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【読み聞かせ】ヒーリングストーリー 千一夜【第9夜】全問正解クイズ

今日もお疲れさまでした
お休み前のひとときに
ココロを癒やすファンタジックなショートストーリー



‍朝、男がいつものように花畑を散歩していると、村長さんに会いました。

「村長さん、おはようございます」

‍「うむ、おはよう。キミは今朝も散歩しているんだね?」

‍「はい。毎日あまりにも暇なので」

「なるほど。それならキミ、クイズ大会に出てみないか



「クイズ大会? ずいぶん急な話だなあ」

‍「いま暇だといったじゃないか」

‍「いいましたけど……」

‍「そうか。やはり参加するんだね」

‍「えっ、あの?」


「聞くところによると、かなりタフでハードなクイズ大会らしい。
だが、キミならきっと大丈夫だ


‍「ちょっと村長さん、勝手に話を進めないでください!」

「参加者の集合場所は、村はずれの洞窟の前だ。

思い切り楽しんできてくれたまえ。

では、これで失礼するよ。キミの健闘を祈る」



‍村長さんはそういうと、どこかへ行ってしまいました。


「勝手に祈られても困るんだけどなあ……」


‍とはいえ、暇なのは確かです。

‍男はひとまずクイズ大会に出てみることにしました。





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‍男が集合場所にやって来ると、大勢の参加者らしき人たちが次々と洞窟へ入っていくのが見えました。


‍——なかなか大規模なクイズ大会だなあ。


‍男が洞窟に足を踏み入れようとしたとき、入り口のそばにある看板が目に入りました。

看板には、

『全問正解クイズ大会』

と書いてあります。


‍——全問正解クイズ? なんだそれ。


‍そしてそばに『注意』と但し書きが書いてあります。


『注意:会場での禁止事項はとくにありませんが、ひとつだけルールがあります。それは——』


‍男は続きを読もうとしましたが、人の流れに押され、そのまま洞窟へ入っていきました。



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男が洞窟を歩き始めてから、どのくらいたったのでしょうか。

いつの間にか参加者はばらけ、暗闇の中をひとりで歩いています。

‍最初は広かった洞窟はだんだん狭くなり、いまでは頭がなんとか通るほどの広さしかありません。



‍——く、苦しい……クイズ大会の会場はいったいどこなんだ!?



‍男は這いつくばりながら洞窟を進みます。

すると……

とつぜん視界がひらけ、まぶしい光に包まれました。

‍同時に、強烈な寒さが男をおそいます。



——なんなんだよ、これ! クイズ大会じゃなかったのかよっ!



‍驚きのあまり、男は光の中でただひたすら泣き叫んでいるのでした。




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‍男は知らないうちに、クイズ大会に参加していました。

それはとても奇妙な大会でした。


なにをいっているのかさっぱりわからない出題者に、ただワイワイさわいでいるだけの観客。


そもそもどうすれば勝ちなのか、賞品がなにかも知らされていません。

‍そして男が気の向くままに回答すると、どこからともなく『ピンポーン』という音が響いてきて正解したとわかるのです。


‍——確かに全問正解クイズだ。楽勝すぎる。でも、これのどこがクイズなんだ?


‍男は不思議に思いましたが、クイズ大会に参加し続けました。

会場はとても美しく楽しいところで、居心地がよかったからです。


‍——本当にステキな場所だなあ。


‍鮮やかな色があふれる景色

鳥の声や優しい風

人々がつくりだす、ため息が出るほどステキなモノたち……。


男は全問正解クイズ大会に参加するあいだ、花畑にいた頃のような退屈とはまったく無縁の時間を過ごしているのでした。




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‍そのうち会場の雰囲気にもなれ、周りの観客たちのいっていることがわかるようになってきました。


どうやらみんな楽にクイズに正解できるよう、ヒントを教えてくれているようです


‍——ヒントなんていらないよ。そもそも正解しかないんだし。


‍男はクイズを楽しみ、まわりの人がいうことは気にとめませんでした。

ところがある日、男の答えに『ピンポーン』が鳴りませんでした。
はじめて答えを間違えてしまったのです。


‍——ちょっと問題が難しかったのかもしれない……。


‍その後、ほとんどの問題は正解できるのですが、しだいに間違うことも増えてきました。


‍——どうしたんだろう。おかしいなあ。


‍不安になった男は、だんだん観客が教えてくれるヒントを聞くようになりました。




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‍クイズ大会の中盤に入ると、男はまったく正解が出せなくなってしまいました。

