#ほぼノンフィクション
【ショートストーリー】31 メトロに響く透明
タービンの唸るような響きに、動き出す車体の軋む音が重なる。走行音と同じリズムが身体に伝わってくる。
僕は長男と地下鉄にいた。
ベビーカーのとびでたグリップをしっかりと握る。二歳の長男は僕の気持ちを知ってか知らずか、頬をサイドバーに突っ伏し、お饅頭のような寝顔を見せる。
妻が出産予定日の二ヶ月も早く入院した。こうして地下鉄を乗り継ぎ妻の病院へ行くのも一週間になる。仕事を定時でぴたりと終え、保育
【ショートストーリー】19 世界の片隅に咲く
あの花の名前を覚えているだろうか?
それはユリのように見えた。
四角い黒い天井。
甘酸っぱさと煙草の煙をミキサーにかけたような香り。キングサイズのベッドに君は身体を横たえる。片足が膝下からない身体を。
「雄花は花粉を飛ばし、雌花はそれを受け入れるんだよ」
「風任せなのかな?それとも虫たちが運んでくれるの?」
「風は吹かないね、虫も寄り付かない」
「じゃあ此の花はなんのため?」
「ヒトを