見出し画像

稼頭央から浩之へ。~令和のスイッチヒッター

都会の河川敷は今日も子供たちで埋もれている。最近は女の子も多いが、鼻水を垂らした少年も多い。
「うちの息子は天才」
浩之にアタシは毎日のように言い続ける。花のように言霊がパワーになるからだ。アタシは、占いやらが大好きだ。

2024年現在、松井稼頭央がますますかっこいい。漏れそう。
イケメンからダンディになって色気がすごい。栗山もいいけど。源田君もたまらん。
でも、稼頭央がこの世のナンバー1だ。スポーツマンナンバー1だ。
猛ダッシュして体にタッチしたい。

そんなこと主婦のアタシにできるはずもなく、今は息子を西武ライオンズに入れるためだけに頑張っている。とはいえ、声援とヤジぐらいだ。
浩之の名前は、父方の親が付けた。稼頭央が良かったけれど、まさか高木浩之の浩之とは……。せめて高木の大成にしてよ。大勢でもいいわ。
秋山の幸二でもよかった。長男だけど。

浩之は迷わずスイッチヒッターにさせた。
「おぉ、稼頭央! 稼頭央だよ」
でも、左打がまるでダメで足も遅かった。きっとアタシに似たんだ。
男の子は母に似る。うじうじした性格は絶対夫だけど。
8番ライト・浩之は小学校の通算打率1割8分ぐらいで球歴を終えた。
「大丈夫、浩之は天才。稼頭央ぐらい」
上原だって高校は補欠だった。少年野球なんて関係ないの。

ピカピカのユニフォームに20番の背番号を縫い付けて渡す。
「行ってきます!」
中学に入ると、浩之は案の定補欠で、おまけに部内でいじめられるようになった。やればできるは魔法の合言葉、でしょ。いじめはダメ絶対。

今もまだスイッチヒッターは続けていた。セカンドになったらしい。
稼頭央のショートまで目と鼻の先じゃん! いいよ。いいよ。

そんなある日、浩之は言った。
「僕ね、健太君が好きなんだ」
「あっそ」
「――あのね。みんなが変だって」
「健太君はイイ子だし、球速いし。変じゃ――」
「なんていうか、話しているとドキドキするんだ」
「……え? だって美紀ちゃんと交換日記してるって」
「美紀ちゃんより、今は健太君が好き」
「………」

浩之はスイッチヒッターだ。

この記事が参加している募集

育児日記

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?