転じて「自分では選べない」ことの象徴として、親ガチャ、配属ガチャ、顔ガチャなどの転用系の派生語を生むに至って、新聞記者・批評家という言葉をつかさどる職業を歩いてきた私にとっては無視できない言葉となっていった。ずっとあくどい商法だと思っていたガチャだが、人生を多少とも長く過ごしていれば、この世界はほとんどのことが、飛び込んでみなければ分からないことだらけだ。運命も何もかも…。現実には厳しい言葉でも、ひとたびこれを物語の造型にあてはめてみた時、その空間は哲学的な香りを帯びる。主人公のアーティストがガチャをモチーフに創作した現代アート、異国の大統領にまでなる運命のいたずら、フェイクに満ちた人間関係と思惑、展覧会場を劇空間に置換した作者のたくらみ。すべてが物語に絡みつき、寓話という名の現実を見せつける。造形作家でもある劇作家・演出家の池田亮が、第68回岸田國士戯曲賞受賞後初めての書き下ろし作品として発表した舞台「球体の球体 Sphere of Sphere」は多層的な意味合いの光を乱反射のように拡散させながら、らせんのように観客の心に深く刻み込まれていく問題作だ。(写真は舞台「球体の球体」とは一切関係ありません。単なるイメージです)
 
 舞台「球体の球体」は2024年9月14日~29日に東京・三軒茶屋のシアタートラムで上演された。公演はすべて終了しています。
 
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★舞台「球体の球体」公演情報

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