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やるかやられるかの世界を生きる~統合失調症である私のサバイバル術その㉒~あるひとこと

前回まで

仕事がない・・・精神保健福祉士の通信課程もスムーズにはいかず・・・人とのつながりもあまりなく・・・再び八方ふさがりのような状況に陥ってしまいました。
やるかやられるかの世界を生きる~統合失調症である私のサバイバル術その㉑~迷宮に・・・|せっと|note
今回は、そんな自分に起きたさらに追い打ちをかけるような出来事についてお話ししていきます。

現場実習が始まる


精神保健福祉士の受験資格を得るためには、当時は2週間の施設実習がありました。この実習が今思い出しても頭を抱えてしまうくらいボロボロなものでまあひどい有様でした。
実習先は北関東にあった温泉宿泊施設で、そこで精神疾患がある方々がホテル業務などに実際に従事しながら訓練するという業態の事業所でそこに泊まり込みで行われました。
行く前までは自分の中では、訓練している方々も自分と同じ精神疾患がある方々、同じような経験を持つ者同士分かち合えるだろう、以前通っていたデイケアでも仲間と打ち解けることができていたし・・・なんて割とお気楽に考えていました。

しかし、実際実習に入ってみると、全く違うものでした。
実習先で働いているメンバーさんたちは、当然私が精神障がい当事者であるなんてことを知る由もなく、そこで働くスタッフさんたちもそれは同じで精神保健福祉士を志す学生として私に接してくださっていました。

あれ、なんか違う・・・


精神保健福祉の世界を初めて内側からこの時垣間見て、「自分が精神障がい当事者だからその経験も活用できるはず」、といった自分の考えに対して、「自分はどうやら思い違いをしていたのかもしれない」、「そんな甘い世界ではなさそう」、なんてことを感じ、ひどく動揺したことを覚えています。
内側から精神保健福祉士の方々の仕事ぶりやメンバーさんとのかかわりを目の当たりにして、自分が武器になると思っていた「精神障がい当事者経験がある」ということがそれだけではあまりに弱弱しいものであるように感じました。
その現場で働いているスタッフさんたちはいろんな福祉の知識もあるし電話などでテキパキとやり取りをしている。また、メンバーさんたちからどのスタッフさんも慕われている。皆さんのことがとてもまぶしくキラキラしているように自分には映りました
スタッフさんたちと自分のことを比較してしまいそのことで自分がひどくみじめであるように思い、そしてまわりの人たちもみんな自分のことをそのように「使えないヤツ」、とみているとここでも感じてしまいました。

甘かった自分・・・


さらにそこで働いているメンバーさんたちも自分にとってはとてもキラキラしているように映りました。皆さん仕事に就くことを目指して、そして自分の担っている役割に対して責任をもって取り組んでいる・・・。一緒に作業をさせていただいたあるメンバーさんから「お金をもらっているんだからね、中途半端なことをしたらだめだよ」、と言われたことをよく覚えているのですが、当時具合が悪いといってはすぐに仕事を休んでいた自分に対しても言われているような気がしてとても恥ずかしくなりました。

「自分よりよっぽどみなさんの方が働けているではないか」、みたいにも思え自分が本当にだめだめであるかのような思いが日増しに強くなっていきました。
実習期間中、頭の中では絶えず「お前は使い物にならない」、といったような自分に対してダメ出しをするようなワードがぐるぐるしており、それだからかなりぎこちない態度で実習を行っていたように思います。
中日ごろに実習巡回に来た実習指導の先生からも「あら、まだ緊張しているの?」、という言葉かけをされたぐらいでしたので。

そんな感じで自分の中にあった淡い希望がいきなり砕け散った思いをした実習期間でした。
希望や自分の中の小さな自信が砕けてしまったので、利用しているメンバーさんたちともどうやってかかわったらいいのかわからなくなってしまっていました。
今にして思えば、「自分も同じ精神疾患を抱える仲間」、として、フラットな視点でかかわる方法もあったのかもしれません。
ただ自分の中では前述のようなスタッフさんの動きを見ていましたので、そのように動かなければいけないのでは、みたいな考えが出てきて、でも自分にはどのように動いたらいいのかはわからなくて、完全に自分を見失い、迷走していました。
そのためメンバーさんたちともなかなか打ち解けることもどのように声を掛けたらいいのかも分からないままでした。

メンバーさんからのある一言


そんな自分に追い打ちをかけるようにある日、ひとりのメンバーさんからとても衝撃的な一言をもらいます。

「せっとさん、僕たちのことがそんなに怖いですか?もっと普通に接してください」

返す言葉が見つからず、フリーズしてしまいました。非常にショックでした。私は、彼らとは同じ精神疾患を抱える者同士、なかまであると思っていたのに、彼らは自分のことをなかまとみなして受け入れてくれていないし、それどころか信用もしてくれていない。
さらには、支援者としても自分のことを認めてくれていない。
仲間としても、支援者としてもまったく受け入れられない自分という現実を突きつけられてしまい、なすすべがなくなった思いでした。実習も、精神保健福祉士を目指すこともすべてやめてしまいたい、自分にはとても無理だ、なんてことを真剣に思いました。
もっと言えば、自分の存在自体、自分が唯一よりどころにしたいと思っていたことに対して否定されたかのように感じてしまうくらいの大きな一言でした。

この日以降、さらに自分の実習中の態度はぎこちなくなっていったように思います。さらに自分の殻に閉じこもってしまいました。なんとか事件を起こさず実習期間を終える、ただただそのことを毎日考えて過ごしていました。
当時の実習日誌は今でも手元にありますが怖くて開くことができません。それほどひどいダメ出しはされていませんが内心施設のスタッフさんからの評価は低かったのではないかなと思ってしまいます。

この時のことを思うと、今それなりに仕事がこなせている自分が不思議な感じです。
しかしこの時言われた言葉は今でも大きく自分の中に残っていますので、もしかしたら自分が仕事をしていく上で決して忘れてはいけないことであるようにどこかで思っているのかもしれませんね。
もっと言えば、福祉の仕事をしていく上で自分はメンバーさんたちとどうかかわっていったらいいのか、といったような仕事観、哲学を考えるきっかけになった出来事でもあったように思います。

今回はここまで。実習期間のエピソードについては仕事に就いてからも長い期間なかったことのように心の奥底に封印してきていました。
しかし考えてみると、今ピアスタッフとして働く中での自分のかかわりを考えるうえでも、この実習期間中のことは結構大きな意味がある出来事なんだろうな、なんてことも思います。

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