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女優同士のマウンティングにニヤリ、監督の思惑にヒヤリ。誰ひとり置き去りにせず混迷の渦を見せる井上ひさしの底力光る…★劇評★【舞台=キネマの天地(2021)】

 井上ひさしの物語の中には物語がある。それは言葉通りの「劇中劇」であったり、過去の回想や思い出話だったり、それはそれはさまざまなかたちで物語が入れ込んである。それが互いに作用してさらにもう一つの物語を産み出すのだから、面白くないはずはない。しかもこの舞台「キネマの天地」の場合、この入れ子細工のような構造はさらに複雑になって、物語の中の登場人物や観客を魅惑的に惑わせていく。普通はこんなに入り組んでいると、何を信じてよいのか分からなくなるものだが、井上ひさしの設計図に破綻はなく、私たちに十分な理解をもたらしながらだれひとり置き去りにせず、混迷の渦の壮絶さをきちんと伝えてくれるのだ。昭和初期の映画業界ものという一番大きな入れ物が、その混迷ぶりを面白おかしく包んでくれる作用をするし、人間関係がミステリアスな展開をその中に呼び込んでくる。登場人物が話すせりふがどこか芝居かがっているのも計算のうちだろう。各世代の芸達者を集めた演出の小川絵梨子の眼力にも拍手を贈りたい。(画像は舞台「キネマの天地」とは関係ありません。イメージです)
 舞台「キネマの天地」は6月10~27日に東京・初台の新国立劇場小劇場で上演された。公演はすべて終了しています。

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★舞台「キネマの天地」公演情報=公演はすべて終了しています

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