SFラブストーリー【海色の未来】2章(前編・上)−2
過去にある
わたしの未来がはじまる──
穏やかに癒されるSFラブストーリー
☆テキストは動画シナリオの書き起こしです。
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次の日、わたしはおばあさんの古道具屋をたずねていた。
もらったハーモニカがとても安物とは思えずネットで調べてみると、オークションサイトでは同じものが万単位の値段で取り引きされていた。
驚いたわたしはハーモニカを返しに、もう一度この店へやって来たのだった。
「すみません、高価なものだとは知らなくて……」
「どうしてあやまるの? それより、今日も会えて本当に嬉しいわ」
「え? あ、ありがとうございます……」
店に入るなりわたしは大歓迎され、おばあさんの淹れてくれたハーブティーと砂糖衣がたっぷりかかったレモンケーキでもてなされている。
「ハーモニカ、遠慮しないでもらってちょうだい」
「いえ、こんな高価なものいただけません」
「いくらするかなんて、気にしなくていいのよ」
「そういうわけには……」
「もうしまって。お願い」
言葉と一緒に、おばあさんは両手でハーモニカをにぎらせる。
──ちょっと荷物を運ぶの、手伝っただけなんだけど……。
──でも……遠慮しすぎると、かえって悪いかな。
さっきから押し問答をくり返し、もらってほしいと同じことを何度も言わせてしまっている。
だんだんと、ハーモニカを返すことが逆に申し訳なく思えてくる。
──ここはもう素直に受け取るしかないか……。
「では……お言葉に甘えます」
「ええ、そうして。よかった」
「ありがとうございます。大切にします」
「フフッ、ねえ……わたしがハーモニカの価値に気づかないで、うっかりあげちゃったと思って心配したんでしょ?」
おばあさんはからかうように言う。
「い、いえ……」
「これでもちゃんと物の価値はわかるのよ」
ちょっと得意げな顔でおばあさんがウィンクする。
そんな様子に、お茶目、という言葉がぴったりのかわいい雰囲気の人だなと思う。
「若い頃は古いものなんか大嫌いだったわ。でも、亀の甲より年の功。
いつの間にか骨董に目が利くようになるんだもの。人って不思議よね……」
「え? 好きでお店をはじめられたんじゃないんですか?」
「いろいろあったの。ちょっと聞いてくれる?」
おばあさんはそう言いながら、ハーブティーをカップにつぎたした。
ふたりでお茶の時間を過ごすうち、おばあさんはルミ子さんという名前だと知った。
ルミ子さんは亡くなったご主人の代わりに、この古道具屋の店主になったのだという。
ご主人に目利きの修行をさせられたことや、店をついでからのあれこれをルミ子さんはのんびりと話してくれた。
「全然むかない仕事だと思ってたけど、今はもうこれが天職かなって気がするの」
「へえ……そういうことってあるんですね」
いろんなものから逃げて来たせいなのか……
古道具に囲まれた空間で昔の話に聞き入るひとときは、心地のいいホッとする時間だった。
──ルミ子さんの声を聞いてるだけで、なんとなく落ち着くな……。
──わたし、ハーモニカを返したかったんじゃなくて……
──もしかしたら、ただルミ子さんとおしゃべりがしたかっただけなのかもしれない。
自分の本音はよくわからないけれど、手の中にあるカップのあたたかさに心がなごんでいる。
「ホント、今日は気持ちのいい日だわ……」
ルミ子さんが目を細めて、窓のほうを見やる。
開け放った店の窓から入った風が、ルミ子さんの柔らかそうな水色のスカーフを揺らした。
「……ルミ子さんは、お店、おひとりでされてるんですか?」
「ううん、子どもとわたしでやってるの。でも、その子どもが今、海外に旅行中でね。
……あ、子どもって言っても、四十過ぎのおじさんだけど」
