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少年サッカーから怒鳴り声をなくそう

衝撃の光景

 息子の少年サッカーに保護者として関わるようになってから一番衝撃を受けたのは、ピッチに響き渡る怒声や罵声でした。

まだ低学年である2年生の試合なのに、息子のチームに限らず全体的にコーチ陣や保護者の声が大きく指示も多いのですが、それ以上に大人の私が言われたとしても凹んでしまうような暴言や罵倒の多さに衝撃を受けました。

 ベンチから大声で延々と指示を出し続ける大人、子どものミスを罵る大人、罰走、説教、そんなことが繰り返されていることに驚きました。

 これは少年サッカーだけでなく中学や高校に行っても続くようで、最後は嫌になってサッカーをやめてしまう子どもが少なくないと聞きます。

「PASSION 新世界を生き抜く子どもの育て方」という本の中で著者は日本のスポーツを「修行」と表現しています😭。

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PASSION 新世界を生き抜く子どもの育て方 / 幸野健一著, P120

罰走ってなに?

 私は息子の練習を見に行くことはほとんどありませんが、パパ見に来てよと言われてグラウンドに行ってみると、監督が指示した課題をクリアできない子どもに当然のように罰走を命じていました。

 息子を含め、ミスをしてグラウンドを無表情で走る子どもたちの顔を見て暗澹たる気分になりました。

 誰だって色んな技を試してみたいよね。ゴール入れたいよね。試合に勝ちたいよね。失敗を何度も繰り返さなきゃ成功できないことなんて大人が一番わかってるはず。

 でも、大人が子どもの失敗に罰を与えてしまったら、罰を受けないことが目的に変わってしまう。

 子どもは失敗しそうな挑戦を避け、失敗を誤魔化すことを覚え、仲間の失敗を責めるようになるでしょう。

 そして、罰を与えられるせいで「失敗」が勇気と挑戦の結果ではなく、「恥ずかしいこと」「やってはいけないこと」だと刷り込まれる。

 これは大人の罪です。

 心だけではありません。身体も壊してしまう。

大人のためのサッカー

 そこにスペースあるだろ!こっちへ動け!そこじゃない!どこ見てんだ!

 試合中ずっと大声でこんなこと言われ続けたら我々だって嫌になるでしょう?サッカーやフットサルを趣味で楽しむ大人のみなさん、どうですか?

 私が見たほとんどの試合で聞こえてきたのはコーチの声ばかりで、子どもたちの声じゃない。それでいて子どもには「声を出せ!」って怒鳴ってる。

 あれは完全に大人のための試合です。子どものためではない。(これまで3年間でたった一度だけ、子どもたち同士で声をかけあい監督がほとんど指示を出さないチームを見たことがあります。そのチームは恐ろしいほどスマートな戦い方をしていたが、そんなチームはレアです)

 どうして少年サッカーにはこんなにも大人が前に出てくるのだろう?

 失敗を繰り返したり動きの悪い選手がいると、他の子どもの前で「ダメだなぁあいつww」など嘲笑ったり、バカにする言葉を口にする指導者までいる。ベンチでそれを聞く子どもたちが何を思うのか想像しないのだろうか?

 練習時間もかなり長い。朝練や午後練をほぼ毎日やって週末も試合だ。まだ低学年なのに足を疲労骨折していた同級生もいる。

サッカーの自由はどこへ

 サッカーは他のスポーツと比較して選手が自由に動ける数少ないクリエイティブなチームスポーツなはずのに、日本では子どもがサッカーチームに入るといきなり自由を奪われ怒られてばかりいるように見える。息子はそれを「みえない糸で縛られている」と表現した。

見えない糸

 学校で休み時間に「サッカーをやろうぜ!」とワクワクする気持ちや、「ボールを取られたら取り返すぞ!」「ゴール決めるぜ!」そういった胸の中から弾け出すような気持ちを引き出すのではなく、完全に蓋をして子どもをTVゲームのように動かそうとする大人が多いのはなぜだろう?

 私はサッカー経験者ではないため、まずは少年スポーツに関する多くの書籍で情報を集めることから始めたのですが、指導者の安全意識の欠如による怪我、事故(死亡や障害)、暴力暴言による子どもへの虐待、それが原因による自殺など様々な事例を知ることになりました。それらは保護者として寒気がするような事例ばかりでした。

 子どもを失ったり、一生残る障害が残ってしまうような怪我をした子どもたちの親御さんの気持ちを考えるだけで胸が痛くなります。

 いったいこの国のスポーツはどうなっちゃってるの?

