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クリエイター以外も知っておきたい「広告表現と炎上」 実施レポート

こんにちは。セプテーニグループnote編集部の宮崎です。

セプテーニグループでは、サステナビリティ活動の重点テーマに「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」「デジタル広告業界の健全な発展」などを掲げ、さまざまな取り組みを行っています。

またデジタルマーケティング事業を展開するSepteni Japan株式会社では、世の中により良い広告を届けることを目指す社内プロジェクト「SEPTENI GOOD」と、社会課題と企業の価値を適切に接続し「よい成長」を目指すブランドアクションを提案する事業プロジェクト「Good Growth Creation」が活動しています。

先日セプテーニグループでは、D&Iとクリエイティブの健全性という2つのテーマをクロスしたイベントをダイバーシティ月間に実施しました。株式会社DEの牧野圭太さん、Septeni Japan株式会社の飯島夢さんの二人に登壇いただいたウェビナーのタイトルは『クリエイター以外も知っておきたい「広告表現と炎上」~なめらかな社会へつながる表現とは~』です。

なぜダイバーシティ月間で広告表現についてのイベントを実施したのか。今回のnoteでは、その背景にも触れながらイベントの様子をお届けいたします。ぜひご覧ください。

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牧野圭太さん

2009年博報堂入社、コピーライターに配属。15年に退職し、文鳥文庫を出版する文鳥社をスタート。その後、株式会社カラス設立を経て、20年1月からDEの共同代表へ。企業コミュニケーションと社会課題解決を両立する広告づくりに力を入れる。
主な仕事: Panasonic「未来空想新聞」/ Kuradashiリブランディング/旬八青果店/文鳥文庫/黒染めリサイクルK/Kiffma


飯島夢さん

Septeni Japan株式会社クリエイティブ本部所属。自分の中の社会を通じて、変わるべき価値観や問題に立ち向かうクリエイター。第13回販促会議 企画コンペティション(ゴールド)、第59回宣伝会議賞(協賛企業賞)、2022ヤングカンヌ日本代表(プリント部門GOLD)など様々なコンペティションにて受賞。

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広告のあり方を変えたコミュニケーション「フィアレス・ガール」

牧野さんは「社会的な意義のある仕事・文化的な意味のある仕事」をテーマにさまざまなプロジェクトを推進されており、最初にその一部をご紹介いただきました。旬八青果店文鳥文庫プロデュース、企業コミュニケーションを通じた社会課題への向き合いなどに取り組まれているとのこと。

▲企業コミュニケーションの事例として紹介いただいたコラボ広告

続いて牧野さんが社会的意義の高いコミュニケーションに意欲を持つきっかけとなった「フィアレス・ガール (Fearless Girl)」の話に移ります。

「フィアレス・ガール 」は、2017年のカンヌライオンズにおいて4つの部門でグランプリを獲得した広告コミュニケーション。2017年の国際女性デーにあわせてウォール街に設置された少女の銅像は、金融街の象徴である雄牛のブロンズ像「チャージング・ブル」に正面から向き合う形で立ち、足元に「KNOW THE POWER OF WOMEN IN LEADERSHIP(リーダーシップにおける女性のパワーを知ろう)」などのメッセージが置かれました。

「銅像を置く」だけとも言えるこのコミュニケーションはまたたく間に話題となり、ソーシャルメディア上では2日間で15億の反応を獲得し、最終的には70億まで増加したとのこと。また世界中では2,500のメディアで露出があり、広告費に換算すると約3,000万ドル(約34億円)の効果があったそうです。広告のあり方を変えたコミュニケーションのひとつであり、「バズ」にとどまらず社会を前進させた「現象」になったと牧野さんはコメントされていました。

▲「フィアレス・ガール 」についての詳細はこちら

なめらかな社会へつながる表現とは

次に牧野さんは、飯島さんと対話しながら、社会で好ましくない形で話題になった広告コミュニケーションの事例を紹介してくださいました。

世の中でネガティブな反応を引き起こす広告コミュニケーションのタイプのひとつとして、ステレオタイプに人々を描きすぎるケースがあるとのこと。たとえば「若い女性は無知である」というバイアスをもとにした広告は、現在でも見かけるものであり、なかなか根絶されません。ジェンダーや年齢などによって型にはめて煽る、無意識に見下すようなコミュニケーションは、作り手の意識変化によって無くせるのではないかと話は続きます。

一方で、ステレオタイプに描くことはコミュニケーション上の伝達のしやすさにつながるため、ジレンマを感じる局面も多いだろうと牧野さんは指摘します。たとえば小学生を描くときに男の子には黒や青、女の子には赤やピンクのランドセルを背負わせることで「男の子がいるんだ、女の子がいるんだ」とわかりやすくなる。非常に難しいポイントであるからこそ、意識して変えていかなければならないとコメントされていました。

また広告コミュニケーションが意図しない形で話題になった場合、お詫びの内容によって、企業のネガティブな評判が広まるケースもあるとのこと。たとえば「女性は***である」というバイアスをもとに描かれた内容に対するお詫びであれば、「隠れたジェンダーバイアスに気づけなかった、気づける体制を作れていなかった」とコメントすべきところ、「意図を伝えきれなかった」とすると、「なぜネガティブな反応が起こったのか理解できていない」と受け取り手は感じると解説してくださいました。

これまでの事例を踏まえ、なめらかな社会へつながる表現には下記が重要であると牧野さんはまとめてくださいました。

①安易なテンプレート/ステレオタイプを表現しない
②コンプレックスを刺激する表現をしない
③広告出稿者は「権威側」であることを忘れない = 社会課題を解決する側の立場にある
④外部にチェック体制を持つ

