SFラブストーリー【海色の未来】4章(後編)−2
過去にある
わたしの未来がはじまる──
穏やかに癒されるSFラブストーリー
☆テキストは動画シナリオの書き起こしです。
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「……充電切れてんじゃん。はい」
平気なふりをして、海翔くんがスマホを差し出す。
「……」
手渡されたスマホを、ほとんど無意識ににぎりしめる。
──どうして……こんなことに……?
「……とりあえず、今晩どうすんだ? もうあの部屋にはもどれないだろ」
「あ……」
──そうだ。わたし、家がなくなっちゃったんだ……。
──ううん、家だけじゃない。なにもかもだ……。
この状況を受け入れられるかどうかには関係なく……ありとあらゆるものを、なくしてしまったことになる。
──これから、いったいどうすれば……
「比呂ちゃん、行くとこなくなっちゃったの?」
「え……!?」
いつの間にか、流風くんがそばに立っている。
「お、お前っ、立ち聞きしてたのかっ」
海翔くんがむぎゅう、と流風くんの頬をつねる。
「イタタタ! もうっ、なにすんだよっ!」
パッと海翔くんから逃れた流風くんだったけれど、
その手には海翔くんのスマホがにぎられている。
「い、いつの間に!」
「事情はわかんないけど、とにかく緊急事態なんだね。ボクにまかせて」
流風くんは、取り返そうとする海翔くんをひらりとかわし、どこかに電話をかけはじめる。
「なんで、お前がロック解除できんだ!?」
「海翔の考えるパターンなんて、単純だからすぐわかるよ。……あ、もしもし、おじいちゃん?」
──マサミチさんに電話を……?
「ボクだよ。あのね、比呂ちゃん、今日、家に入れなくなっちゃったんだって。ウチに泊まってもいい?」
「ちょ、ちょっと、流風くん!? そ、そんなムチャ言ったら──」
「おじいちゃん、OKだって」
「え!?」
「お前……メチャクチャ行動早いな……」
「まあね。感心した?」
「ああ……って、なわけねえだろ! なに勝手なことしてんだよ!」
「さ、帰ろうよ。おじいちゃん、比呂ちゃんの夕食も用意しとくって」
「そ、そんなことまで……!?」
「ほら、行くよ」
タタッと軽快な足音がして、すぐに流風くんの姿が公園の木々の向こうに消える。
「おいっ、流風! またひとりで……ったく、仕方ねえな」
海翔くんは憮然としてわたしを見る。
「……行くぞ」
「で、でも……」
「いいから走れ!」
そう言うと、海翔くんがいきなり駆けだした。
「あっ、ま、待って!」
ひとりになるのが怖くて、わたしは夢中で海翔くんの背中を追いかけた──。
「比呂ちゃん、おかえりー!」
マサミチさんと美雨ちゃんが、食堂でわたしたちを待っていてくれた。
「美雨、喜んでる場合じゃないんだよ」
マサミチさんが美雨ちゃんを軽くしかり、わたしのほうを向く。
「流風から電話で聞きました。大変でしたね。部屋が水びたしだったんですって?」
「え……」
「お風呂の水があふれたとか……」
──あ、そうか。流風くん、マサミチさんにそんなふうに説明したんだ……。
気づいたとき、隣にいた流風くんが口を開く。
「そうだよ。上の階の人がお湯をあふれさせちゃって。ベッドもカーペットもぐちゃぐちゃだったよ」
「そうか……それは気の毒に」
流風くんの話に、マサミチさんは深々とうなずいた。
──すごい。10歳でこんな作り話ができるなんて……。
驚いていると、海翔くんがぼそっと言う。
「……ま、災難だったよな」
そういうことにしとけという意味なんだろう。
海翔くんは、わたしに小さくうなずいた。
お手伝いさんがわたしの分の食事も手早く用意してくれ、夕食がはじまった。
──やっぱり、お手伝いさんがいるんだ。
──それにしても、なんだか高級レストランに来たみたい……。
上質で大きなダイニングテーブルにも、給仕してもらうことにも慣れていないものだから、ちょっと緊張してしまう。
──現実……だよね……?
