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SFラブストーリー【海色の未来】2章(前編・上)−1

過去にある

わたしの未来がはじまる──

穏やかに癒されるSFラブストーリー

☆テキストは動画シナリオの書き起こしです。

ぜひ動画を再生していただき、BGMつきでお読みください♪

Youtubeの方が内容先行しておりますので、再生を続けて先読みすることも可能です。)


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店に入ると、古い博物館のような微かに甘い香りがした。


「寝る以外はほとんどここにいるから、この店も我が家みたいなものなの」


奥へ進みながら、おばあさんが言う。

店には洋食器から和ダンスまで、さまざまなものが並べられている。


──古民家風の外観とはかなりイメージ違うかも……。


和と洋がセンスよくミックスされていて、雑誌に載っているちょっとオシャレな店みたいだ。


「じゃあ、ここに置いてくれる?」

「あ、はい」


どっしりとした木のテーブルの上にダンボール箱を下ろす。


「ごめんね、ぶつけちゃって」


おばあさんが箱に向かって声をかけた。


──あ、そうか。

──さっき道で聞こえた「ごめんね」は、おばあさんが箱の中の古道具に言ったんだ。

──きっと優しい人なんだろうな。


柔らかに微笑む横顔を見て、そんなことを思う。


「手伝ってくれてありがとう。ホントに助かりました」


おばあさんに深々と頭を下げられる。


「いえ……」


出会ってそんなにたたないのに、なんとなく一緒にいて心が安らぐ人だった。

考えてみると麻美が東京に帰ってから、はじめて人とまともに会話したかもしれない。


「そうだ。よかったらお礼にどれか気に入ったの持っていって」


おばあさんがさっき運んできたダンボール箱を楽しげに開ける。


「いえ、そんな、お礼なんていいです……!」


──と言ったものの……箱の中身が気になる。

──なにが入ってるんだろう。


「さ、どうぞどうぞ」

「は、はい……」


結局、うながされるままに中を見せてもらう。


──へえ……おもしろそうなものがいっぱい。


どの家庭にもありそうなものから、ちょっとマニアックなものまでいろいろな雑貨が入っている。

ラクダの置物

水玉柄の湯のみ

フラスコみたいな花瓶  

ビーズでできたコースター

実験室にあるような電流計……。


「今朝、買い取らなくていいからこのままお願いって、お客さまが置いてっちゃったの。

まだちゃんと見てなかったけど、掘り出しものがありそうね……」


おばあさんも興味津々で箱の中をのぞき込む。


「わ、驚いた。ラジカセまで……ん? 今の人ってラジカセ、わかるのかな?」

「あ、はい、なんとなく……」


そのとき、ラクダの置物の下に古いハーモニカが埋まっているのに気がついた。


「これ……出してもいいですか?」

「もちろん。なんでもご自由に」

「ありがとうございます」


ラクダをよけると、ハーモニカ全体があらわれる。

錆びついて音も出なさそうだ。

手に取ってみれば、ネジもいくつかとんでいる。


「それは使いものにならないわね……。ハーモニカ、好きなの?」

「前に練習したことがあったから、懐かしいなと思って。ヘタクソですけど……」


音楽スクールにいた頃、仲間と曲を作ったことがあった。

そのときにハーモニカをまかされ、とりあえず吹けるレベルにはなっていた。


「ああ、ちょっと待ってて」

おばあさんがふいに店の奥に行く。


──どうしたんだろ?


しばらく待っていると、もどってきたおばあさんの手には真新しいハーモニカがあった。


「この前仕入れてきたの。未使用品だから使って」

「えっ、売り物をいただくわけには……。それに、新品なんですよね?」

「いいからいいから、持って帰ってちょうだい」


ニコニコしながら、おばあさんはわたしにハーモニカをにぎらせた。



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店を出て、夕暮れの道を歩く。


──ハーモニカ……もらっちゃった。でもこれ、ホントに素敵だな。


真鍮の手触りが心地よくて、もう何度もにぎったり離したりしている。


──細かい部分のデザインも凝ってる。本当はものすごく高いものかも。

──おばあさん、気づかないでくれちゃったとか……。ま、考えすぎかな。

──それより、どんな音がするんだろう。


唇をあて、そっと息を吹きこんでみる。

まっすぐで深みのある音色が辺りに響く。

すると、少し離れた軒先で植木に水をやっていたおじいさんが、驚いたように振りかえった。


──おじいさん、キョトンとした顔してる。


わたしはいたずらっ子の気分でハーモニカをバッグに放りこむと、素知らぬ顔で通りを歩き続ける。

コンビニを出たとき落ちこんでいた気分が、今は不思議なくらい軽くなっていた。




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