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ESG視点でみたセプテーニグループ【後編】

こんにちは。セプテーニグループnote編集部の宮崎です。

環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取って表されるESG。企業の持続的な成長のためには、ESGが示す3つの観点での取り組みが必要だと言われています。

ESG視点でみたセプテーニグループ【前編】では、インターネット企業を担当する証券アナリストとスチュワードシップ活動を兼務する大和アセットマネジメントの寺島さんに、企業がなぜESGに取り組むべきなのか、インターネット企業はE(環境)についてどのように向き合うべきなのかお伺いしました。

後編では、インターネット企業で重要だと言われているS(社会)と、どの企業にとっても不可欠なG(ガバナンス)、そして次年度の統合報告書への期待についてお伺いしています。どうぞご覧ください!

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大和アセットマネジメント株式会社 アクティブ運用第二部 企業調査チームリーダー
兼 スチュワードシップ・ESG推進部
チーフ・アナリスト 寺島 正 氏

1992年に大阪府立大学経済学部を卒業、明治生命保険(現明治安田生命保険)に入社。1993年より有価証券部にて株式運用に携わり、アナリスト、ファンドマネージャー等を歴任。2004年に大和投資信託(現大和アセットマネジメント)に転職。以後は一貫して情報通信系セクターのアナリストとして従事。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)・国際公認投資アナリスト(CIIA)・日本証券アナリスト協会ディスクロージャー研究会 通信・インターネット部会委員。

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インタビュアー:セプテーニ・ホールディングス
経営企画部 IR課 岡田 唯
2015年、セプテーニ・ホールディングスに新卒で入社。入社当時からIR課に所属し、決算説明会や四半期毎の投資家との面談、株主総会運営等のIR活動全般に従事。

女性管理職比率を上げることが目的ではない。真の目的は優秀な人材をしっかり会社の中に留めておくこと

岡田さん:
先ほどは、ESGのEについて業界としてどのように向き合えばよいのかお伺いしました。続いて、業界的に最も重要だと思われるS(社会、※)の部分についてお話をお伺いできればと思います。

(※)社員の労働安全衛生やダイバーシティ推進、人権や人材育成、地域社会貢献などが、S(社会)の中に含まれるテーマ

以前、開示できるKPIはどんどん開示してほしいというお話をいただいたこともあり、最近少し開示を増やしたものがあるのでぜひご覧いただきたいです。当社ではCSR活動の重点テーマの一つにダイバーシティ&インクルージョンを掲げていまして、その中で女性活躍推進の文脈でここ数年いろいろな取り組みを進めてきました。これまでは女性管理職比率と女性社員比率を開示していましたが、新たに3つ、新規採用者における女性比率、取締役会における女性比率、男女別勤続年数を開示することにしたんです。これらをご覧いただいて、いかがでしょうか。

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寺島さん:
女性管理職比率について申し上げると、上がってきているので素晴らしいなと思って見ています。ただ我々は、女性管理職比率と女性比率を比べて見るんですよね。

たとえば女性管理職比率30%という会社があったとして、その会社の女性社員比率が50%だとしたら、女性が管理職になることに何か障害があるのではなかろうかと考えるんです。逆に女性社員比率が30%の会社で女性管理職比率が30%なら、管理職に登用されるときに性差が障害になっていないだろうと考える。

そう考えたときに、御社の女性管理職比率が上がってきているのは素晴らしいことなんですけど、まだ女性社員比率に対して低い水準にある。

原因としては2種類あると考えていて、一つは制度としてはしっかり整ったけれども、それが昔からある制度ではないがゆえに、まだその制度を使って男性と同等に管理職になれていないだけであって、時間が解決してくれますというパターン。それであれば何の問題もないと思います。でももう一つのパターンとして制度的に不十分だから追いついていないんですよということであれば、これは何かしらの改善をしなければならない。

女性管理職比率を上げることが目的ではなくて、真の目的は優秀な人材をしっかり会社の中に留めておくことだと思います。制度が歪んでいるがゆえに離職してしまう、あるいは能力を発揮できない状態にあるというのが非常に問題であると考えています。