こんな場所にいると、いろんな感覚がますますあやふやになってくる。
向かいの席に座るマサミチさんをそっと見やると、美味しそうに食前酒を飲んでいる。
──マサミチさんをだましてるみたいで、良心がとがめるな……。
──だけど、本当の理由なんか言ったって、絶対わかってもらえるはずないし……。
──わたしだって、まだ、なにがなんだか……。
「流風だけいつもずるい」
隣の席の美雨ちゃんが、わたし越しに流風くんをにらむ。
「ボクが? なんで?」
「暗くなってから勝手に家を出たくせに、おじいちゃんにぜーんぜん怒られないんだもん」
美雨ちゃんが不服そうに言う。
「流風は男の子だからね」
「だからってえ」
美雨ちゃんがむくれていると、流風くんがニヤッと笑う。
「そうそう、ボクは男の子だからねえ」
「なんかムカつく!」
「なんならディベートでもする? 受けてたつよ?」
「ディ……? また難しいこと言ってごまかそうとする!」
「ちっとも難しくないし」
「ほら、その態度がムカつくの!」
わたしをはさんで、流風くんと美雨ちゃんが大騒ぎになっている。
──10歳の美雨ちゃん……。この子があの17歳の美少女だったんだ。
──見おぼえがあるはずだよ……。
今まで気づかなかった自分にあきれたけれど、こんなこと気づくわけがないとも思う。
──まさか17歳の女子高生が、10歳だった頃の姿で目の前にあらわれるなんて……。
──ということは……海翔くんが美雨ちゃんが言ってた、お兄さん……?
「マジうるせえな。ホント、お前らガキだよな」
海翔くんの言葉に、美雨ちゃんがフンと鼻を鳴らす。
「お兄ちゃんと流風のほうが、いつもうるさいと思うけど?」
「はあ?」
「10歳と同レベルの19歳ってありえなくない? ねえ、比呂ちゃん?」
「えっ……そ、それは……」
──た、確かに……。
──どっちかというと、海翔くんの方が子どもっぽいかも。
思わず、プッと吹き出してしまう。
「なに笑ってんの?」
テーブルの向こうから、海翔くんににらまれる。
「ご、ごめんなさい……」
すると、マサミチさんの、よかったと言う声がした。
なぜかマサミチさんはニコニコしながらわたしを見ている。
「マサミチさん?」
「いや、比呂さん、ずっと沈んだ顔されてたから」
「あ……」
──マサミチさん、心配してくれてたんだ。
「とりあえず、今日は安心して、ゆっくり休んでくださいね」
「はい……ありがとうございます」
──見ず知らずのわたしに、こんなに親切にしてくれるなんて……。
この状況で、もしもひとりだったら、わたしはどうなっていただろう。
不安でたまらない今、マサミチさんの優しさに心から感謝した。
食事のあと、わたしは用意してもらった客人用の寝室に入った。
2階の窓からは、庭の黒い木立が風にさわさわと揺れているのが見える。
──これからどうしたらいいのかな……。
考えるべきことが山ほどあるのに、ついぼんやりしてしまう。
とにかく疲れ果てていて、頭の芯がじんと鈍く痛む。
そのとき、部屋にノックの音が響く。
「は、はい……!」
──誰かな……。
ドアを開けると海翔くんが立っていた。
「着替え。俺が昔着てたスウェットで悪いけど」
「ありがとう……」
グレーのスウェットスーツを受け取り顔をあげると、かたい表情でわたしを見おろす海翔くんと間近で目があった。
「正直……まだあんたのこと、信じきれてない」
「……」
「言い方が悪いかもしんないけど、なにか魂胆があって、俺たちを騙そうとしてんじゃないかって……」
「うん……そんなふうに思われても仕方ないよ」
「……だけど、あんたがウソをついてるとも思えない」
「え……」
「正直、混乱してる」
「海翔くん……」
「とにかく、話を聞かせてもらうのは明日にする。……おやすみ」
「おやすみなさい……」
海翔くんが廊下を行き、自分の部屋へ入るのを見とどけてから、ドアを閉める。
──明日……か……。
海翔くんの言う、『明日』がどうなるのか、想像もつかない。
今のわたしは、先のことをなにひとつ考えられなかった──。
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