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早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け_JICA四国さま×せとうち未来共創_民族衣装のファッション・ショー(かがわ国際フェスタへの協力)《後編》

遠くへ行きたければみんなで行け,前首相の岸田さんの演説でちょっと有名になってから数年が(数年でPrime Minister が変わりまくる国としてこの国は有名である)経って懐かしくもある名言(アフリカの諺らしい)ですが,今回は約半年かけて準備を進めてきたイベント開催直後にプロジェクトを振り返ってみる,そんな話です.

始まりは一本の電話から

JICA四国さまが突然電話をくださったのが春うららかな五月のある日.要約すると,秋のイベントで民族衣装のファッションショーのアイデアが出ている,しかしそんなショーの運営はやったことがないので協力していただけるところを探していて...おそらく,ファッションショー>>衣装・ヘアメイクが要るんじゃない?>>それならビューティカレッジとかにダメ元で聞いてみる?みたいな連想ゲームがあったのでしょう.

ふむふむ、なるほどいい勘をしていらっしゃる.まずはお話をお聞かせください,ということで数日後に学校まで足を運んでいただき打合せに.

せとうち未来共創プロジェクトのコーディネーターとしては,実に面白そうな問合せでした.学園が持っているポテンシャルを動員できそうだし,国際交流的な側面もある,そして若い頃遊びでクラブでDJをしていた僕にとっても何か久しぶりに大音響で音楽を流せそうですし…仕事も遊びもごちゃ混ぜになった感覚.最初の電話口で,「ええ,ファッションショーなら確かに学校のイベントでやっていますし,外部のイベントなどでヘアやメイクの協力も多く経験しています,規模感やどれくらいのグレードを求められるかにも拠りますが,ディレクションから音響,撮影,演出,裏方までショーを一式取り仕切ることぐらいは出来ると思いますよ」などと,根拠はあるものの自分ひとりではどうしようもないことマルっと含めて”任せんしゃい“オーラを放ってしまっていたから,まずは担当しているデザインとビューティの先生方にかくかくしかじか,と投げかけてみました.

先生方からやってみますの返事がなかったら平謝りするしかないねぇと思っていたところ,穴吹ビューティカレッジのブライダル学科担当の先生から,その学科の2年生がマルっとショーの部分の運営に携わってくれることに.そうすると、自分は構成や演出,音響まわりをディレクションできるので,撮影や配信部隊として穴吹デザインカレッジからネット動画クリエイター学科の協力を仰ぎ,一応の体制が整いそうだという段取りをつけてJICA四国さんとの意見交換の日を迎えました.

打合せでヒアリングを進めていくと,JICA四国さまとしては,まだ企画案が出たばかりで前述の通りファッションショーについては右も左も分からない状態なので,どこか外部と組ませてもらってガイドしてもらいながら一緒に企画を進めたいという感じでした.肝心の民族衣装は全国のJICAさまや,今回のイベント会場となるアイパル香川さんのようなところから50着以上準備できるそうで,それがこの民族衣装ファッションショー企画の発端だったのだそうです.お話を聞いた限りでは,コンテンツとしてはすでに完成していますので,あとはどういうクオリティや見せ方,演出をするか,ディレクションが問われているなという印象でした.

その場で,例えばパリコレなどふんだんにお金をかけた服飾業界のショーのようなものではなく,趣旨は世界の民族衣装の紹介で,モデルも一般から募って,地域共創的なものとして作り上げたい,という発言があったので,それならきっと大丈夫です,とお返事をしたのでした.そしてイベントの時間(尺)や会場の概要をヒアリングして,こちらからは過去にビューティカレッジが実施したブライダルショーなどの実績などをご紹介して,お互いのイメージやできることを確認し合いました.

この時点でJICA四国さまから「ぜひ一緒にお願いします」という言葉をいただいたので,穴吹学園の幅広い専門性を活かし学校や学科の枠を超えて協働して地域との連携に取り組む「せとうち未来共創プロジェクト」のひとつとして,関連学校と学科を繋いで具体的に動いていくことに.数日のうちにこちらでステージと尺とモデルの数を計算しながら全体の構成をラフに仕上げ,ブライダルの学生たちには役割分担を自分たちで決めてもらいました.

ヘアアレンジ,メイク,着付け,などのモデルのサポートチーム.ステージ周りの演出,アシスタントディレクター,MC,音楽,投影画像,スポットライト,誘導などのステージチーム.教職員はそういう大きなフレームワークのたたき台を作って,試作やリハーサルを重ねて修正や調整が必要な部分にコミットするだけ.その他は全て学生たちで話し合って出来上がっていきます.この学生たちの成長ぶりがなかなかダイナミック.