なので、女性管理職比率が上がっているのはいいことです。でもまだギャップがありますね。これが時間が解決してくれる問題ならいいですよね、そうでないなら何らかの手を打たなければいけないですよねっていう、そういったディスカッションになるかと思います。

▲セプテーニグループの女性活躍推進についてはこちらもぜひご覧ください。寺島さんのご指摘の通り、女性管理職比率は順調に伸びているものの、女性比率にはまだ達していません。一つの重要な指標として意識して取り組みを推進しています。

重要な資本である「人」の見せ方

岡田さん:
ありがとうございます。続いてもう少し組織全体に目を向けてみたいと思います。当社は人が重要な資本だと考えていて、事業責任者へのインタビューや各プロジェクトに関わる社員の紹介など、統合報告書のなかで人を見せることを意識して制作しています。

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▲特集では、グループ会社のリーダーたちにインタビューを実施しました

この部分について、資本市場のみなさんに対してどういった内容をお伝えすると、より当社の理解を深めていただけるのか、また開示にあたってのベタープラクティスみたいなものがあればお伺いできればと思います。

たとえば当社ではAI人事を筆頭に、人的資本をより潤沢にするための取り組みをいろいろ行っているんです。より優秀な人材が集まるプラットフォームづくり、優秀な人材のパフォーマンスを最大化するための環境整備などさまざまなものがあるのですが、それをどのような形で開示していくのが良いのか、何かヒントがあればぜひお伺いしたいです。

寺島さん:
一つは社員のモチベーションのようなものが見えると良いですよね。数値として表すのが難しいんですけれど、そういった調査を社内でやっていて数値化できているものがあれば、数字で開示いただけるとすごく良いかもしれないですよね。御社が掲げているアントレプレナーシップみたいなものが社員の方の中にあれば、たぶんモチベーション高く仕事に向き合えると思うんです。

あるいは離職率みたいなものもいいかもしれません。不満で辞める人、新規事業をやりたくて起業するために辞める人、仮に離職の理由がこの2パターンだとしたら、御社のなかで社内起業が促進されることで辞める人が減って、結果として離職率の改善につながっていますとか、そういった数字でのアピールもできるかなと思いますね。

岡田さん:
社内起業については、続いているものもありますし、事業としてはたたんでしまったものもあるんですけど、これまでに興した事業の数を開示するのはどうかなと思いました。

また事業が立ち上がるということは、経営を経験した人材が増えることにつながると思っています。今回のコーポレートガバナンス・コードの改訂で、独立社外取締役には他社での経営経験を有する者を含めるべき、という内容が出ました。経営を経験したことのある人材が社内にどれくらいいるのかというのも、当社が開示していくべきことではないかと感じているのですが、いかがでしょうか。

寺島さん:
私としては、御社の価値創造モデルの中の「新たな事業セグメント」についてもっと深堀りしてほしいんですよね。こんな事業立ち上げました、というのがモチベーションにつながる社員の方もいるかもしれないし、新しい事業の種となる可能性もあると思うので。

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▲2020年版から、価値創造モデルの中に「新たな事業セグメント」の記載が追加さています

変化に対応できる会社でないと長くは続かない

寺島さん:
30年前、御社はデジタルマーケティング事業をやっていなかったわけじゃないですか。創業のタイミングはインターネットが普及していない時代だったわけですし。それが今では主要な事業になっている状況を考えると、30年後に違う事業が主流になっていてもおかしくはないし、デジタルマーケティング事業とメディアプラットフォーム事業に加えて、もう一つ新しい収益の柱が育っているかもしれない。もしかしたらデジタルマーケティング事業がなくなっているかもしれない。

長い目線でみたときにこの「新たな事業セグメント」の部分ってすごく大切だと思うんです。要は変化に対応できる会社でないと長くは続かないんですよね。企業30年説みたいなものもありますし。だからここをもっと深堀りしてほしいし、ここが御社の強みなんだからもっとアピールしてほしい。具体的にこういう事業をやりましたっていうのも、すごく面白いと思うんですよ。