「息子さん、もどられるのは……」
「さあ? 2か月先になるか、3か月先になるか。買い付けだって張りきってたけど、要は遊びに行きたかっただけよ、きっと」
口に手をやり、ルミ子さんはフフッと楽しげに笑う。
「じゃあ、それまでひとりきりでこのお店を?」
「ええ。大して流行ってないから、ひとりでもどうにかなると思ったけど……。
こういうときに限って、ネットからの問い合わせが多くてちょっとあたふたしてるところなの」
──地方の古道具屋さんっていっても、今どき直接お店に来る人だけ相手にしてるわけじゃないんだ……。
実店舗とネットショップの両方を切り盛りするルミ子さんに感心する。
──でも、ひとりでホントに大丈夫なのかな。
「早く息子に店をバトンタッチしたいとは思ってるの。でも、なかなかそうもいかなくて。
四十も過ぎてるのに、手のつけられない道楽者なのよ」
ルミ子さんの穏やかな話ぶりだと、普通のお年寄りなら悩んでしまいそうなことも
おとぎ話の読み聞かせのように聞こえてしまう。
「しばらく大変ですね」
「だけど、こんなふうに助けてくれる人もポンとあらわれるし。たぶん、大丈夫」
「は、はぁ」
──たぶん、か。うーん……ちょっと心配……。
おせっかいかもしれないと迷ったけれど、わたしはおずおずと口を開く。
「あの……人を雇ったほうがいいんじゃないですか?」
「あ、なるほどね。でも、どうやって?」
「募集広告を出したりして……」
「広告? ちょっと難しそうねえ」
「簡単ですよ。たとえば表に張り紙するとか」
「張り紙か……そうね。そのくらいなら、わたしでもなんとかなるかな。
どんな方でも採用しますって書けば、きっと誰か来てくれるわよね」
ルミ子さんが嬉しそうに両手をパチンと合わせる。
──ど、どんな方でも?
ルミ子さんのあまりの無邪気さに面食らう。
「い、いや、それだとホントにどんな人が来るかわからないので、条件は決めたほうがいいかと……」
あたり前のアドバイスにルミ子さんが首をかしげる。
「条件……ああ、運命線が長い人、とか?」
──運命……線……?
「……手相の話ですか?」
「そう。やっぱり運がいい人と仕事ができたら、楽しそうじゃない?」
「ま、まあ、もしかしたら、楽しいかもしれないですけど……」
──運命線で決めるのってどうなんだろう。
──それ以前に、張り紙を読んだとたん、みんな引いてしまうような……。
不安にとらわれるわたしをよそに、ルミ子さんはどんな張り紙にしようかと、ワクワクとアイデアを話している。
──この調子で大丈夫なのかな……。
そのとき、店の電話が鳴った。
「あ、また問い合わせの電話みたい。今日は朝から多いわね……ごめんなさい、ちょっと待ってて」
「は、はい……」
ルミ子さんのふわりとした雰囲気が心もとなくて、電話を受けに行くその後ろ姿から目が離せない。
──息子さんがもどるまで大丈夫かな……。やっぱり心配だ……。
とはいえ、わたしがどうこうできる問題でもなく……。
──まあ……なんとかなるよね、たぶん。
無理やりそう思いこもうとしたときだった。
「オレ? オレって……ああ、テツヤ?」
受話器を手に、ルミ子さんがはずんだ声を出す。
「今どこなの? え、お金がいる?」
──お金? 息子さん?
「いったいいくら……そんなに? なにがあったの? それに、日本に帰ってきてるなんて全然知らなかった」
おっとりと、だけど真面目にルミ子さんは言葉を返している。
「そう……とにかく振り込めばいいのね。今、メモするから」
電話台の前で復唱しながら、ルミ子さんが口座番号らしき数字をメモ用紙に書きつける……。
その様子に、心臓が嫌な音を立てはじめた。
──なんか……なんかこれって、おかしい……!
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