「~するべき」という言葉の使い方。正しいことを言っても人がついてこないときに考えること

※この話は倫理の話ではありません。きわめて身近な友人・家族・会社の人とのコミュニケーションの話です。なんならビジネス書系の話です。
※政治に対して「~すべき」という立場ではありませんし、ワイドショーで言ってる「べき」に対してこの記事を書いているわけではありません。

「~するべきだよね」「~しなきゃいけない」「~するしかない」。

これらの言葉ってよく聞きますし、言っちゃいますよね。権威がある人が言うとそれっぽく聞こえて、それほどじゃない人が言うと薄っぺらいワードに聞こえます。こんなディスっておきながら私もちょいちょい使っちゃうんですが笑。

この受け取られ方の違いって何なんでしょうか。「べき」という言葉を私たちが使うケースや受け取るケースを吟味し、「べき」をどんな文でどう使ったほうが良いかについて書いていきます。

なんでも言えちゃう「べき」

「べき」って付くと正しそうに聞こえるんですが、薄っぺらく聞こえる時があります。
薄っぺらく聞こえると言うのは、内容があるように見えて、内容がないときに使います。つまり、「べき」が薄っぺらく聞こえるとき、実は正しそうに見えて正しくない、というか聞き手にとって内容が無く聞こえるということです。

なんでこんなことが起きてしまうのか。
それは「べき」が何にでも使えちゃうからです。

「全日本人の1億人くらいが俺に1円ずつくれるべきなんだよね。そしたら俺1億もらえてハッピーじゃん。誰かのハッピーのために1円くらいくれてもいいと思うわけよ」

クズですね。お前が得するだけでこっちになんの得があるんだとか怒鳴ったり、権利と義務の話をしたりできそうですが、こういう人とは話すのも疲れそうですね。

ただ、こんなクズトークでも「べき」は使えちゃうんですよ。もっと極端な例を出してみましょうか。

「ゴミ箱に顔を突っ込むべき」

「足折るべし」

「断然お金は海に投げるべきだよね」

こんな風にどんなことにも「べき」は使えます。
このことから言葉としてはどんな説得力のない文にも「べき」は使えちゃうので、「べき」を使っていいか判定するときには「べき」という言葉がしっくりくるかどうかではなく、内容を見たほうが良いと言えます(内容をみる「べき」です笑)。

べきの検証

では「べき」を使ったほうがいい文の内容、納得感を与えられる「べき」を作れるんでしょうか。

どんな文でも使える形式としての「べき」からは何も生まれません。「べき」に内容を加えた文を評価して、初めて「べき」を使ったほうが良い文を考えることが出来ます。

私は「べき」を使った文は以下の要素で検証すれば内容の吟味ができると思っています。
・「べき」実現時の効果
・「べき」実現のコスト

「べき」という言葉はほとんどの場合、実現されていない事柄に関して使われます。「1+1は2であるべきだ」など、実現されていることに対して言ったら不自然だからです。

「べき」は実現されていないことを起こす、つまり変化を伴う言葉になります。

人が変化を起こすときには良きにつけ悪しきにつけ何かしらのメリット・デメリット(=リスク)つまり効果を予期しており、それを実現する誰かのリソース(コスト)が存在します。

「べき」の評価は変化の評価であり、変化後に予期する世界と変化自体のコストで評価できるんじゃないでしょうか。(何か強引ですが)

「べき」の内容吟味のために「べき」の効果とコストについて検証してみましょう。

「べき」が生む効果の検証

効果は、「べき」によって生まれた世界であり、その世界が良いかどうかが検証内容です。

「べき」が生む効果について聞く側が妥当性を感じるかどうかチェックする検証項目を挙げてみました。
効果検証①:誰にとって効果があるのか
効果検証②:どんな効果があるのか
効果検証③:反対意見で検算できる

