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遼子の娘:ショートショート

 特にやることがなかったので、どうすれば夢のなかで夢と認識できるのか、遼子は考えてみた。

 思いついたのは、一か月のあいだ、同じ色の服を着ることだった。もし違う色のTシャツなりを着ていたら、それこそが夢に違いない。

 そう考えて、遼子は赤色の服を10着買い、それ以外は捨てた。

 翌日、彼女は青い服を着ていた。

『さっそく!これは夢ね!これからどんなことが起こるのかしら!』

と胸を躍らせた。

 家を出ると、「ママ!」と呼ぶ女の子の声がした。遼子は独身で子供などいなかったが、夢のなかに子供がいても不思議ではなかった。あぁ!夢よ!

 しかし女の子は、これといって遼子のことを気に掛ける様子も見せないで、彼女の前を通過していった。向かう先には女の子の母がいた。

「もーう!離れないでって言ったでしょう!」

 『ふん。いやに現実的な夢ね』

 考えてみたら、夢が願望を叶えてくれる場所だとは限らなかった。けれども、ここは夢なのだから、例えば人を殺してみたところで、目が覚めればそんな事実はないのだった。だからあの女の子を誘拐してみることも自由にできるし、決して罪に問われることもないのだ。

 そんな風に自分の考えがはっきりする前から、すでに遼子は母子の後をついていた。彼女たちはデパートのなかに入っている書店へ立ち寄った。どうやら母は子に絵本やらを買ってあげる気はないらしく、すっかり本から本へと目を移してゆくのに夢中になっていた。ぼんやりと、タイトルや帯の謳い文句に目をひかれ、それら少ないヒントに触発されて起こる有形無形の様々なイメージが、要塞のように堅牢な現実の形象を完膚なきまでに瓦解し、漠然とした妄想に耽るしかない人の表情、要するに本屋のなかを彷徨う人々が共通して見せるあの虚ろな表情だ。
 そんな母の周囲を右へ左へと駄々をこねる女の子。絵本のコーナーに行きたくてしかたがないらしい。するうち、女の子は母のそばを離れた。
またとない絶好の機会だった。

 てくてくと足早に歩いてゆく、お人形さんのような愛くるしい女の子の後ろ姿・・・あれが今に自分のものになる・・・考えるだけでもこの上ない喜びだった。夢にまで見た私の娘、私の分身、名前はどうしようかしら、私の名前から《ょ》を取って、《リコ》がいいわ。漢字はそうね、《璃子》がいいわ。

 璃子ちゃん、私のかわいい璃子ちゃん・・・

 そうして彼女は、盗んだ。こっそり、カバンのなかに、絵本を差しこんで。

 ハッと我に返った。赤い服を着ていた。場所も変わらず、女の子も確かに存在していて、絵本の並ぶ角に至ろうとしている。

「こーらー。りょーこ!勝手に行かないでって言ったでしょー」

 後ろを振り返ると、母とすれ違った。

 「これ欲しい!欲しいっ!買って!お願い、買って!ママお願い」
「えーっ。この間買ってあげたばかりでしょー?約束したでしょ?一月に3冊までって」

 女の子が抱きかかえている絵本を見てみた。《リコちゃんのおもいで》と題がうたれていた。

( ´艸`)🎵🎶🎵<(_ _)>