【インタビュー=演劇⑥】 富田靖子(俳優)& 松下洸平(俳優) こまつ座第137回公演「母と暮せば」出演(2021)
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【インタビュー=演劇⑥】 富田靖子(俳優)& 松下洸平(俳優) こまつ座第137回公演「母と暮せば」出演(2021)

 井上ひさしの構想をもとに山田洋次監督が創り上げた映画を2018年に舞台化し絶賛されたこまつ座公演「母と暮せば」が再演される。長崎への原爆投下から3年の時を経て再会した母と息子の魂の邂逅を初演で初タッグを組んだ富田靖子と松下洸平が再び舞台の上に描き出す。前回に引き続き栗山民也演出のもと、母・伸子を演じる富田と、息子の浩二を演じる松下に、再演への思いと稽古場での日々を聞いた。(聞き手=エンタメ批評家・阪清和)(写真は舞台「母と暮せば」の稽古に臨む富田靖子(左)と松下洸平=撮影・宮川舞子、写真提供・こまつ座)

 舞台「母と暮せば」は7月3~14日に東京・新宿の紀伊國屋ホールで上演され、7月19日~9月2日に九州各地の演劇鑑賞会で巡演、9月7~9日に神奈川県内の演劇鑑賞会で巡演される。

 なお、舞台「母と暮せば」は初日前日の7月2日のプレビュー公演と、8月6~9日の4日間限定の配信も決定しています。
 詳しくは下記の記事をご覧ください。
★阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」ニュース記事「舞台『母と暮せば』のプレビュー公演と配信が決定(2021)」=2021.06.26投稿

当ブログ「SEVEN HEARTS」は特別に稽古場での取材を許され、インタビュー記事に先立って先日、稽古場リポートを掲載しています。創造性あふれる芝居づくりの現場の様子をぜひご一読ください。
【Report】織物を縫い上げるように丁寧に、「稽古は役の声を見つける作業」と栗山民也、舞台「母と暮せば」再演公演稽古場リポート(2021)=2021.06.25投稿

 開幕後は、当ブログとクリエイターのための作品発表型SNS「阪 清和 note」で、舞台「母と暮せば」の劇評を掲載する予定です。ブログとnoteの更新は主にTwitterでお知らせしています。ブログ内に設置してあるボタンでTwitterをフォローして投稿までお待ちください。

★続きは阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」でも読めます(劇評など一部のコンテンツには有料のものがありますが、このインタビュー記事は無料です)

★舞台「母と暮せば」2021年公演・公演情報

 「母と暮せば」のすべてのもととなった「父と暮せば」は、戦後3年の広島を舞台に生き残ったことに罪悪感を覚え苦悩する娘を優しく見守る父親という親子の姿を描いた井上ひさしの名作二人芝居で1994年初演。
井上自身は、広島を舞台にしたこの作品に続き、長崎、沖縄と戦争の物語を書く構想を持っていたが、生前には実現せず、その構想を基に山田監督が2015年に、長崎で被爆しながら生き残った助産婦の母と、幽霊として現れる亡き息子との交流を描く監督初のファンタジー作品『母と暮せば』として映画作品を生み出した。こまつ座(井上麻矢代表)では、映画『母と暮せば』を完全な二人芝居として舞台化することを提案。山田の快諾を得て、脚本を劇団「渡辺源四郎商店」を主宰する劇作家・演出家の畑澤聖悟に、演出を栗山に依頼した。

 長崎原爆投下時に大学に登校していて遺体も見つからないまま死亡認定された息子の元医学生、浩二(松下)を亡くしてしまったことへの悲しみや悔恨が3年経ってもぬぐえない母親の助産婦、伸子(富田)は、ある日自宅で幽霊となって現れた浩二に遭遇する。



-再演が実現しましたね。

【富田】 再演が決まったのは初演の東京公演の終わりごろでした。すごく嬉しかったです。初演の時は大丈夫なのかなあというのが正直なところありましたので、再演が決まったと聞いたときに、「ああ、大丈夫だったんだ」って。すごくホッとしました。

【松下】 僕も同じタイミングで聞かされていたと思います。嬉しかったですが、それと同時に、とてもハードな作品で二人芝居でもあるので、それまでちょっと気が抜けない。いつかこの作品をやる日がまた来るんだと思うと、そわそわしていましたね。それまでちゃんと芝居を続けていなきゃ、生きていなきゃいけないという使命感が芽生えて、気を引き締めたのを覚えています。


-使命感ですか?

