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2分割の世界


一線を越えた途端、別世界に飛び込んだかと思った。

飛び込む前に見えたのは、白く霞がかった青い大型看板に、先が見えない程に白く烟った世界。

色分けされたアスファルト。それはもう、くっきりと、淡いグレーと黒に近いグレーの2色に。

私は送迎車に添乗していた。真っ黒な雲があったが、辛うじて雨は無かった。残る二人が無事に濡れずに帰れれば良いが、天候は保たないだろう。せめて小降りであるよう、願っていた矢先だった。

色分けされた、その境界を越えた途端、踏み込んだ場所は、まるで異世界であった。

 塞がれる視界。
 車を激しく叩く音。
 横殴りの雨。
 煽る程の風。
 
作動させたワイパーが視野を確保するのが追いつかない勢いで、雨がフロントガラスを襲う。風と雨が波打つのが目で見える。場所により恐らくは数センチの水溜りがあり、タイヤが大きく水を跳ね上げていた。

大荒れの台風の現場中継。その真っ只中に突き落とされたといった感じだった。

ここまで見事に世界が切り替わる場面に出会ったのは初めてだ。一瞬、言葉を無くし、呆ける。目の前の光景に固まる。その次は笑うしか無かった。

さて、問題は2名のお年寄りである。車椅子の方は、特に心配だった。下車してから玄関までは距離があり、しかもバスタオルでは瞬殺でびしょ濡れになる雨。ハラハラしつつご自宅へと向かった。

雨は緩急無く急ばかり。坂道には降った雨が滝のように下っている。視界は悪く、車の色によってはかなり見え辛い。ヘッドライトを点けていない車もあり、信号のない交差点では注意を要した。

通過するトンネルではバイク利用者が雨宿り。いつもはすれ違いが少ない細道は、何故か対向車が多い。イレギュラーがあっても、やる事は変わらない。無事にご利用者様を自宅へと送る事だ。

ご利用者様の自宅駐車場へは無事に着いた。肝心の雨は、まだ、大粒。風の方は止んでいたが、玄関までの移動は憚られる雨足。到着した旨、お伝えして、暫く車で待機する。5分程だろうか。雨が細くなったのを見計らい、ありったけのバスタオルでご利用者様を包んで移動した。

私達はびしょ濡れだが、ご利用者様はほとんど濡れずにお送りする事は出来た。 

「あんた達も大変だねぇ。こんなに濡れちゃって。風邪引いちゃうよ」

一人残ったご利用者様が、暖かい言葉を掛けて下さったのが嬉しい。その方も無事にご帰宅出来た。

それにしても不思議な感じである。一瞬にして激変。アトラクションに入った気分にも似た興奮があった越境であった。

※ 舞台裏 ※

ある意味、介護送迎あるある話。

小説っぽく書いてみましたが、実際の突入時はこんな感じ。

「えっ?! マジか! 状況違い過ぎない!」
「視界悪いですね」
「――(自宅に)着いても(利用者さん)降ろせないよね」
「取り敢えず、小降りになるまで待機―― だけど、おさまるかな」
「どうかな(´-﹏-`;)」
「待機するしかないですけどね」
「どうするかなぁ」
「(;´д`)トホホ…」
「あまりにも(天気が)違い過ぎて笑うしかない!」
「ですよね〜」

ってノリでした。台風の送迎は覚悟してますが、雨具を持たずに出た送迎で、ゲリラ豪雨は勘弁して欲しいかな。

他のコースだとビッショビシだよなぁと思ってた場所があるんですが、そのコースの職員さんは、戻ってすぐにフルで着替えてました。水滴ってたもんね。お疲れ様でした。

日々頑張ってる皆様、天候が不安定です。体調にも気を付けて下さいね。

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