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NPO法人 SETが"生きてきた"10年間_法人化10周年記念:理事長 三井俊介インタビュー【前編】


この6月、10周年を"お祝い"するNPO法人が東北にあります。

2011年3月13日。東日本大震災の2日後、任意団体として 発足した『SET』。
2013年6月18日に法人化し『特定非営利活動法人SET(以下 SET)』となり、今年で10年。
岩手県を拠点に、活動をつづけてきました。


今回は10周年を記念して、理事長・三井俊介に話を聴きました。

前編となる今回は、SETの10年間を振り返ります。「NPO」としての10年の意味や、現在にも響き続けるまちの方の言葉について、、、
ぜひ、ご覧ください!


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「生きてきた」10年間、活動への理解の広がり



ーーーまず、はじめに。SETは法人化して10年。

これまで、「何をしてきた」のでしょうか?

「何をしてきた」かー、、、何でしょう⁇
、、、いや、「生きてきた」ね(笑)


ーーー生きてきましたね(笑)。具体的にいうと?

そうですね(笑)
過疎地域に都会の若者を連れてきて、
町の人との交流を作って、「『やりたい』を『できた』に*」を形にしてきました

*SETのMission、
「一人一人の『やりたい』を『できた』に変え、日本の未来に対して『Good』な『Change』が起こっている社会を創る」

その結果、移住者が増えたりとか、町の人で新しいことを始める人が増えたりとか。
「新しい取り組みをみんなでやろう」というムードが出来て、いろんなものが周りにできたのかなと思います。

それでも、「結局、何の意味があるの?」とは、よく言われます。

日本の町づくりでは、"交流"の価値が非常に軽視されていると思っていて、「それって儲かるの?」ってすぐ聞かれる。
だけど、北欧やイタリアの町づくりを勉強すると、過疎の町を活性化する上で大事なのは「交流の場を作ること」だと、そういった書籍には明確に書いてあるんですね。

人との交流で繋がりが生まれ、信頼が生まれ、協調的な活動が生まれる
いわゆる『ソーシャルキャピタル』なんだけど、そういうものが育まれる。

その土壌を耕すために交流が必要なんだけど、日本だとその交流って価値が低く、それだけだとビジネスにならない。
「何社起業したの?売り上げを作ったの?」といったように、ビジネス側に偏重してるとは思います。

SETがやってることを、僕たちは体感として価値を実感できるけど、より多くの人に伝わるかというと、ヒットしない感じはこれまでありました。



ーーー『交流人口』『関係人口』という言葉は4.5年前くらいから浸透してきましたが、それも周りの環境の変化ですかね。

SETは2011年からやってるけど、なかなか伝わりませんでした。「そんなことして何になるの?」って言われたり。
それでも、町の人でもそれを感じ取ってくれるひとがいて。

「お前らがやろうとしているのは、この町のファンを増やすことなんだね」と。
理解してくれる人は増えていきましたね。


「NPO」としての10年間、日本における存在の位置付けと変化


-ーーSETの活動への理解は、段々と広がってきたんですね。
では、そもそも『NPO』が10年続くってどういうことなんでしょうか?

「NPOは社会課題を解決する存在で、それを達成したら解散する」という議論もありますが、それは間違っているんです。NPO法に、そのようなことが書かれている訳ではなくて。
NPOは社会課題を解決するのではなく、公益を増進させるものだから社会課題を解決してもいいし、コミュニティを育てていってもいいんです。

でも、日本は社会課題解決に寄りすぎてしまっている。
SETは社会課題解決型もあるけど、存在としては長く続いて公益や共助をつくり続ける存在だから、20周年30周年も続けばお祝いしていきたいですね。



ーーー10年間、公益や共助づくりに取り組み続けてこられたお祝いなんですね。
なぜ日本のNPOは、社会課題解決に寄ってしまっているのでしょうか?

NPOとは何か」が、日本の中でうまく位置付けできてないことにあると思います。

阪神淡路大震災が起きて、政府だけでは小回りが利かず、それを助けるための民間活動が多く生まれて。たくさん支援金も生まれて、一個人では多すぎる額になった。その後に、NPO法が作られたんですね。
「大きな災害に対してボランタリーで活動する」というNPOのイメージがついてしまったことが、大きなスタートラインです。

法律は出来たけど、NPOだけではお金が回るイメージがなくて。そもそもNPOは資金不足で、発展ができなかった。
その中で活路を見出したのが、ソーシャルビジネスという意味付け。

社会課題解決を「ボランティア」ではなく、「ビジネス」で職業として存在させて産業にしていきました。その結果、「すべての社会課題をビジネスで解決できる」といった誤解があるなと思っていて。
実際は、ビジネスだけでは手の届かない部分があります。

「NPOによる行政サービスの代替」という位置付けをしようとしたけれど、「ボランティアで出来るでしょ」といったように、うまくいきませんでした。
そこで行政の内側だけでないところから、政策に影響を与えていく、「政策起業家*」が生まれていったんです。

*「政策起業家」について詳しくは著書
『政策起業家が社会を変える ソーシャルイノベーションの新たな担い手』
M・ミントロム 著 石田 祐 /三井 俊介 訳


ビジネスや合理性だけではない課題解決のかたち


ーーービジネスで解決できないことというと、具体的には?