 その異常さは世界人権団体にも告発を受けている。

 柔道にいたっては、世界で日本だけ子どもの死亡事故が起きている。

お手本はどこにでも転がっている

 その一方で、大学の研究者レベルで最先端のスポーツ科学、スポーツ哲学を育成に反映しようとする指導者や、サッカー強豪国の育成を学び、日本人の性質に合わせた指導方法を研究、実践し続ける情熱的な指導者もたくさんいることも知りました。

 もしいま日本の育成世代の指導方法がベストなら日本は世界をリードしているはずですが、FIFAランキングを見れば一目瞭然。世界をリードしているのは強豪、本場と言われる欧州や南米の国々です。彼らが子どもたちのサッカーで大切にしていることから学べることは多いはずです。

 「中野吉之伴 著:ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」の冒頭では、ドイツのサッカー育成についてこう紹介されています。

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 ワールドカップファイナリストの常連であり、先日UEFAチャンピオンズリーグ 2019-20ではバイエルンミュンヘンが優勝したドイツですが、2000年に大きな挫折があったそうです。

 いまの日本のように大人が勝利至上主義に陥り、「走ること」「戦うこと」「ミスをしないこと」ばかりを子どもに求めた結果、たくさんの子どもがサッカーを離れてしまった。

 「子どものサッカーは大人の縮小図ではない」「子どもたちはサッカーを楽しむためにグラウンドに来ている」

 2001年以降、ドイツサッカー連盟はこれを理念に掲げ、年代別の適切なトレーニング方法や、公式戦の日程やしくみ、子どもの体調管理に関することまでガイドラインを定め、全国へ広めた結果がいまの強さに繋がっているといいます。

 ちなみに、ドイツは1980年代から子どもにヘディングをさせていないそうです。

「2008年に池上正さんは自著『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』のなかで、当時指導者として活動していたYMCAで子どもへのヘディング指導を中止した経緯を明かしている。大学の先輩で長くドイツに留学していた祖母井秀隆さんから「幼児はもちろん小学生でもヘディングするなんてありえない」と言われた」


SNS時代の分断

 インターネットメディアは使えば使うほど行動ログが蓄積され、自分の元にあつまる情報はどんどんパーソナライズされるので、見たい情報、知りたい情報ばかりが集まるようになります(たった一度検索しただけでも広告が検索内容に関連したものに変わる)。

 私の場合は、日本の少年サッカーや育成年代の様々な問題点を学ぶなかで、共感できる情報には「いいね!」を付けるし、共感できる発言をしている人と繋がることもできました。

 でも、そこで出会う人々は自分の思想や信条の近い人ばかりなので、結果的に自分がネットワーク上で目にするものは共感できるトピックで埋め尽くされ、自分に都合よくフィルターされた心地よい世界が勝手に出来上がってしまいます。

 これがソーシャルネットワークやネットワークビジネスの核となるコンセプトである以上避けることはできないし、その良い面は否定しません。

 しかし、逆の立場や異論を唱える人々とは距離が離れ交わることすら無くなっていきます。私だって、たとえ自分に対してではなくても、自分が問題意識を持つトピックに対して明らかに納得のいかない反論を見るのは気持ちの良いものではない。

 でも、社会の中に存在する様々な問題を解決するためには、正確なエビデンスを集め、様々な立場の人々とも深く議論し、時には説得やお願いをする必要も出てきます。

 サッカーも同じだと思いますが、ピッチで実際に相手チームと対峙しなければ分からないことがたくさんあるだろうし、ゲームを進めながら戦略を変更する必要も出てくるでしょう。

 それは重々わかっていても、普段共感できる情報にばかり接しているために現実世界とのギャップに絶望を感じることが多いのです。

 それでも、私はサッカー少年の親として、明らかに異常だと思うことには声をあげたいと思っていますし、そういう仲間が増えて欲しいと思っています。

 息子から教えてもらったこの素晴らしいスポーツの未来は明るくあって欲しい。子どもたちにはサッカーをいつまでも楽しんで欲しい。

#少年サッカーから怒鳴り声を無くそう

 少年サッカーの指導に関わるみなさん、いち保護者からの提案です。

 まずは最初の一歩として「子どもを怒鳴るコーチング」やめませんか?

 すでにバレーボールでは始まっています。

↓このビデオ、必見です!出てくる監督の声と表情、ピッチでたくさん見かけます。


 何試合かに一度でもいいです。声を出したい気持ちをぐっとこらえて、子どもたちだけで考えさせてプレイさせてみませんか?その様子、見てみませんか?

 小学生のうちは、チーム全員が試合に出られるようにしてみませんか?

(いつも決まった選手で戦うよりも、選手にはるかに高い知的負荷がかかるはずです。その経験は大人になっても役に立ちます。)

 そうすれば、きっと将来、年齢性別をこえて僕らと一緒にサッカー(プレイでも観戦でも)を楽しんでくれる素敵な大人がもっと増えるんじゃないかと思うんです。理想主義すぎますかね?


「まずは子どもをしあわせにしよう。すべてはそのあとに続く」A.S.Neill  

 フットボールの母国、イギリスの教育家の言葉です。


参考図書:
「島沢優子 著:部活があぶない, 桜宮高校バスケット部体罰事件の真実 」
「池上正 著:サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法」
「林壮一 著:間違いだらけの少年サッカー~残念な指導者と親が未来を潰す」
「中野吉之伴 著:ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」
「菊原志郎、仲山進也 著:サッカーとビジネスのプロが明かす育成の本質」
「ネルソン松原 著:生きるためのサッカー」
「ロベルト・ロッシ:サッカー ”ココロとカラダ” 研究所」
「幸野健一 著:PASSION 新世界を生き抜く子どもの育て方」
「掘真一郎 著:ニイルと自由なこどもたち」




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