これらを「俺が1億人から1円もらうべき」意見を例にしながら考えてみます。

■効果検証①:誰にとって効果があるのか

ここが一番重要な検証です。ここが納得できない場合、ほかがどれだけよかろうと薄っぺらく感じる、というより、他人事に感じたり、言葉が上滑りする感じを受けます。

もちろんほとんどの場合「俺が1億人から1円もらうべき」はアウトです。語り手だけが得をして自分は得をしないなら、この話を聞いても「あぁそうですか」と聞き流すのみです。

ただ、語り手がパートナーだったりすると自分も利益を得られるので、話を聞く可能性があります。同じく自分のコミュニティの人間の利益なら自分も納得できる可能性があります。

今回は極端な例を出しましたが、この検証で薄っぺらいと感じられるパターンはよくあります。
「あなたのためなのよ」とか「創業50周年、社員の君らは嬉しいだろ」とかです。
「あなたのためなのよ」は言葉だけ繕って、本当に自分のためじゃなく語り手のための場合とかが思いつきますし、
「創業50周年、社員の君らは嬉しいだろ」も想定された聞き手像と聞き手の実態があっていない場合、自分のことではないと感じてしまいます。

ここがOKなら効果検証②に行きましょう。

■効果検証②:どんな効果があるのか

「誰」検証が終わったら次は内容の吟味です。

ここではメリットだけ考えがちですが、裏側であるデメリットやリスクもこの検証で吟味してしまいましょう。

「俺が1億人から1円もらうべき」に関して効果とそれに伴うメリットとデメリット(リスク)を吟味してみましょう

<効果>
1億円得られる

<メリットの検証>
1億円が効果なら受け入れると思いますが、効果が1円なら受け入れない、とかそういうことを考えます。

<デメリット(リスク)の検証>
リスクがないならもらうけど、危ないお金だったらどうするかとかを考えます。
危ないお金のリスクが怖いから受け入れないか、メリットと天秤にかけた上でリスクを受け入れるかとかを考えます。

ここがOKなら効果検証③です。

■効果検証③:反対意見で検算できる

本来最初にやったほうが良いかもしれませんが、効果の定義ができた後じゃないと成立しないので、ここでやります。

「反対意見で検算」とは、私が勝手に作った言葉なんですが、
「<AならばB>といえるとき<AでないならBでない>」という検証で、
Aには「べき」の内容を入れ、Bには効果が入れた上で
双方について納得がいき、前者と後者に効果の上での差があるといえるときに検証が通ったと言えます。

(これは統計学の検定とか反証可能性とかの話を聞いたときに使ってみたら便利だっただけで、あまりこの領域に詳しくないので責めないでください。。)

「俺が1億人から1円もらうべき」の場合は次のようになります。
元々:<「俺が1億人から1円もらう」ならば「1億円得られる」>
反対意見:<「俺が1億人から1円もらえない」ならば「1億円得られない」>

今回の場合検証は通りますが、効果が「首相が幸せ」とかだと成立しません。
元々:<「俺が1億人から1円もらう」ならば「首相が幸せ」>
反対意見:<「俺が1億人から1円もらえない」ならば「首相は幸せではない」>
大体は元々の意見の疑わしさでこの検証は通らないんですが、反対意見と比べると、「俺が1億円をもらった」ところで「首相の幸せ」には関わらないことが浮き彫りになるので、ただただ強い効果だけを述べる意見には有効です。

この検証が通らなかった場合には効果を定義し直して②または①からやり直しです。

「べき」実現のコスト検証

次はコストの検証です。実際この検証は実現可能性の検証です。効果検証がwhatなら、こちらはhowです。
(厳密にはhowはもっとやるタスクに近いので極めてwhat寄りのhowですが)

「べき」が生む効果について聞く側が妥当性を感じるかどうかチェックする検証項目を挙げてみました。
(便宜上「変化によってコストを払う人や組織」を「変化エージェント」と呼びます)
コスト検証①:変化エージェントがどんなコスト(デメリット・リスク)を払うのか
コスト検証②:変化エージェントにとってメリットがあるのか

