初体験

ノルウェイの森を
はじめて読んだとき
ぼくは19歳だった
こんなに読みやすい小説が
世の中にはあるんだ
それが、ぼくの素直な感想

はじめてアイスをたべた日
ぼくは
ショーネン野球にはいってて
親御さんの差し入れた
ガリガリ君のソーダ味
口のなかがカラカラで
真夏の練習中だったから
全然、有難いとは思えなかった
感謝の気持ちは芽生えなかった
味は不味かった、酷かった
当時のぼくには

はじめて聴いたレコードは
イモ欽トリオのLPだった
ぼくは普通の子だった
ハイスクール・ララバイ
黒板にむかって
白いチョークを投げるように
ワインド・アップのフォーム
ひとり、鏡の前で練習した

はじめて
学校に行かなくなったのは
17歳の夏休み明け
ぼくには将来の夢もなく
先生たちの話す哲学は
全く心には響かなかった
そして、3年の始業式の翌日
高校を自主退学した

はじめて
ひきこもりになったのは
それから約二ヶ月後の夏
体と心は疲労し
精神も病んでしまった
学歴社会に押しつぶされたと感じた
人生のおわりを覚悟した
二十歳になるのが嫌だった
まだ女の子と付き合ったこともない
セックスも愛も知らないままに
ぼくはひとり死んでいくのだ
生きる意味は考えたくない
理由は他の大人に任せよう
ぼくは子供だから
そんな曖昧な気分のまま
ぼくは
はじめて二十歳になった

結局のところ、
ノルウェイの森のせいで
村上春樹の小説は
全部、文庫本で
ほぼほぼ
買い揃えることとなった

風の歌を聴け
1973年のピンボール
回転木馬のデッドヒート
羊をめぐる冒険
ダンス・ダンス・ダンス
やがて哀しき外国語
パン屋再襲撃
国境の南、太陽の西
世界の終わりと
ハードボイルド・ワンダーランド
ねじまき鳥クロニクル
スプートニクの恋人
海辺のカフカ
1Q84
一人称単数
ドライブ・マイ・カー
街とその不確かな壁 etc.

何冊読んでも
達成感はない
皆無
なにもない、
誰も存在しないような
静寂の世界に
その身を置いて
孤独の色を
珈琲の馨と一緒に味わえる
そんな自立(自律)した大人に
今日も
あの日とかわることなく
ぼくは、憧れていた

だけど、
それでいい
寧ろ
それがいいのだ

すべては
世界は
形を変える必要がない程に
実際、整っている

遠くから
遥か彼方から
GPSの通信衛生の先端から
君を
頭の旋毛(ツムジ)を
眺めてみると
すぐに
自分であることに気付いてしまう

誰であろうと
君であろうと
僕であろうと
そんなことは
ごくごく、些細な問題だ

曖昧だと感じたのは
頭ん中
つまり、その映像
イメージが映ったのは
情報を
要らないと判断したのは
君の脳(NO)だ

脳の謎は
未だに解明されていない

だから、
現代は生活しにくい
もはや
生きづらさがデフォルト
生活は便利になっても
初期設定の変え方も知らない
マニュアルも説明書もない

自分もよく知らないような
眠そうな顔のまんま
会社、学校に向かう朝の人々

まずは、顔を洗いましょう
そこから一番近くの洗面所で

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