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咲子の情熱:ショートショート

どうすることもできない。世界については、どうすることもできない。考えるだけ時間の無駄。頭を悩ますだけ時間の無駄。大事なことは、それが自分の金になるか、ならないか、だ。
世界が危機にないとき、俺の生活は対照的に危機的だった。世界が危機に陥ったとき、やはり俺の生活は変わらず危機的だった。
だったら、世界を救う意味なんかないじゃないか。だから大事なことは、ただただ俺が生活できるか、できないかにある。

咲子という付き合って間もない彼女が、熱心にデモ活動や抗議活動に駆り出ていることを知って、すっかりシラけてしまった。もはや肉体的なこと以外に彼女を魅力的に思うことはなくなっていた。逆に言えば、手放すにはまだ早かった。

だけどうっかり、環境破壊に抗議するデモに参加して帰ってきた彼女に尋ねたしまった。

「で、君はなにを得られたの?」
「なにも。なにもよ。なにも得られなかったわ。どうしてそんなこと訊くの?時間の無駄だったと思う?」
「正直に言えばね。今日、働いていれば、1万円は得られたじゃないか」

彼女は黙り込んだ。
これでもう俺たちは終わりか。

「1万円がそんなに大事?」
「少しは生活が楽になるだろう。美味しいものだって食べれるかもしれない」
「なんとかしたいって思わないの?」
「どうにもならないし、どうかなったとしても、俺たちの暮らしは何も変わらない」
「あなたの暮らしが何も変わらないのは、あなたが何も変えようとしなかったからじゃないの」

俺はぎくりとした。言わんかたない怒りの激情が込み上がってくる。

「女のくせに!」と言い放って、彼女の頬を引っ叩いた。

「環境破壊なんかでっち上げだろう!仮に本当だったとして、君もその恩恵を受けているじゃないか!」

咲子は少しもたじろかなかった。

「ええそうよ。だから抗議しちゃダメだっていうの?原爆のおかげで死なずに済んだ人や未来まで続く孫たちが、その恩恵にあずかっているからって、原爆を否定しちゃいけないっていうの?貴方の理屈から言ったら、そういうことでしょう?さようなら!」

( ´艸`)🎵🎶🎵<(_ _)>