見出し画像

洗脳された妹が異世界でねずみ講の神になっていたんだが。

数年ぶりに会った妹は、すっかり人格が変わっていた。

あんな根暗で自分に自信がなかった子のに、妙にカラ元気で不自然なぐらい明るい。でも頬が痩せこけて目の下が真っ黒で体調は悪そうだ。

心配してSNSを探ってみると、案の定「マルチ商法」の類に手を出していた。俺も父ちゃんも母ちゃんも頭を抱えた。

ソフトボールの推薦で東京の大学に行かせたはずなのに、学校も辞めていた。妹は足が速く「スラップ」という走り打ちが得意だった。
一年春からベンチ入りしていたのに、秋にはグラウンドに姿を見せなくなったという。

妹がやっていた「マルチ」に関する情報も仕入れた。
最初は順調に進めていたらしいが、近しい友人に愛想を尽かされ、周囲に煙たがら、最終的には商品の買い占めをしていたそうだ。
SNSには悲観的な投稿も散見していた。典型的な転落パターンだ。

説得するため、妹を探したが見つからない。
どこかに潜伏しているに違いない。俺たちは必死に足取りを追ったが、何の情報も見つからない。
そのうちに妹が属していた組織の親玉や子分たちが捕まった。
しかし、妹はそこにはいなかった。
足を洗って逃げ出したのか。それとも港か山にでも……。いや、縁起でもないことは考えたくない。

妹は異世界にいた。
転生して最初は戸惑っていたらしいが、数日たってあることに気づいたという。
「この世界ではまだマルチ商法がない……」

マルチ商法は親玉しか稼げない、末端会員には儲けが回ってこないというのが定説だった。
ピラミッドの図式が出来上がっている状況で、商売を始めたら勝機はない。サラリーマンほどの年収をキープし続けるには日本の人口では足りないほどの人に紹介しないといけない。

しかし、異世界は違う。
妹は「マルチの祖」になっていた。誰も踏み入っていない山奥に生える薬草や湧水を貯めて、紹介制を銘打って売り始めた。

異世界の人間は意外にもピュアだったそうで、次々に子ねずみたちは増えていったんだとか。
今はイノシシ族の間で広まり出しているという。
妹は大金持ちになって、王族とも交流を持ち始めていた。

異世界から一時帰生した妹が笑顔で俺に言う。
「異世界、マジで最幸。絶対人生変えられるよ。3匹に紹介すれば、その3匹がまた紹介してそのマージンぜーんぶ入るの。お兄ちゃんも夢、叶えてみない?」

喫茶店でよく聞くセリフを高らかに語る妹を見て、俺は冷静に言い放った。
「お前、変わってしまったな」

妹はゴブリンの姿になっていた。



この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?