なぜなら答えを間違えれば間違えるほど、問題が難しくなっていくからです。

‍男は白髪交じりになった頭をかきながら、ぶつぶつ文句をいい続けます。



‍「あいつのヒントがサイアクだったんだ」

‍「いわれたとおりにやったのに酷い目にあった」

‍「ああ、あのとき、あんな突拍子もないことさえ起こらなければ……」

「いてっ!」


‍文句をいいすぎて、男は舌をかんでしまいました。

‍痛さで我に返り、あたりを見わたすと、自分が森の中にいることに気づきました。



‍「そんな……いつの間に……」



‍まわりにはクイズの出題者も観客もおらず、色鮮やかな景色も心地よい音楽もなにもありません。


ただ暗い森がどこまでも続いているだけです。

男は知らないうちに、クイズ大会からリタイヤしてしまっていたようでした。

かなり長い時間森の中にいるらしく、体もすっかり冷え切っています。



‍「ここは……どこだ?」



‍そのとき、聞き覚えのある声が聞こえてきました。



‍『あいつのヒントがサイアクだったんだ』

‍『いわれたとおりにやったのに酷い目にあった』

‍『あのとき、あんな災難さえ起こらなければ……』



‍森の中で、男がさっきいった文句が響いています。
それだけではありません。


‍『あーあ、運さえよければ』
‍『なにもかも全部、親ガチャに外れたせいだよ』


‍はるか昔につぶやいた文句まで、いまだに消えることなく響いているのです。



‍『……っていうか……クイズに正解できない俺なんて……なんの価値も……ない……』



‍——や……やめてくれっ!


‍男が思わず耳をふさごうとしたそのとき——

‍‍子どもの微かな笑い声が聞こえてきました。

男は惹かれるように、笑い声がする方へと歩きだしました。





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‍男が歩き続けたすえにたどり着いた場所には、小さなたき火がありました。


‍——薪のはぜる音が笑い声に聞こえてたのか。疲れすぎだな、俺……。


‍男はたき火のそばに腰を下ろし、じっとその小さな炎を見つめます。

すると、たき火は男が見つめるほどに炎が大きくなり、体をあたためられるくらいになりました。


‍——ああ……あったかい。


‍ずっと忘れていた、ほっとした気持ち。

こんな気持ちになったのは、本当に久しぶりです。


‍——不正解ばかりになって、俺、クイズがすっかり面白くなくなってた。

でも……どうして昔は全問正解なんてできてたんだろう。

全問正解は楽しくて、毎日気分がよかったな……

ホント、あの頃の自分がなつかしい。



‍思わずため息をついたとき、茂みががさっと揺れました。


‍——な、なんだろう……。


‍不安に思いながら、男が暗い茂みに目を向けたとたん……
 ‍

『あいつのヒントが……』
『……サイアクだったんだ』
 ‍

また昔の自分の声が聞こえてきました。

静かな、だけど永遠に責め続けてくるような冷たい声です。


——この森にいるかぎり、俺はずっとこの声につきまとわれるのか? 永遠に……このまま……。


そのとき、また茂みが揺れました。
男はビクッとしましたが、怯えながらも茂みに向かっていいました。


「おいっ、そ、そこにいるのは誰だ!」


すると、茂みからなにかが出てきました。

それはこびとでした。

大きさは手のひらにのるほど。

全身が真っ黒にすすけていて、顔もよくわかりません。



『あいつのヒントが……サイアクだったんだ』



こびとは冷たい声でいいました。


——こ、怖っ……でも……なんか……めちゃくちゃ小さいな。


少し冷静になると、こびとがプルプル震えているのに気づきました。



「もしかして、寒いのか?」


こびとがコクリとうなずきます。


「それなら……いっしょにたき火にあたる?」


すると、こびとはトコトコ歩いてきて男の隣に腰を下ろしました。



——意外に素直だなあ。



こびとはたき火に手をかざしながら、男を見上げました。



『あいつのヒントが……サイアクだったんだ』



——なんだよ、まだいうのか……。


男はちょっと吹き出しそうになりました。


「ああ、わかる、わかるよ。あいつのヒントがサイアクだったんだよな。うん、確かに。
いまも覚えてる。あれはまったく役に立たない、サイアクのヒントだった」


男がいうと、こびとのすすけた体が少しきれいになりました。

同時に、心細そうな表情が見えました。



『あいつのヒントが……サイアクだったんだ』


こびとの声はさっきより小さくなり、ゾッとするような冷たさもなくなっています。

男はこびとが男のことを責めていたのではなく、ただ怯えていただけなんだとわかりました。


「そっか……暗いところにひとりぼっちで怖かったんだよな」


『うん』


「ひょっとして……お前、ただ俺に『わかるよ』っていってほしかっただけなのか?


