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<エンタメ批評家★阪 清和>ミュージカル劇評数珠つなぎ

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阪清和が発表したミュージカルに関する劇評をまとめました。ジャニーズ関連のミュージカルはここには収容しません。音楽劇を入れるかどうかは作品ごとに判断します。
いま大きな注目を集める日本のミュージカル。臨場感あふれる数々の劇評をお読みいただき、その魅力を直に… もっと詳しく
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異常な出来事に人間が本来持っている可能性や優しさで向き合った人々の姿を通じて絆の本質をえぐり出したミュージカル。トップ俳優たちが「全員が主人公」の物語を演じ、演劇というものの新しい可能性さえたぐりよせた…★劇評★【ミュージカル=カム フロム アウェイ(2024)】

 「9.11」。この数字の羅列、あるいは日付が特別な意味を持つようになったのは、あらためて説明するまでもなく米国東部時間2001年9月11日朝(日本時間11日夜)に起きた米中枢同時多発テロからである。主な標的となったニューヨークのワールド・トレード・センターやワシントンの国防総省ペンタゴンのほか、世界中の様々な場所での、それぞれの人の「9.11」があったはずだ。テロの手段として旅客機が使用されるという特殊性から、さらなる被害を防ぐため、テロの直後から領空が閉鎖された北米地区で

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有澤樟太郎のしなやかな鋼のような唯一無二の精神性と宮野真守の絶対的な存在感の対比見事、アートフルな物語の世界をよりスタイリッシュなものに…★劇評★【ミュージカル=ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド(有澤樟太郎・廣瀬友祐出演回)(2024)】

 悪が栄えるには栄養が必要だが、残念ながら、社会がふんだんに提供してくれる。どんな邪悪な独裁者でも社会にうずたかく積もったほこりや不満という栄養を吸い取って大きくなっていく。だからどんな時代でも悪がはびこっていくことは避けられないが、それに対抗する崇高で高貴な精神を社会に絶やしてはならない。そしてそれは永遠に続いていかなければならない。たとえ少年少女時代に読んだ漫画でそのことを知ってピンと来ていなくても、いつか社会に出た時、そのことの大切さを思い知ることになる。日本人の精神構

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ジョジョが持つ身体性をミュージカルが明確に可視化、松下優也のまっすぐさと優しさ、宮野真守の破壊力、東山義久の工夫が物語を格調高いものに… ★劇評★【ミュージカル=ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド(松下優也・東山義久出演回)(2024)】

 無国籍な漫画はたくさん生み出してきた日本だが、欧州の歴史の中で生まれも育ちも外国の登場人物たちの、西洋的な教養の上に立つ宿命の物語を、ディティールにこだわって、何代にもわたって描き続ける―。連載開始当時、そんな漫画をかつて見たことがなかった。だから海外のMANGAファンたちがいち早くその価値に気付いたのは当然だとしても、この漫画を支えてきたのは漫画というものの可能性を信じていた日本の多くのファンたちだ。物語や世界観だけでなく、「あしたのジョー」や「北斗の拳」によって飛躍的な

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望海風斗の振り切った熱演をはじめ、キャストとスタッフたちの覚悟なくして、これだけの屹立した作品は生まれなかったに違いない…★劇評★【ミュージカル=イザボー(2024)】

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舞台という場所は何でも起こりうる魔法の場所、山崎育三郎の艶やかな奮闘でミュージカル愛にあふれた人間賛歌に説得力…★劇評★【ミュージカル=トッツィー(2024)】

 苦し紛れの選択が人生を切り拓いてしまったら? それだけでも大変なのに、それを守るために次々といろんなことが起きて物事がややこしくなっていったら? 米国のコメディドラマの典型のような展開の大いなる金字塔と言えるのが1982年(日本では1983年)公開の映画『トッツィー(Tootsie)』である。ダスティン・ホフマンが女装して売れない役者とソープオペラのスターの間を行ったり来たりする物語の中には米国的なジョークや、今日のジェンダーにつながる味わい深いせりふも散らばっており、単な

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禁断の想い人「不滅の恋人」とのもどかしい関係性を中心に、世間の無理解や難聴などとの闘いも散りばめてドラマティックに織り上げた作品に…★劇評★【ミュージカル=ベートーヴェン(海宝直人・佐藤隆紀出演回)―(2023)】

 ポップスの世界では「ジュークボックスミュージカル」というジャンルがあって、ひとりの音楽家の音楽をふんだんに使って、あるいは効果的につなぎ合わせて、ミュージカルを創り上げてしまうケースがあり、その成功例もまた多い。ミュージカルの内容も、その音楽家や歌手の伝記のようなものから、音楽の世界観を借りて新しい物語の中に定着させるタイプのものまで多彩な作品が世に送り出されている。しかしクラシックの場合、楽曲のふり幅が広く、そもそも現代のミュージカルの音楽とは演奏されるときのシチュエーシ

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劇団期待の森彩香と小林啓也、ドラマ性に富んだ多くの示唆を持つ物語を多彩な感情表現で構築…★劇評★【ミュージカル=シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ(森彩香・小林啓也出演回)(2023)】

