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親友との出会い②ファーストインプレッション



二人の共通点


ドゼとボナパルト。
共通点の多い二人です。

・貧しい地方貴族の息子(長男でない)
・王立士官学校の地方校で学ぶ(ボナパルトはブーリエンヌ、ドゼはエフィア)
・ほぼ隣接した地域で、王の将校として軍務についた
・貴族でありながら革命軍として国に残った

実は、ボナパルトとの会見前、ドゼは、イタリア軍はライン・モーゼル軍の資産(兵士や馬など)を、軒並み奪うつもりではないかと危惧していました。また彼は、イタリア軍は大層裕福なようだが、その資金はいったいどこからくるのか、疑問に思っていました(現地からの略奪に決まってます)。

さらに、ライン軍から援軍に連れて来られた兵士たちを訪問し、高級将校達の豊かな暮らしとは裏腹に、彼らには食べる物もろくになく、気候も肌に合わない上に、給料が支払われないこともあり、兵士たちはイタリアへ来たことを後悔していることも知っていました。

いろいろ黒い疑惑の中、ボナパルトとの会見の日が訪れます。


初対面の印象


7月28日。パッセリアーノのマニン提督の邸宅で、ドゼとボナパルトは初めて顔を合わせました。

マニン提督邸
マニン提督邸
マニンはベネチア最後の提督で、ボナパルトによって解雇されていました。彼の邸宅をボナパルトが接収、居住していました


ボナパルトがドゼに、深い印象を与えたのは間違いありません。この瞬間からドゼは、ボナパルトを一度として裏切らなかったからです。ボナパルトもまた、後にエジプトで、二度に亙って自分の命令を無視した(それはやむを得ない理由があってのことでしたが)ドゼを、マレンゴ直前に許しています。

一般的に、二人の友情は相互であったと言われています。

ただし、私の小説やブログではそうではありません。もっと深掘りし、私見を交えています。

小説リンク
小説「汝、救えるものを救え――逃げろーーーっ!」
エジプト遠征の物語です

小説の根拠となった史実の数々はこちらに。↓
ブログカテゴリ「エジプトからマレンゴへ」第1話


ちぐはぐな友情


ドゼは、ボナパルトの奇妙な印象を書き残しています。

「彼は誇り高く、秘密主義で、執念深く、決して容赦しない。 敵を地の果てまで追いかける。(中略)
(ボナパルトが不可解な資産をたくさん持っていることを記した後)彼は高潔さや繊細さを信じておらず、それを愚かと称し、無駄であって、この世には存在しないと主張している。」

ただしこれは、ドゼが聞いた伝聞で、ドゼ自身の印象ではありません。けれど彼がこの噂を書き留めたことに、私は重きを置きたいと思います。なぜならドゼは、とても用心深い人だからです。いかなる場合でも決して、尻尾を掴ませるような真似はしません。

ついでながらドゼは、ボナパルト夫人について、歯並びや口の形が悪い、などの酷評を加えた後、「(夫には)かなりassez 愛されている」と付け加えています。やきもち?

ジョゼフィーヌ
ボナパルト夫人ジョゼフィーヌ


監視と尾行


ところで、ドゼは軍服ではなく、「ブルジョワ」に化けての旅でした。例によって地味で、どちらかというとみすぼらしい旅装であったようです。

マントヴァの包囲戦場跡を視察した時のことです。

4頭立ての馬車ではあったけれど、宿の人は、ドゼのことを服装通りの人物と決めつけ、ひどい部屋をあてがいました。ところが、それから少しして、宿に訪問客があり、眠っていたドゼの副官はたたき起こされました。寝ぼけ眼の彼に、訪問者は、ドゼへの賛美の言葉を並べ立てます。

ドゼは外出中でした。彼が帰ってみると素敵な部屋が用意されていたということです。

これは、 "Journal de voyage du Général Desaix, Suisse et Italie" に収録されているエピソードです。ドゼ自身の手記ではありますが、公開を目的として書かれたものではなく、個人的な心覚えのようなものです。

もちろん訪問者というのは、ボナパルトの使者だったのでしょう。あてがわれた部屋のあまりのみすぼらしさに介入したものと思われます。

ということは、ボナパルトはドゼに尾行をつけていたのですね。この一件でドゼはボナパルトの尾行に気がついたでしょうが、それについては、何も記していません。ただ単純に、部屋が立派になったと書いているだけです。

ドゼ将軍。
彼自身の言葉も、決して額面通り受け取ることはできません。

この"Journal de voyage …" の前書きで、シュケ Arthur Chuquet が、ドゼに関する素敵なエピソードの数々を披露してくれています。特に、軍医のラレーから得たエピソードがチャーミングで。
小説に使いました。わりとそのまま書いてます。

小説へのリンク
「ラレー医師、ドゼを語る」


モローの依頼


ちなみに、モローがドゼに託した任務ですが……。
(例の、「バイエルンとシュヴァーベンに戦争拠出金を支払うように、イタリアの勝者の貴方から恫喝してやって下さい」です)、
  → ボナパルトのイタリア軍とドイツ方面軍

ドゼからモローの依頼を聞いたボナパルトは、
「俺の交渉相手はドイツの領邦じゃない、オーストリアだぞ。そもそもなんでこの俺様が、モローの役に立たなきゃならないんだ?」 
と言って、あっさりこれを斥けてしまいました。

これ、ボナパルトからモローへの嫉妬? そうすると二人の 愛情 友情は、やっぱり相互?

とはいえボナパルトは、ドゼが、両方の邦の領主と会う段取りをつけてくれます。




「1797年夏、親友との出会い」各話リンク



親友との出会い②ファーストインプレッション(本記事)


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