先ほどの検証は直列に①②③と連続して検証しましたが、メリットとコストはコインの表裏なので両者を天秤にかけた上で検証結果を出します。

単純に言えば、効果を得る人だけじゃなくて、関係者がwin-winになることを考えるとスムーズに進むよって話です。

■コスト検証①:変化エージェントがどんなコスト(デメリット・リスク)を払うのか

この観点はシンプルでありながら、「べき」が薄っぺらくなるときの大きな要因です。正しいことだけを言って、コストを考えない場合、実現可能性がないため、薄っぺらく聞こえてしまうんです。

ちなみに次の記事でも書きましたが、コストというのは金銭的コストだけではありません。時間的コスト・精神的コストなども含めます。
なので、依頼者とのコミュニケーションが面倒くさいという精神的コストも考えに入れる必要があります。

大抵は変化するときにはコストがかかりますが、共にデメリットやリスクを背負う場合もあるので、そこも一緒に考えたほうが良いでしょう。
(メリットと一緒に考えるより、コストと共に考える方が相性が良いのでそのように考えます。コストという言葉は外したくないので、コストと言う言葉をデメリットに包含させることはしません。変化エージェントが効果を受ける対象と等しいのであれば、デメリットやリスクは効果を考えたときと同様です。)

■コスト検証②:変化エージェントにとってメリットがあるのか

※変化エージェントが効果を受ける対象と等しいのであれば、これは効果を考えたときと同様です。

これは単純で、コストをかぶってもそれを上回るメリットがあるかどうかです。

500万のコストがかかるけど、やり遂げたら5000万入るとかそういったメリットです。

コストの場合と同様、金銭面だけではありません。コストの逆はリソースであり、リソースが得られたり充足することがメリットです。
ですので、満足といった精神的リソースの充足や、時間の確保などもメリットとして計上できます。

いくら変化エージェントにコストをかけさせても、メリットをちゃんと与えてあげるだけで、喜んで変化に協力してもらえる可能性があるので、単なる正しさを説くだけでなく、変化の実現可能性を上げる政治も大事な要素です。

まとめ

結構ひとりよがりな考えっぽくて粗はたくさんあると思いますが、この考えをしてたら人が「べき」を使ってもすぐにそれが妥当かどうかチェックでき、議論せずとも自分で判定できるので、日常生活で大分イライラが消えました。
(今まで納得できなかったらつっかかってたので。自分も「べき」を使うくせに)

「べき」を使った文の検証を、文として成立しているか、それっぽい内容に聞こえるかだけを頼りに行っていたときには、正しそうに聞こえたことにも薄っぺらさを感じることが多かったんですが、正しくないから薄っぺらいと思えるようになりました。

「歯を磨く<べき>」とかは常識っぽくて違和感なく受け入れられちゃう感じがしますが、
それをしてない人にとっては、「ダイエットをするべき」と同じように、わかってるけどやれない、つまりコストを考えると受け入れられない言葉なんですよね。
(私は毎日歯を磨いてるので誤解しないでください笑)

なので常識や感情をもとに普通に「べき」が使われている場面では一度検証を挟んでみると、冷静に判断が下せると思います。

また、この記事で「べき」という言葉を使うのを躊躇したので「~したほうがいい」という言葉で濁したんですが、毎回気づいて書き直すのが心労でした笑。
この記事で「べき」見つけたらすぐ直します

何かみなさんの生活の役に立てたら嬉しいです。

注意

この検証は自分の中だけで行うことをおすすめします。

私含め、みんなあまり否定されたくない、「僕・私は悪くない」モードを発動しています。誰かが、上司・彼氏・彼女以外からの説教なんて受けたくないと言っていたのが納得なんですが、最低限信頼関係がある間柄でしか説教は成立しませんし、説教内容も自分の進みたい方向性に対するものしか受け入れられません。