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せりふや歌に説得力、NY帰りの高野菜々と声優で人気の畠中祐が織りなすメリハリのきいたミュージカル…★劇評★【ミュージカル=シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ(高野菜々・畠中祐出演回)(2023)】

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魅惑的な香りに満ちた物語に仕立てたピカレスク(悪漢)ロマンの中で、全身を表現の手段に従えた古川が躍動している…★劇評★【ミュージカル=LUPIN ~カリオストロ伯爵夫人の秘密~(古川雄大・真彩希帆・立石俊樹・真風涼帆出演回(2023)】

 近年テレビドラマなどにも頻繁に登場し活躍の幅を広げている古川雄大。しかしやはり彼の真骨頂は、劇場という広大な空間を支配し、恐るべき求心力を発揮できるミュージカルの世界だ。若くして名だたる名作ミュージカルもものにしてきた古川が新たな地平を獲得したと言えるのが現在上演中のミュージカル「LUPIN」だ。金持ち相手に華麗な盗みを繰り返す孤高の義賊の洗練された生きざまと狂おしいほどの盗むことへのこだわりを、したたかに計算された道具立てと外連味たっぷりの舞台設定の力も借りて、鮮やかに描

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ミュージカルは「のだめカンタービレ」をさらに自由に解き放ってくれる世界だった。やっぱりのだめは上野樹里…★劇評★【ミュージカル=のだめカンタービレ(2023)】

 音楽を演奏したり創ったりすることの原初的なよろこびを私たちに感じさせてくれた「野生のピアノ少女」のだめと天才指揮者の卵、千秋との大冒険は、漫画、アニメーション、ゲーム、実写ドラマ、映画と限りなく拡大し、ついにもっともふさわしいと思われるミュージカルというフィールドにまでにまでたどり着いた。しかも一貫して実写ののだめを担ってきた上野樹里が出演しての舞台版のだめワールドであるミュージカル「のだめカンタービレ」はのだめやそこに流れる音楽たちをさらに自由にし、解放してくれる世界だっ

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対立と融和の米国史にあふれる同時代性。石丸幹二・井上芳雄・安蘭けいが綴る一大絵巻…劇評★【ミュージカル=ラグタイム(2023)】

 まだジャズが成立する前に、黒人たちが模索していた音楽がある。それは「ラグタイム」。さまざまな方法で裏拍を強調することである種のずれを生み、独特の浮遊感を聴く者に感じさせる手法で、その後のジャズの成立、隆盛にも大きな影響を与えた。まるでこの手法を使ったような方法で、白人、黒人、移民と米国を構成する3つの要素が絡み合いながら現代へと変遷してきた歴史を綴った一大叙事詩のミュージカル「ラグタイム」がカナダでの世界初演から実に27年にしてようやく、日本人キャストによる日本初演として上

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関係性に潜む真実。繊細な演技と歌、ピアノ演奏があいまり、俳優たちの原初的な才能とこれからの可能性を同時にきらめかせるような舞台に昇華…★劇評★【ミュージカル=スリル・ミー(尾上松也・廣瀬友祐出演回)(2023)】

 日本では犯罪の名前を人の名前で表現することはほとんどない。しかし米国をはじめとした欧米では、「〇〇殺人事件」というように犯人の名前を冠して事件名とする例がとても多い印象がある。はじめは「シカゴ殺人事件」と呼んでいたとしても、やがてはその犯人のキャラクターや犯行の特異性に注目が集まるようになると、名前が冠されることは多々ある。同姓同名の人への風評被害という懸念はあるにしても、そういった例が多いのが実態である。約100年前に米国シカゴ郊外で起きた誘拐・殺人事件もまた「レオポルド

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生きることの力強さと輝き。再演重ね備わってきたオリジナルミュージカルの風格…★劇評★【ミュージカル=生きる(市村正親・上原理生出演回)(2023)】

 「生きる」。この物語が世界中の人々の心を打つのは、よく練られた美談だからではない。死を目の前にして偉業を成し遂げた英雄譚だからでもない。監督の黒澤明自身も橋本忍や小國英雄と脚本を立ち上げながら、いかにこの物語を美談のように感じさせないかに腐心したというから、やはり肝心なのは死の恐怖に抗いながら進んだ主人公の美しさではなく、人生の最後の最後に短いながらも確かに歩んだ主人公の力強さなのだ。つまりは、生きることの輝きなのである。2018年に世界で初めてミュージカル化されたことで、

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ないがしろにされる感性や文化、庶民がユーモアや希望を忘れずに戦争という時代に立ち向かった軌跡鮮やかに…★劇評★【舞台/音楽劇=きらめく星座(2023)】

 太平洋戦争のころの日本の庶民の暮らしがどれほど悲惨で大変だったか、焼夷弾がどれほど恐ろしいものだったかについては親や、親戚、近所の大人から嫌というほど聞かされたが、祖父母からは、「楽しいこともあったんやで」と思わずクスっとしてしまうようなエピソードもたくさん聞かせてもらった。それは何も大人同士で子どもに対する戦争教育の役割分担をしていたからではなくて、本当に、そして現実に、楽しいことと悲しいことがあざなえる縄のように玉石混交していたに違いない。統制経済下の暮らしをたくましく

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