‍すると……


『……うん、そうだよ』


こびとは笑顔で男の言葉にうなずきました。

そのとたん、こびとの体がぱあっと輝きました。

そして、見る見るうちに光の細かい粒になり、空へとのぼっていったのでした。




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辺りは静かになり、またパチパチと薪のはぜる音だけが響いています。

あれから何人ものこびとたちが訪れ、話を聞いてやると、みんな光になって空へのぼっていきました。

こびとが光になるたび、たき火の炎は明るく大きくなりました。

男の体は、もうすっかりあたたまっています。



男は立ち上がり、茂みに向かって声をかけました。



そこにいるんだろ? 出ておいで。
まあ……気が向いたらでいいけど」



すると茂みから、こびとがひとり出てきました。

今までの、どのこびとよりも黒く汚れていて、しかも体中が傷だらけです。


——ひどい傷だ。長い間、あんな体で茂みの中に隠れていたのか……。


その痛々しい姿があまりに悲しくて、男は泣きそうになりました。
こびとは男が予想したとおりの言葉をいいました。


『……クイズに正解できない俺なんて……なんの価値も……ない……』


男はこびとのところへ行きました。


「……ほら、いっしょにたき火にあたろう」


こびとは大人しく男に手を引かれ、たき火のそばに腰をおろしました。



『……クイズに正解できない俺なんて……なんの価値も……ない……』



男は手をつないだまま、こびとのつぶやきに耳を傾けます。


「そうか、ずっとそんなふうに思ってたのか……」


『……クイズに正解できない俺なんて』


「うん……」

『……なんの価値も……ない……』


「いろいろあったもんな。そう思うのも無理ない。ずっと寒かったんだろ? ここでゆっくり暖まっていればいいからな」


繰り返されるこびとのつぶやきに、男は何度も何度も、ただうなずいてやるのでした。



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やがて、たき火の光が空へ届くほど大きくなりました。
傷ついたこびとがすっかりきれいになり、空へのぼったとき、男は気づきました。



——……昔、あんなに楽しかったのは全問正解だったからじゃない。

心の声を聞いて、自分で答えを決めていたからなんだ。


——そうだよ、昔はぜんぶ自分で決めていたじゃないか……!

 


次の瞬間——

たき火の炎はさらに輝きを増し、あたり一面をまぶしく照らしました。



——暗闇で聞いた笑い声は……俺だったんだ……。






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気づけば、男はクイズ大会の会場にいました。

森に迷い込んだと思っていた男でしたが、じつは、ずっと会場の中にいたのです。
 ‍

 
「なんだ……あの森は自分で作った幻だったのか……」
 


男はまたクイズ大会に参加しはじめました。

たまに難しくて答えるのに覚悟がいる問題もあります。

でもいまの男は、自分で答えを決めることを心底楽しんでいます。
 ‍


——間違っても自分で決める方がずっといい……。

いや、違う。
 ‍
自分で決めれば……

すべて自分で決めたんだとわかっていれば、間違いなんかない。きっとそれだけで全問正解なんだ。
 ‍


男は洞窟に入るときに見のがした、たったひとつのルールは、これだったのだと思いました。

 
『自分で答えを決める』
 

わかってみれば、ルールはとてもシンプルです。

だけどシンプルだからこそ、うっかり破ってしまうルールかもしれません。

そして、人に選ばされたと逃げることもできません。

自分で選んで決めたんだと受けとめたとき、はじめてルールを守ったことになるのです。


ルールを破ればクイズはどんどん難しくなり、おまけに真っ黒いこびとがわらわらとわいてきます。

でも、今の男はとても気楽です。

たとえルールを守れなかったとしても、そんな自分を責めずに心の声を聞いてやりさえすれば、たき火はすぐに大きくなり……

また、あたたかな気持ちで前に進めるとわかっているからです。



——花畑に帰ったら、村長さんにいってやろう。
クイズ大会はとても楽しかったですよって。


『ほら、だからいっただろう? キミならきっと大丈夫だとね』


‍村長さんの得意げな声が聞こえたような気がして、男はつい笑ってしまいそうになるのでした。


↓第10話

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