例えば、移動とかでいっても、人口が多ければ「タクシー」っていうビジネスモデルが成り立つ。
でも、広田町のような*3000人位のまちだと、人口が少なすぎて成り立たない。

お店を作るにしても、家賃や仕入れ代がユーザー数と見合わない。ビジネスだけだと、商店は成り立たない。
ビジネスでは解決してはいけないような「社会的共通資本」は、市場原理に則ることで歪んでしまうこともあるんです。例えば、交通、教育、農、金融といったもの。
これらは、経済合理性に載せてしまうと、歪んでしまって守れなくなる。

だから、税金とかを入れてしっかり守っていくという議論があって、それは田舎町には多い気がしますね。

*岩手県陸前高田市広田町は、岩手県最南東部に位置する漁師町。SETが震災直後から、拠点として活動してきた地域。


そういった課題を解決するために、一番大事にしているのは「持続可能に行っていくにはどうしていくべきか」で。
そのためには、ビジネスも使うし、ボランタリーの手法も使うし、行政の業務委託を使ったりしていきます。

ーーーSETの活動をする中で、持続可能かどうかの一つには「その人にとって楽しいか」があると感じます。
「個人にとっての”面白さ”」といったことが、持続可能性に必要だと思いますか?


「世の中からなぜ問題がなくならないんだろう」と考えたときに、合理的な解決策は、世の中の頭のいい人たちが提示しているはずなんですよね。
それでも問題が無くならないのは、人は合理性だけでは動かないから

人間は「面白い」「楽しい」と思えることは、仕組みがなくても動き始めるから。そこが大事だと思っているんですよね。
仕組みを先に考えるのではなく、感情を大事にしようと思いますね。


人は変われる、町も変わる。原点は町の人の心が動いた瞬間


ーーー10年間の中でも、人の感情が動く瞬間が多くあったと思います。

特に、SETの活動では町の方の言葉はとても残りますよね。
SETの価値を本質的に汲み取ってくれたような、印象的な町の人の言葉はありますか?


2013年、 法人化する直前、CMSP*の1期では「どうせ失敗しますよ」と言われていたんです。

そんな中、報告会で大学生が町への想いを泣きながら話したとき。
町の方の1人が、
今まで、町づくりで出来ないことは誰かのせいにしていたけど、自分が変わることなんだと気づいた。
自分が変わるのは怖いし難しいけど、大学生のみなさんが人は変われるということを証明してくれた。それに勇気を貰えたから、俺は君たちと町づくりをしていくぞ
という言葉を貰いました。

それは非常に嬉しかったし、僕たちの原点です。
人は変われるし、人が変われば町は変わるという、SETの「人づくりからの町づくり」をそこから確信を得た気がしますね。

*「Change Maker Study Program」町の方と共に地域の課題解決を行う、一週間の地域おこし実践プログラム。


ーーー変化の激しい若者の活動ならではですね。ひたむきな姿に何かを感じ取ってくれるのは美しいですね。

そうですね。他にも、
わたし達の青春は諦めているものもあるけど、あなたたちはこれからが青春でしょ。だからあなたたちに青春を託しているのよ!」といった言葉も。
「あっつ!頑張ろう!!」と思いますよね。嬉しいですね。

そうやってバトンって渡されていくものなのに、高度経済成長期で世代が分断されてしまったんです。

自分の想いを自分だけで解決しなくてはいけない、個人主義みたいなものになっていって。「都会の若者」と「田舎のご年配の方」という、普通に暮らしてたら絶対に出会わないものが出会う場を通して、渡せなかったバトンを繋いでいく。そこに意味があると思うし、渡せなかったものを、ちゃんと次の世代である僕らが繋いでいきたい。

僕らが次の世代へ繋いでいくことに、命のバトンを繋いでいくことに、エモさを感じるし、すごく生きていくうえでの豊かさを感じます。



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今回は、NPO法人SETとしての10年間について、日本のNPOが置かれている社会的背景の解説も合わせて聴きました。
後編では、代表としての10年間やSETの現在・これからについてお話しします。ぜひご覧ください!

後編はこちら↓

【SET理事長 三井俊介】

特定非営利活動法人高田暮者 理事
特定非営利活動法人新公益連盟 北海道・東北ブロック代表
宮城大学 非常勤講師 宮城大学大学院博士前期課程修了
一般社団法人幸せなコミュニティとつながり実践研究所 理事
陸前高田市元市議会議員(在籍期間2015年9月〜2019年9月まで)
地方政党とうほく未来創生 副代表
『政策起業家が社会を変える ソーシャルイノベーションの新たな担い手 M・ミントロム 著 石田祐 /三井俊介 訳』

編集:芦川智里
インタビュアー:山本晃平
編集協力:野村美並
写真:Trine Villemoes,ほかSET


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