また牧野さんからは、飯島さんが所属する、世の中により良い広告を届けることを目指す社内プロジェクト「SEPTENI GOOD」は、④に関する非常に重要な仕組みであり、積極的に活用していってほしいとアドバイスもいただきました。

パーパスとは、社会を変えようとする強い意志。強い意思はどこかで必ず反発を生む

次に牧野さんから、「ジェンダー不平等などの社会課題に触れると炎上するので、社会課題には触れないようにしよう」となるのはとても残念、広告コミュニケーションで社会を良くしていくのはとても大事なこと、とメッセージをいただきました。

牧野さんも関わられた2021年の国際女性デーにむけた朝日新聞の新聞広告。センシティブなテーマのため議論を繰り返し、考え抜き、入稿の1時間ほど前までコピーを検討されていたそうです。この広告コミュニケーションはSNSで好意的に受け止められ、あらゆる人がポジティブに拡散してくれたとのこと。社会課題に向き合ってしっかりとメッセージを届ければたくさんの人が応援してくれ、ポジティブに広げてくれる。その中でブランドのファンになってくれる人も絶対にいる。社会課題にしっかり向き合っていくのは重要と牧野さんは説きます。

▲朝日新聞の新聞広告

そして「炎上」という言葉がバズワード化していると牧野さんは指摘します。
①実際にネガティブな反応を示しているのは数人なのに、メディアが記事で「炎上」と書くことで本当に炎上が発生してしまう
②「炎上」と言われるものでも、悪いもの悪くないもの、さまざまなケースがある

②に関連して、話は企業のパーパスに移ります。「パーパスとは、社会を変えようとする強い意志。強い意思はどこかで必ず反発を生む。その意味では炎上が必ずしも悪いものだとは思わない。」と牧野さんはコメントし、その事例としてNIKEの広告コミュニケーションを紹介してくださいました。

アメフト選手のコリン・キャパニック氏は、有色人種に対する差別や暴力に抗議するために試合前の国歌斉唱での起立を拒否したことで、NFLでのプレイ機会を失いました。そんな彼をNIKEはスローガン“Just Do it”の30周年キャンペーンに起用。広告には、キャパニック選手のモノクロの顔写真に「何かを信じろ。たとえそれが全てを犠牲にするとしても(Believe in something, even if it means sacrificing everything)」というメッセージが添えられていました。

NIKEとして強い意思で人種差別反対の活動を後押しするメッセージは保守層を中心に炎上しましたが、人種差別に反対する擁護派がキャンペーンを盛り上げてくれた結果、広告のエンゲージメント、売上ともに驚異的な数字になったそうです。

▲コリン・キャパニック氏を起用した広告について

広告業界のパーパス

そもそもSNSは、非常にたくさんのクラスターによって成り立っていて、大多数で評価されるものが一部では酷評されることもある。だからこそ自分たちの意思を持つことが大事。「広告界にパーパスはあるのか。この業界はミーニングフルか。」これは広告界全体で考えていきたい、と牧野さんは呼びかけます。

「広告業界はブランドのコミュニケーションに関われる仕事だと思うので、自分たちもパーパスをもって、広告コミュニケーションにおけるパーパスについてもっと提案できるようにしましょう。

個人の暮らしの課題は減りましたが、社会や地球全体の課題は増えました。取り組むべき課題はたくさんあります。企業が社会課題の解決を目指す中で、それに共感する人たちがファンになり拡散してくれて、ブランドがつくられていく。そういうコミュニケーションの循環をつくりだすことが目指すべきところなんじゃないかなと思います。広告・マーケティングの費用を、社会を良くする「生産」に使う、広告に関わる人が一人でも多くそう思ってもらえると広告界が良くなって、社会が良くなっていくんじゃないかと思います。」と牧野さんは講演を締めくくりました。

300名以上の聴講者からは時間内に回答しきれないほどの多くの質問が寄せられ、牧野さん、飯島さんに丁寧に回答いただきました。

参加者からは、

表現に気をつけること、いろいろな人がクライアントやその先のお客様にいることを想像しながら業務を行っていくことについては、広告にかかわらずとも大事なことだと感じました。

様々な広告や表現に対して、個人によって解釈が異なることを改めて知ることができた。自身の表現がどのように解釈されるのか、社内・社外問わず多くの意見に触れていきたい。

一緒に事例をみながら自分なりになぜか?どうなんだ?を考え、脳内おしゃべりが活性化してしまうウェビナーでした。きっと参加者全員がこのテーマでグループ対話したくなっているのではないでしょうか。最後の「広告業界にパーパスはあるか」の問いからとメッセージもとても刺さりました。

などの感想が寄せられました。

セプテーニグループでは、ステレオタイプにとらわれることで、その人自身の特性を見逃しひとりひとりの活躍を実現できなくなる、広告などの制作物に影響し社会的に好ましくないアウトプットを生んでしまうこと等を防ぐために、アンコンシャス・バイアスの啓発に力を入れています。またアンコンシャス・バイアスは誰もが持つものであるため、アウトプットにバイアスが紛れていないか確認するために、チームに多様な目線を取り入れることを推奨しています。

D&Iは自分ごと化が難しいテーマです。業務に直結する広告表現という切り口からD&Iについて考える機会を提供することで、より多くの社員にD&Iを自分ごと化してほしいと考え本イベントを実施しました。セプテーニグループでは、今後もなめらかな社会の実現を目指し、D&Iを推進してまいります。

牧野さん、飯島さん、ありがとうございました!


#セプテーニグループ #サステナビリティ活動 #ダイバーシティアンドインクルージョン #イベントレポート