旅する素粒子

千葉県出身、今は瀬戸内のとある町で暮らしています。人間と地球や宇宙のつながり、社会やお…

旅する素粒子

千葉県出身、今は瀬戸内のとある町で暮らしています。人間と地球や宇宙のつながり、社会やお金のことなどを、小説で書きたいと思っています。

最近の記事

【小説】誰にも出会えなくても

20歳のとき、彼はある女性に恋をしました。 彼女と出会ったのは、大学のゼミ。 「男たちがダメにした世の中を、これからは女たちが良くしていくんだ」 理想に燃えた瞳で、彼女はそう語りました。 彼は、そんな彼女の情熱的な姿が好きでした。 だから、「付き合ってほしい」と告白しました。 「少し考えてから、返事をするね」。 彼女はそう答えました。 彼は、彼女と一緒に多くの本を読み、ジェンダーの考え方を理解しようとしました。 大学の学食やカフェで、彼女のアルバイトの愚痴や

    • 【小説】人生が問いかけるもの

      「人生にどんな意味があるか。人生にどんな期待できるか。それが問題じゃないよ」。 「むしろ、"人生が僕たちに何を問いかけているのか”。それに応えることのほうが大切だと思う。」 ある飲み会のこと。 50代の男性が、ふと、そんな人生訓を漏らしました。 なんでもフランクルという、哲学者だか精神医学者だかの言葉らしいのです(※)。 ぼくは、心に引っかかるものを感じました。 だから、彼の話をもっと聴いてみたいと思いました。 でも、聞けませんでした。 その場は、ビジネスに役

      • 【小説】賢十パーク

        高井賢十(たかい けんじゅう)はその日、上機嫌で夜道を歩いていました。 賢十は、東北の小さな街で、市長を務めています。 そして今日。彼が進めてきたプロジェクトが、実を結んだのです。 東アジアやヨーロッパの国と連携して、この街に先端技術のラボを建てる。 そして、街に雇用と観光名所を生み出す。 10年近く前から、賢十はこのために奔走してきました。 自分たちの生まれ育ってきた街を、未来にも残したい。 その一心で、慣れない政治の世界に飛び込み、無我夢中で働いてきたのです

        • 【千文字書評】生き物の死にざま~子孫を残さない生き物

          人間は、生物の一員である。生物として、”正しい”生き方と死に方はなんだろう。 ”正しさ”にとらわれがちな思考癖がある自分が、そんな関心で手に取ったのが、この本である。 この本は、雑草生態学の研究者である稲垣栄洋氏の著作。氏には、「「雑草」という戦略 予測不能な時代をどう生き抜くか」といった著書がある。 200ページほどの本書の中に、29の生き物の死にざまが、エッセイ風につづられている。 稲垣氏が文章に卓越しているのか、よい編集者がついているのかは分からないが、生き物を

        【小説】誰にも出会えなくても

          映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の2つの問い

          5年ほど前、仕事で鳥取に出張した際に、境港市の「水木しげる記念館」に立ち寄る機会があった。 その際、水木しげるの幸福論と『ゲゲゲの鬼太郎』の持つ奥深さに触れ、一気に好きになった。 なので、昨年上映された『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』も観に行こうと思っていたのだが、いかんせん仕事が忙しく、映画館に足を運ぶことができなかった。 しかし、先日、Amazon Primeで本作の配信が始まり、このたび、ようやく観ることができた。 日本的な美を感じる作品スマホで見てみて、改めて「大画

          映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の2つの問い

          【千文字書評】男性目線で読む『夏物語』(川上未映子)と、生まれなければよかったという思い

          昨晩、『方丈記』の書評において、自分の恋愛の失敗について軽く触れた。 それに関連して思い出したのが、川上未映子『夏物語』である。 川上未映子という作家は、扱うテーマに心惹かれる一方、どうも文体が苦手で、書店で手に取るたびに、散々迷ったあげく書棚に戻してしまう、ということを繰り返してきた。 そんな中、主人公が(当時の自分と同じ)38歳ということに親近感を感じ、ようやくちゃんと読み通せたのが、『夏物語』だった。 読んで、深く深く、心を打たれた。それは、自分が子どものときか

          【千文字書評】男性目線で読む『夏物語』(川上未映子)と、生まれなければよかったという思い

          【千文字書評】方丈記 ~人生の”負け組”だと感じる夜に

          僕はもう少しで40歳になる。そして、これまでの自分の人生を振り返ってみると、「自分は人生に失敗した」という気分をぬぐい切れない。 今まで何度か女性に恋をしたが、ことごとく上手くいかなかった。 仕事に関しても、自分は中小企業に勤め、それほどの収入があるわけでもない。 若い時は、収入が低いことをあまり苦に感じなかった。しかし、恋愛での失敗を経て、自分が女性に評価されるうえで収入が大事な要素なのだということ痛感するようになった。 もちろん、金がすべてではない。しかし、そのほ

          【千文字書評】方丈記 ~人生の”負け組”だと感じる夜に

          【千文字書評】21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考 Y.N.ハラリ

          謙虚さイスラエルの歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリは、『サピエンス全史』において人類がどのような歴史をたどって現在に至ったのか、そして『ホモ・デウス』において文明が発展していく中で遠い未来に人類がどうなるのかを考察した。 『21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考』は、それに対し、より現在、僕たちが直面している課題(テクノロジーと雇用、民主主義の危機、フェイクニュースなど)について語った本である。 この本は、千葉に住む両親に地方移住を反対され喧嘩をした後、瀬

          【千文字書評】21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考 Y.N.ハラリ

          【1000文字書評】金子光晴詩集 茨木のり子編

          両親が昨年、千葉の家を引き払った。そのとき、子ども時代の本を送ってもらったのだが、その中にあった1冊である。 金子光晴との出会いは、中学生のときに読んだ、茨木のり子さんの『詩のこころを読む』だった。この本に金子光晴の詩が掲載されていたのだが、その強い言葉に”あてられて”、本屋に行って、この本を買ったのだった。 (今はすでに絶版になっている) 金子光晴は、1895年生まれの詩人。戦前に2回、フランスに滞在したほか、東南アジアで極貧の生活をした経験もある。 そして、戦時中

          【1000文字書評】金子光晴詩集 茨木のり子編

          【小説】ある男の九相観

          男は、泣きながら生まれてきた。 誰かを求めるように、大声で泣きながら、母の胎から生まれてきた。 「この子が、健やかに産まれてきますように」。 母は妊娠中、野菜やお肉、体に良い物を、なるべく食べるようにした。 少しでも、お腹の子に栄養を贈ろうと。 元気な子に育て、と祈りを込めて。 つまり男は、親の愛と、さまざまな動物・植物の命をもらって、この宇宙で、人としての形を成したのである。 ※ 男は、夜泣きがひどかった。 父や母は、夜中に何度も起こされ、疲れた体で彼を抱

          【小説】ある男の九相観

          【小説】春のはじまり

          「ほなきん、またな!」(※) 「またなぁー」 小学校からの帰り道。 お友だちのさりなちゃんと別れると、絵里(えり)は、家に向かう坂道を歩き始めました。 ピンク色のしだれ桜、 梅の白い花、 元気いっぱいの菜の花…… 道沿いにあるお家(うち)の庭や畑では、はじまったばかりの春が、弾けるようです。 もっとも、今日の絵里の注目ポイントは、そんな、かわいいお花さんたちではありません。 坂道の周りには、たくさんのビワの木が生えています。 お陽さまが、その緑の葉を、やさしく照

          【小説】春のはじまり