今どきの学生は本番に強い?

その後,JICA四国さまと,会場としてイベント全体を取り仕切っているアイパル香川(公益財団法人 香川国際交流協会)さまと必要な打合せや確認を重ねていきました.イベントの本番は10月14日(月祝)と決まっていましたので,5か月の期間,プロジェクトは断続的に進んでいきます.季節はいつの間にか夏になり,夏休み前の打合せで,午後のメインステージイベントとして,2時間半の尺で実施したいという話があり(実際のファッションショーはいちブランド15分くらいだと言われています)全体を大きく3部に分け,間にモデルとの撮影会や,民族衣装の試着,ランウェイ体験などが出来るインターバルの時間を取ってバッファーとすることで,全体の2時間半を使うことにしました.

ただ,一人のモデルがゆっくりランウェイを行ったり来たりするのは僅か2分くらいです.その2分の中で学生たちのやることは実に複雑です.まず控室で衣装の着用補助とヘアアレンジやメイクを施します.次に,モデルを舞台袖まで誘導.ステージ上ではそれぞれにフィットする音楽を事前にセレクトし,その国のトピックや衣装について映し出すスライドショーを映し出す.ステージとランウェイの隅で目立たないようにキューを出し誘導,そして司会の解説.その一連の流れはとてもダイナミックで有機的であり,相互に関係しあっているので,デモやリハーサルでの確認がとても重要になります.

夏休みの間にそれぞれのチーム内での仕事を進めて,最初のチーム合同リハーサルは10月はじめ.まずは学校内の教室で試してみました.このとき私は役割としては全体の流れを見ていたのですが,正直ちょっと心配になりました.ブライダルの学生チームの数は25人ほど.おそらく,それぞれのチームや役割でリーダーなどを配置しているのでしょうが,全体の動きについての理解度はまだまだ… それぞれのシーンの繋がりも悪く動きが噛み合いません.司会原稿も途中,投影資料も途中,音楽も仮当てです.でも,学生たちに焦ったり不安になっている様子はうかがえませんでした.これまでにもブライダルショーを経験している余裕なのか… 今思えば,学生たちにとっては本当に最初のラフな流れ確認だったのでしょう.

そして翌日,会場でのリハーサル.ここでは,JICA四国さまや会場のアイパル香川さまのスタッフの皆さんも揃っています.モデルもスタンバイし,時間の制約上全体通しは無理なので途中を端折りながら,第1部と第2部,フィナーレの動きを確認していきます.前日の校内リハの状態を見た僕としては,冷や冷やしながらステージ横のミキサー卓に付いていました.リハーサルの支度中はまだ学生の動きはゆるーく,大丈夫かなぁと見ていました.それが,いざリハーサルが始まると,ブライダル担当の先生がテキパキと指示を出すのに合わせて,学生が有機的に動いていきます.昨日とは何かが違う…それぞれの学生が自分たちのチームの動きを随分と把握して全体がオーガナイズされています.リハーサル中に発生する改善点や問題点を学生同士でどんどん解決していきます.そしてフィナーレの学生スタッフがステージに上がって会場を盛り上げるパートも郷に入った感じというか,借り物でなく,かといってダラダラでしているわけでもない,彼ら彼女らの自然体の醸し出す何とも言えない「良い感じ」のオーラが会場を包みました.

JICA四国とアイパル香川のスタッフの皆さんもこの時に初めて全体像が見えてきたわけですが,この時点で随分期待感と安心感を持っていただいたようでした.そうなんです,学生たちの動きはまるで学内リハーサルの時と違っていました.まるでステージに合わせて振る舞えるプロのように,というと大げさですが,場に合わせた振る舞い方を分かっていると言えばいいのか…呆気に取られている僕をしり目に,リハーサル終わりの学生たちは片付けも淡々とこなし,解散の合図と同時にサッと帰路に就いたのでした.

そんなわけで,僕の方もこの2度のリハーサルの体験で,学生たちの成長ぶりにイベントの成功を確信したのでした.その後,本番数日前の最終の会場リハーサルを終え,学生たちの動きはよりスムーズになっていきました.

