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【映画感想・解説】『殺人の追憶』の追憶

「映画の価値は開始10分で決まる」という言葉をご存知だろうか? 映画好きなら『アバン』という言い方も聞いたことがあるでしょう。メインタイトル前、その開始10分くらいの間に何を見せることが出来るか、監督も脚本家もそこにかなりの力を使うわけです。使わないなんて監督、脚本家がいたら、そんな人たちの作品は観ないことをオススメします笑。

さて、そんな最高のアバンを持つ映画。例えば『パルプ・フィクション』のパンプキンとハニバニーの強盗シーン、『レザボア・ドッグス』のライク・ア・ヴァージン(タランティーノすごい笑)、『トゥモロー・ワールド』のカフェ爆破、『魔女の宅急便』のルージュの伝言、『彼女は最高』の結婚報告まで、もうキリがないわけですが、そんな中でも、僕が映画史に残るアバンに認定しているのが、ポン・ジュノの『殺人の追憶』なのです。

草むらの中にひとりの少年がしゃがんでいる。彼の表情をカメラが正面から捉える。彼は草むらに隠れているのか、何をしているのかわからないが、とにかく何か真剣な表情をしている。
カメラのフォーカスがヒュッと手前に合うと、彼の目の前の草に、バッタがとまっているのがわかる。彼はそのバッタをサッと捕まえる。少年はただバッタを捕まえようとしてた。それだけのことだった。

これが『殺人の追憶』のファーストカット。この1カットにポン・ジュノは作品を貫くテーゼを完璧に詰め込んでいるのです。

『いま自分に見えているものが、本当に見ているものとは限らない』

僕のこの考えが正しいか、ポン・ジュノがそう考えていたのか、まっったく確証はないです笑。
「んなこと考えてねえよ」
と言われる可能性も大アリです。しかし、そういう見方でこの映画を観てみてほしい。

このファーストカットから、戦慄のあのラストシーンまで、そのフィロソフィーが徹底的に貫かれているのです。こんな映画はちょっとなかなかお目にかかれない。ポン・ジュノの最高傑作で、アジア映画史上、映画史上でも傑作の部類に入る作品だと、僕は思っています。

ポン・ジュノと言えば『パラサイト』という人もいるでしょうが、僕個人的には『パラサイト』なんてチャンチャラおかしい、お話にならないわけです。『パラサイト』観るくらいなら、『グエムル』観ます笑。イ・ソンギュンを見ると悲しくなりますし……。

ということで、私的最強アバンを持つ映画はポン・ジュノの『殺人の追憶』で揺るぎないのです。

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