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【豊中:ページ薬局】薬局と本屋の二刀流!地域に根付く新ビジネス

『50代からの本さんぽ』へようこそ。

 このシリーズは、50歳を迎える本好きライターが素敵な本屋さんを取材し、その本屋さんの「本」に向けた思いを訊き、そこから私にとって「本」はどんな存在なのか考えてみようと始めました。

 第2回目は、大阪府豊中市にある「ページ薬局」さんです。
薬局?本屋さんへの取材だよね?と思われたかもしれませんが、こちらは調剤薬局に併設された本屋さんなのです。

 阪急宝塚線の蛍池駅から歩いて3分ほどのところにページ薬局はあります。

 駅からお店へ向かう間、駅を利用する学生や、この地に長く住んでいらっしゃるような地域住民の姿が見受けられました。駅近ではありますが騒々しさはなく、おだやかな空気の流れを感じました。

 ページ薬局さんで取り扱っている書籍は、ビジネス書や文芸書、それに本屋大賞受賞作品や地元、豊中市関連の本などの新刊本が置かれています。

 並べられた本に飾られているPOPは、ページ薬局のスタッフさんが書かれているそうです。

 薬剤師と書店員の二刀流である瀨迫(せさこ)さんですが、もともと読書習慣が全くなかったとか。

 そこで、どのような経緯で薬剤師と書店経営者をすることになったのか、お伺いしました。

ページ薬局さん入り口
店内にはたくさんの本が待ち構えています

書店通いが生んだ新しいキャリア

 もともと読書習慣のなかった瀨迫さんは、就職活動を機に少しずつ本を読むようになりました。社会人になると最低でも週に1回は本屋さん通いも始めます。

 すると徐々に本を読む習慣が身につき、もっと本への興味の幅を広げたいと「1ヵ月100冊読書」をスタート。2019年のことです。

 今はもう読書が生活の一部になったため「1ヵ月100冊読書」は行っていませんが、当時チャレンジすることをSNSで発信すると知人からおすすめの本を紹介されるようになりました。

 そんなある日、瀨迫さんは1冊の本と出合い、その話の内容が強く印象に残ることになります。
 その本の名前は『えんぴつの約束』アダム・ブラウン著(飛鳥新社)。
一流コンサルタントがインドで出会った少年の言葉がきっかけとなって、世界中に学校を建てたというノンフィクションです。

 知人からのおすすめ本や、本屋に行ったことで出合えた『えんぴつの約束』という1冊は、おすすめされなかったら出合えなかった本であるし、本屋に行かなければ出合えなかった本です。瀨迫さんは、そういった本との偶然の出合いがあることを再認識しました。 

「本に即効性があるとは思いません。本を読んだからといって悩みがすぐ解決するわけではありませんよね。だけど後になって急に、そう言えばあんなことが書いてあったなって思い出すことがありませんか? その体験ができるのが読書であり、私は書店通いを続けていたことで人生に影響を与えてくれる本と出合うことができました」

瀨迫さんのメッセージ

「だから、本を読む人生と読まない人生、どちらが良いかと考えると間違いなく、本を読む人生が良いです」

瀨迫さんのメッセージ

 本には偶然の出合いがあることを再認識したことで、やがて瀨迫さんの心に「本に関わる仕事がしたい」という思いが芽生えました。
 書店通いが生んだ新しいキャリアの誕生です。

待ち時間を有効活用!薬局で本を楽しむ新習慣

 そして2020年6月、調剤薬局に書店を併設した「ページ薬局」はオープンしました。

 “たった1ページが人生を変える”という思いが込められた店名。
コンセプトは「普段、本屋に行かない人にも薬局に本を置くことで偶然の出会いを提供する」

 書店での勤務経験がない中で本屋さんをするにあたり、大変なことはなかったのでしょうか。

「お客さんから注文のあった、たった1冊の本を仕入れることの大変さが身に沁みました」と当時を思い出しながら、個人書店は特に取次との契約と仕入れのルート確保が最大のネックだと答えてくれました。

壁一面にPOPの添えられたたくさんの本

 書店経営の難しさについては、このところ報道されているのをよく目にします。

 にもかかわらず、薬局内併設という形で書店を開業した理由はなんでしょうか。

「色々な考え方があると思うのですが」と前置きし、「本屋がビジネスとして成り立つのか不安に思ったけれども、他業種を掛け合わせれば成り立つのかもしれない」と、薬局内に併設した書店を開業することを決意したのだとか。