観客との一体感を味わえた一日

当日は,会場であるアイパル香川さんはお祭りの雰囲気で盛り上がっていました.私たちの参画している民族衣装ファッションショー以外にもいろんなイベントやワークショップが開催されており,敷地の内外で多くの人々が楽しそうに行き交っています.

秋の休日.風が心地よい季節にピッタリの「かがわ国際フェスタ」@アイパル香川
各フロアで催し盛りだくさん.

準備を進めるうちにショーの会場である交流ラウンジのドアが開き,続々と観客が席を埋めていきました.これには,一般モデルの関係者や,このフェスティバルに来場してショーの存在を知った人など,世代も国籍も多様な人たちが集まってきました.運営する側としては,たくさん人が入るといいなと思っていたのでその時点で感無量なのですが,学生の様子はいつも通り淡々としたものです.「いっぱいだねー」とか言ってますが,それで余計に緊張したり構えたりというそぶりがありません.大したものです.

ステージ開始直前.会場は立ち見が出るほどの盛況ぶり.©JICA四国

そんな会場の雰囲気や,多くのお客さんの波に飲まれることなく,学生たちはごく自然に自分たちの役割をこなしていきます.入念に準備していても,こういったイベントでは現場で大小のトラブルや状況に応じた臨機応変さが問われますが,そういう状況も事も無げに対処していきます.2時間半のステージはあっという間でした.途中のインターバルでも,モデルと一緒に撮影や会話を楽しむ観客の姿を見ながら,このショーがいろんな人を繋ぐきっかけになっていることを実感.そして,特に小さいお子さんがステージ上でモデルと一緒に撮影したり,踊ったりはしゃいだりしている姿を見ると,きっと何かを分け与えることが出来たのでは?と嬉しく思いました.

そんな当日の様子はこちら.(一番下に表示されている”Watch on YouTube / YouTube でみる”をクリックしたら再生するはず)


はい,この動画は当日,穴吹ビューティカレッジのInstagramでライブ中継されました.それを支えたのが,穴吹デザインカレッジのネット動画クリエイター学科の学生と先生.彼らは サンポート高松トライアスロンや,うどん県高校生書道パフォーマンス大会の配信などを経験しており,当日の合流で仕事をテキパキとこなしていきました.このプロフェッショナル感は流石です.もちろん,担当の先生に言わせるとまだまだ甘いところがあるそうなのですが,こういう対応が出来る,ということ自体が素晴らしいではないですか.頼もしい.

会場ではデザイン学生とビューティー学生の交流も.©Kazuo Sasaki
出番を待つ一般参加もモデルさんたち ©JICA四国

他にも,モデルとして穴吹ビジネスカレッジ日本語学科の留学生が6名,デザインカレッジから1名参加して,ショーを彩ってくれました.まだイベントは終わったばかりですが,関わった学生たちを交えて,関係者で振り返りの会を持てたらいいなと考えています.

せとうち地域の未来を共創するプロジェクトとして

ブライダル担当の先生は「今回はほとんど学生に任せてみたんですけど,出来るもんですね」とお話しされていました.そうなんです,きっと学生(というか若い世代)たちはすごいポテンシャルを持っているはずなんです.普段の授業では見えない,到達できない領域に僕らを連れて行ってくれたのは,他でもない彼ら彼女らなんです.

「早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け」これが今回のプロジェクトをコーディネート/マネジメントする立場として,イベントを終えた時に思い浮かべた言葉です.前述のように,ファッションショーについて(部分的に)協力してほしい,という要請を受けたのはひとり.そして,それはおそらく可能だろうな,と判断したのもひとり.でも,それを共有し,関係する人たちが増え,複数の学校や学科の学生も関わり,市民も巻き込みながら,自分でも思いもよらなかった到達点に立つことができた,

全てのモデルと学生スタッフが集合したエンディング. ©Kazuo Sasaki

この素晴らしさを関わった人たちとあらためて共有したい(そのために振り返りの会をぜひ持ちたいと願っているわけですが)と今思います.おそらく,それこそがプライスレスなリワード(報酬)なのではないかと思います.ひとりひとりに聞いてみたい,この体験を通して何を得たのか.その共有するものの価値が,きっと「せとうち未来共創プロジェクト」の提供できるものなんだろうと思います.

せとうち未来共創プロジェクトも,いろんな案件が増えてきています.関わってくれる皆さんがそれぞれの機会を成長に繋げてもらえたらこれほど嬉しいことはありませんよね.

モデルの集まったステージ上で踊っていた小さな女の子.この子の将来はきっと…


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