【読書感想文】 『おとなになるってどんなこと?』 吉本ばなな 著
9月から参加している社会人向けの人類学ゼミ(メッシュワークゼミナール)で行うフィールドワークの下調べとして、テーマ「大人とは誰か(仮)」に関連すると思われる書籍を読んでいる。
■友人から借りパクしていた『キッチン』を読んで感動した
この本を手に取ったのは、友人が吉本ばななさんの『キッチン』を貸してくれて、数年経った頃にようやく読んで感動したその余韻がまだ残っていたくらいの時期だったはず。
今となっては、なぜあの本を借りたのかよく覚えていない。まだ自分が本を読めなかった頃。その友人から直接勧められたモノがそのまま自分のお気に入りになるようなことはなかったけど、読書という行為は彼から教わったのだと思う。
別に直接読み方を教えてもらった訳ではない。ただ人生ではじめて出会った、よく本を読み、よく本について話す人だった。
彼の話には独特の奥行きがあって、直接的に本について語らないときも、小説や詩などの文学的な背景がそこにあるように感じられた。そんな広がりのある世界に憧れを覚えたことが、自分が本を読むようになったきっかけとなったのだと思う。
当時は本を読むことを、“大人になる”ための条件のように思っていた。誰にとってもというわけでなく、あくまで自分にとってだけど。今もまだ大人になりたくて本を読んでいるのかもしれない。
(『キッチン』はその後おそらく返せたはず、たぶん)
■「大人になんかならなくっていい、ただ…」
『おとなになるってどんなこと?』のまえがきでは、このタイトルの問いに答える前に、吉本ばななさんは以下のような断りを入れている。
「ただ自分になっていってください」という言葉に、以前読んだときも強く感銘を受けたことを思い出した。手元にあるのは2015年7月25日発行の第2刷なので、たぶん最初に読んだのは8年くらい前のこと。頭の中ではもう出典不明の言葉となってしまっていた。見つかって嬉しい。
■大人になることは、他者を思いやること
「第一問 おとなになるってどんなこと?」の章では、いつ“おとなになった”のかということが、吉本ばななさん自身の幼少期の経験にもとづいて記されている。
保護者代わりだったお姉さんの独り立ちや、クラス替えで親友と離れたことをきっかけとして、「ある意味全てに関して受け身の状態に」なっていったという。そうして憂鬱な毎日をくりかえしているうちに、身体に不調をきたし、病院へ通うことになる。
学校を休む代わりに、病院で痛い点滴や採血をされる事実に「朝から怒り狂っていた」最後の検査の日。付き添ってくれた、お父さんと親戚同然のおばあちゃんと、病院の向かいにあるそば屋に向かおうとするときに、気づきは訪れる。
■子どもの自分を抱えたまま大人を生きる
そして、お父さんを亡くしたときのことを振り返りながら、子どもから大人になることが、どういうことなのかについて語る。
子どもの自分を大切に抱え続けておくことは、身を置く環境によって難しい人もいるだろう。それでも、自分の子どものような感情を「ないことにしないこと」はできるだろうし、それはとても大切なことだと感じる。
そういえば、吉本ばななさんの小説は『キッチン』以外はまだ読んだことがなかった。いつか他の本も読んでみたい。
■おわりに
上記の「子どもの自分」への眼差しは、フィールドでの調査において、自分の感情の揺れ動きも含めて観察する人類学的なアプローチとも少し似たところがあるかもしれない。
『ちくまプリマー新書』は、主に中高生を対象読者とする新書だと思うが、大学を卒業して初めて人文学に触れるようになった自分にとっても読みやすくて、各分野の取っ掛かりを掴むのにとても役立っているし、感謝している。改めて読み返しながら、自分が手に取ったこのシリーズの本はどれも、著者はもちろん、編集者や装丁家の方々など関わる人たちによって大切に作られているように感じる。
こういう本を若い人たちに届けるのは、素敵な大人の仕事だと思う。
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