 そのあとこんな本音もポロッともらしてくれました。
「もし書店単体で成り立つビジネスモデルが私に立てられたなら、薬剤師でなくても本屋をやってみたいかも……」と。

 処方箋を持ってページ薬局を訪れたお客さんに薬ができるまでの待ち時間、スマホを見るのではなく、本と触れ合うという選択肢を提供できる。それが薬局内に書店を併設したメリットだそうです。

 ページ薬局への口コミには「ここで待ち時間に本を読めるのが良い」と書いて下さった方がいたと話す瀨迫さんに笑顔が浮かんでいました。
 
 薬局へは処方箋から薬を調剤してもらうのが目的で行く人が多いような気もしますが……。
 
「たしかに薬局へは処方箋がないと入りづらいかもしれません。ですがページ薬局では書店を併設していますので、処方箋がなくても本を見るためだけに来ていただいても大歓迎です」

 実際に本だけを見て帰るお客さんもいらっしゃるそうです。そのうえでこのようなご提案もありました。

「本が目的でページ薬局に来たとしても、もし身体のことで心配なことがあればお声掛け下さい。薬剤師でお答えできる範囲であればご相談に応じることができます」

【ページ薬局開店4周年記念】文庫本100冊プレゼント!


 ここで大切なお知らせです。

 2024年6月1日、ページ薬局が開店して丸4年を迎えました。
そこでページ薬局では抽選で100名の方に文庫本をプレゼントするというイベントが開催中です!

プレゼントされる文庫本はこちらです。

《プレゼント企画の対象本》
『プラスティック』井上夢人(著)
講談社文庫

 なぜこの文庫本をプレゼントするのか。それには理由があるのです。
それをご説明する前にお伺いします。あなたは「本屋大賞」をご存じでしょうか。

「本屋大賞」とは、過去一年の間に新刊書店の書店員さんが自身で読み、おすすめしたいと思う本を選んで投票。
その集計結果から大賞作品が選ばれる、書店員の投票から選ばれる賞です。

 ページ薬局4周年記念でプレゼントされる『プラスチック』は、2024年発掘部門「超発掘本!」に選ばれた文庫本なのです。
「超発掘本!」は、本のジャンルを問わず、投票された中から選ばれた1冊に贈られる賞です。

 それだけではありません。なんとこの本を推薦したのは、ページ薬局で管理薬剤師としてお勤めの尼子(あまこ)慎太さんなのです。

「超発掘本!」が、ページ薬局のように他業種と掛け合わせた書店に勤める書店員の推薦文で選ばれたのは今回が初めてのことだとか。
 薬剤師が推薦した本が選ばれたこと、そしてなにより『プラスチック』の物語の面白さを多くの人に知ってもらいたいとの思いで、プレゼントすることに決まりました。

『プラスチック』は、30年前に発売された小説。2024年の本屋大賞「超発掘本!」に選ばれたことで重版がかかり、著者の井上夢人先生も大変喜ばれたそうです。

 授賞式のスピーチでは、推薦者の尼子さんがスピーチをなさいました。
その時の様子をぜひご覧下さい。

55:00あたりからスピーチをご覧いただけます。


 プレゼント詳細は、ページ薬局のX(旧twitter)にて公開されています。
そちらをお読みいただき、ぜひ応募してみてはいかがでしょうか。

おわりに

 もともとは読書習慣のなかった瀨迫さんですが、薬局内に書店を開いた今では、本を読む習慣のない人にも本を手にしてほしい気持ちが強くなってきたそうです。

右:薬剤師の瀨迫(せさこ)さん
左:管理薬剤師の尼子(あまこ)さん

 本好きな人が読書習慣のない人に対して、「本を読むのは大切」だと言ったところで、その言葉が相手に響くことはないかもしれません。

 しかし、空き時間に何気なく本を手にする環境があれば義務感からではなく、気楽に本を読むことができるのかも。言ってしまえば、本の表紙を見るだけでも読書といえるのではないかと、私は思います。

 本の良さを伝えるため、私のように書店員でなくてもできることあるのかもしれない。そう再認識できた取材でした。

おわり


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