なので、指摘したら大抵は喧嘩になります。
指摘する側は正義の正論モード、指摘される側は「僕・私は悪くない」モードで両者譲らないので、お互い意固地になって自分の意見を主張する空気の悪い泥仕合になる可能性が高いです。私がこれやった回数ははかりしれないので、ある程度保証できます。

「批判は受け入れる<べき>」
(=批判や指摘を受け入れられないのは度量が小さい)
といってもそれは通説というだけで、内容の妥当性、コストから考えて大抵受け入れがたいんです。

ですので自分の中でとどめたり、言うにしてもブチ切れたときの切り札としてとっとくくらいでいいんじゃないでしょうか。


(付録)問題解決の考え方でさらに考えを深める

今回話したことを問題解決の文脈で捉えると、さらに高い次元で考えることができます(ただし上記のことができる人限定)。

問題解決の考え方というのは、「問題」自体にフォーカスを当てて問題解決を図る考え方のことを言います。

問題解決の考え方では「問題」は「現実と理想のギャップ」と定義されます。
何かしらの理想があり、それを達成できていない現実との差が問題と言われるわけです。つまり問題解決とはそのギャップを埋めて、理想を実現する、または理想に近づくことを表します。

その問題解決の方法を文字で表したとき、「べき」という言葉が使われます。理想を実現するというメリットを考えたとき、「べき」という命令が宣告されるのです。

さっきまでは「べき」の妥当性ばかりを話していたんですが、妥当なものの中でさらに適しているものを考えるときには問題解決の考え方を使ってみるのはオススメです。
60点が取れる人が80点を取ろうとするイメージです。ただ60点取れない人にとってはただ単にハードルをあげちゃう考え方なので、まずは60点を考えることを考えたほうが賢明だと思います。

問題解決の考え方を使った場合、「べき」を考える前に次のことを考えることになります。

①どんな問題を解くのか
②その問題は解かなければいけないのか
③その問題を解くのに妥当なのはどの考え方なのか

具体例をもとに考えてみましょう。

ダイエットをしたいと思っており、「ダイエット」をするからには「食事量を減らす」「べき」と考えているとします。

これは妥当な考えだと思えますよね。ここでさらに考えを深めてみましょう。

■どんな問題を解くのか

問題解決の考え方を使って問題を捉え直してみます。
・理想: 50kg
・現実: 65kg
・理想到達時のメリット:異性にチヤホヤされる
・問題: 15kgオーバー
・問題解決案で欠かせないエッセンス: 15kg減らせること

ダイエットというバズワードがかなりきれいに整理されました。

■その問題は解かなければいけないのか

次は整理した問題の検証です
ここが速攻Yesになるなら次に進んで大丈夫です。

ただ、問題を捉え直して、果たして理想を達成する必要があるのか、を考え直したときに別に無理にこの問題を解決しなくていいとなった場合、この問題を解かなくても良いという結論になってもおかしくありません。
そのときには問題解決にかかる大体のコストと天秤にかけることになるでしょう。

なんだったら、コストと相談して理想自体を下げることも検討して良いかもしれません。なんだったら理想を下げてみても実は及第点は達成できるかもしれないので。

■その問題を解くのに妥当なのはどの考え方なのか

紆余曲折あっても、問題を解こうとなったらこれを考えましょう。

最初に「ダイエット」と「食事量を減らす」を結びつけて妥当だと話しましたが、「15kg減らせること」を満たせる方法となると「食事量を減らす」だけでなく、「運動する」「脂肪吸引」など実は他の方法も浮かぶわけです。

色々候補が挙がったら、その中から、メリット・デメリット、自分との相性、コストなどから考えて自分が選べる方法、つまり「べき」を選べば良いわけです。

本編ではボトムアップな感じで「べき」を考えてみましたが、付録ではトップダウンな感じで「べき」を考えてみました。
これは付録なので、本編+αで考えてもらえればと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?