【松下】 もう一回やるんだから、それまでまたしっかりいろいろ経験して再演の「母と暮せば」を、胸を張ってやれるようにこれからちゃんと生きていかなきゃいけないなという使命感です。


-初演だからしっかり立ち上げなきゃいけないという使命感が演者だけでなくスタッフにも全員がある中で、再演のことも加わったわけですよね。

【松下】 初演が終わってそれ以外の仕事しながらも、頭のどこかで次の「母と暮せば」のことを考えてしまう。気が抜けない2年半でした。


-そして再演の稽古場。それぞれの役はすぐに戻ってくるものですか?

【富田】 ええ、それは、もう、やるって決まっていたので。それに、もう一回練り直しをする必要がないように、初演の千穐楽と同じぐらいのものを(再演の)稽古の頭に持ってこられるようにしておきたいなと考えていました。マイナスにならずにそこから上積みできるようにということは考えました。


-そういう強い意識があったんですね。

【富田】 初演の千穐楽が終わってから、これしか考えていませんでした(笑)。この作品をやったときに体のどこに痛みが来るのかとか、自分にいかに体力がないか、とかいうことは重々分かっていたので、そこを鍛えるところから始めました。自分の精神的な弱さをどうクリアしていくかということもすごく分析していましたね。あと、この間の2年半、映像でも舞台でもいろんな仕事でいろんな役者さんと組んで、とにかく経験値を積んでいこうと思っていました。松下さんが義理の息子を演じたNHKの朝ドラ(連続テレビ小説「スカーレット」)で週にいったい何回東京-大阪を行き来するのっていうぐらい大変な時期がありましたけど、「母と暮せば」の再演が決まっていたので、これを乗り越えられないとダメだと思ってがんばってやっていました(笑)。なんかそんなこと考えながら迎えたっていう感じです。

【松下】 僕もすぐに戻ってきた気がしますね。再演の難しいところは、きっと初演を超えていこうという思いが強すぎると、から回って(空回りして)しまうこともあるので、そこが再演の怖いところだと思うんですよね。僕の場合プラスにしていこうと思うとから回ってしまうから、マイナスにはしないぞと思っていました。


-再演の難しさはそこですか?

【松下】 初演には初演でしか出せない良さって絶対あるので、初々しさ、手探りな姿っていうのが魅力になっていくと思うんです。再演はやっぱりどうしても初演より面白いものを(創り上げたい)、良くしよう良くしようと思い過ぎると、その初々しさや作品に取り組む姿勢とかが変わってきてしまうような気がするんです。再演ではあるけど初演の気持ちでやる。その塩梅が再演はすごく難しいなと思います。


-実際どんな雰囲気でしたか?

【松下】 僕ら自身も2年半でいろんなことを経験しましたけど、栗山さんも同じように2年半を過ごしてきて、やっぱり初演ではおっしゃらなかったこと、初演ではしなかったこともあったんです。栗山さんがよりリアルなものを求めているから、いつしかあのころよりも面白くという恐怖(強迫観念)はどこかに行ってしまって、今はなんか、新しい「母と暮せば」を創っている気がします。


-栗山さんがおっしゃることで、前回と一番違うことって何ですか?

【松下】 「よりリアルに演じてほしい」ということです。前回ももちろんおっしゃっていたことではありますけど、その表現方法として、あまり大きな声を出さないでほしい、大きな声で芝居しないでほしいと言われています。


-どんな狙いが込められているんでしょうか?

【松下】 栗山さんは「これは庶民の話なんだ」とよくおっしゃいます。ただ、扱っている題材がすごく大きいし、戦争、原爆とメッセージが強いので、あまり大きい声でやると、庶民の話ではなくなってしまうということなんだと思います。

【富田】 私がおでこのところに「この声の大きさで大丈夫でしょうか?」とつけているような感じで(笑)。「とっても不安です」とでもいうような(笑)。

【松下】 お互い探り合いながらですけど、もっと体がなじんできたら、もっともっとリアルな長崎のあの日の景色が見えるんじゃないかなって思っています。お客さんの耳が僕らの方に向いてくれることを信じて僕たちはやっています。


-二人芝居という特別な芝居でもありますしね。

【松下】 栗山さんは常々おっしゃいます、二人芝居はすごく難しいと。お客さんは舞台上に10人、20人いればいろんなところを観て楽しいですけど、これはなにしろこの2人しかいませんのでね。たくさんの人にずっと観続けてもらうためには、どうしても俳優としての観ててねっていう思いが、出てしまう。でもそうではなくて、観てくれていると信じて僕たちは集中して芝居をするという、その度胸を付けていきたいと思っています。


-前回の初演の稽古で栗山さんが盛んにおっしゃっていたのは、幸福感と緊張感。親子で話せる幸せな気持ちと、幽霊だからいつ消えてしまうかという緊張感。そこはすごくせりふの出し入れとか難しいだろうなと思って稽古を見ていたんですが。

【松下】 ええ。すごく幸せなシーンと、その幸福をスパッと切り裂くような空白のシーン、この芝居はそれがこうなってこうなって、こうなってこうなってって交互に続いていくんですよ。

【富田】 そこはすごく明確ですよね。

【松下】 すごく楽しそうにしゃべっていたら、(その直後のシーンで)栗山さんは急に「ここは無というか空虚な瞬間を作ってほしい」とおっしゃったりされます。

【富田】 楽しそうに話しているその瞬間になにかパンっと空虚な時間にしてほしいということなんです。

【松下】 それがあの日の長崎で起こったことだと思うんです。みんなと楽しくわいわいおしゃべりしたり、日常を過ごしたりしていたその瞬間、いきなりそれがどかんとなくなってしまった。会話劇の中でそれを体験してほしいという栗山さんのメッセージなのかどうかは分からないですけども。幸せな瞬間が一瞬にしてなくなる。楽しそうに話していたのに痛みみたいなものを母やお客さんに付き付ける。それが何度も何度も繰り返される芝居なんだと。そういうのをすごく繊細に作っていますね。

【富田】 このせりふの後に笑ってというシーンがあります。それで、その笑いの後にそういう厳しい瞬間がパンっと入るので。コントラストが今回すごく強いです。自分の中でそのコントラストを沁み込ませるという作業をやっている感じです。だから時折、怖いと思うときがあります。なんでもないシーンでもそういうことがあります。


-母の伸子は厳しい状況に置かれていますが、助産婦ということもあり、お客様に希望を感じさせる存在でもなければならないですね。

【富田】 そこは栗山さんとこうちゃん(松下さん)がいるから、何の心配もしていません(笑)。もし希望を感じてくださるのであれば嬉しいです。自分が何者でもなくて、稽古場に行っていろんなことをしながら肌で感じていく、そして劇場に行ってみなさんが空気を感じてくださる。それがどこか希望につながれは嬉しいです。


-松下さんは舞台というフィールドでの長年の活動によって認められ、その後朝ドラなどの映像作品でのブレークを経て、また「ベイジルタウンの女神」、「カメレオンズ・リップ」、そして「母と暮せば」と、舞台というフィールドに帰ってきました。いまあらためて、舞台という場所をどんな風に感じていますか?

【松下】 (以前と何も)変わっていないです。いっしょですね。何も変わっていないです。むしろ変わらないでい続けるこの舞台という場所があるから、僕も変わらずにいられる。僕は舞台に立つことで日々芝居とは何なんだろうということを学んでいる、演劇はそういう場所です。芝居をもっと勉強して、それを活かせるところなら、テレビでも活かしていきたいし、テレビで経験したことを舞台で活かすというキャッチボールをしたいです。今は舞台と映像の現場とを行き来しながら、お芝居というものの楽しさや難しさをキャッチボールしている感じですね。これからも呼んでいただける限り舞台に立ち続けたいです。舞台は自分を育ててくれた場所なので、これからも大切にしていきたいと思います。


 舞台「母と暮せば」は7月3~14日に東京・新宿の紀伊國屋ホールで上演され、7月19日~9月2日に九州各地の演劇鑑賞会で巡演、9月7~9日に神奈川県内の演劇鑑賞会で巡演される。


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大阪市生まれ。関西学院大学卒業後、共同通信社で31年間記者活動。2013年秋、円満退職してエンタメ批評家、インタビュアー、ライター、ジャーナリスト、MCとして独立。映画、演劇、音楽、ドラマ、漫画、現代アート、ネット文化、旅、食と幅広くカバー。横浜在住。活動拠点は渋谷・道玄坂。