今回の統合報告書では「つよく、やさしく、おもしろく。」のところで新規事業プランコンテストgen-tenに何件応募があったという記載がありましたけど、「新たな事業セグメント」につなげて開示していただきたかったなという感じはしました。

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▲価値創造の源泉となる強みの一つとして、新規事業を生み出す仕掛け「gen-ten」を紹介しています

正直なところ、それを見たからと言って、企業価値の算出においてはあまりプラスにならないかもしれません。でも、ありますということがとても大事なことであって、それを投資家と共有するのはとても良いことだと思います。

岡田さん:
新たな事業セグメントや、メディアプラットフォーム事業の中に含まれているgent-tenから事業化された会社については、まだまだ十分に開示できていないなと自省する点もありますので、そのあたりは前向きに取り組んでいければと思います。これが冒頭の、未来につながるもの、として考えてくださっているということですよね。ありがとうございます。

どの企業にとっても重要なガバナンス

岡田さん:
では最後、ESGのGのところ、どの企業にとっても最も重要であるガバナンスについてお話をお伺いしたいです。当社では2015年頃から社外取締役比率の上昇や、委任型執行役員制度の導入をはじめ、ガバナンス面での取り組みを徐々に進めてきました。当社のそういった取り組みや、当社に求めるガバナンスのあり方についてご示唆があれば頂戴できればと思います。

寺島さん:
大株主について、どういう関係性なのか整理されたほうがいいと思うんですね。具体的に言うと、創業者と電通さんです。

たとえば電通さんとの関係については、もう少し統合報告書での見せ方を検討したほうが良いと思います。決算発表資料や統合報告書の中で出てくるKPIよりも、もっと重要なものがあるんじゃないかと思うんです。出すKPIについて慎重に検討したほうがいいかなと感じました。

ガバナンス体制については社外取締役がしっかり入ってますし。以前の面談の際にスキルマトリクスが無いですねって言いましたけど、統合報告書に取締役陣の人となりを表すマトリクスが出てましたね。あれすごい面白いです。

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▲経営チームのパーソナリティマトリクス

岡田さん:
具体的にどういったところが興味深い、面白いと思っていただいたポイントなんでしょうか。

寺島さん:
このマトリクスを見ると、直感型の人と分析型の人が必要、かつリーダーシップ型と調整型それぞれの立場の人が必要ってことですよね。直感型の人が足りなければ直感型の人を採用しなくちゃいけないし、リーダーシップ型の人がいない、みんな調整役だったら、リーダーシップ型の人を取締役にしっかり入れなくちゃいけないと思うんですよね。それが取締役会のダイバーシティ、多様性であると思うんです。そういう意味ですごく面白いなと思いました。

同じように、能力についてのマトリクスもやっぱり必要だと思います。法律に強い人、人事領域に強い人、事業系の経験がある人、投資家の目線を持った人もいるといいと思いますね。金融に強い人という意味で。

ただマトリクスを見て面白いねっていうだけでは意味がないと思うんです。御社のマネジメントの人選にも使っていただきたいんですよね。この能力があるともっと飛躍できるよね、でもいまのボードメンバーには不足していますね、だからこういう人材を探していますっていう、そういうロジックになるようなスキルマトリクスはやっぱりあったほうが良いと思います。

岡田さん:
スキルマトリクスについては、まずは当社独自の取り組みとしてパーソナリティマトリクスという形で開示しました。ただ、コーポレートガバナンス・コードの改訂もあって、やっぱりスキル面を示せるものは自分たち企業側にとっても必要ですし、投資家さん、株主のみなさんにとっても重要なデータの一つだと理解しているので、開示の実現に向けて動いていきたいです。

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二次曲線の成長力を示せる統合報告書を

岡田さん:
そろそろお時間が近づいてきましたので、最後の質問です。現在足元で、次の統合報告書の発刊にむけて動き出しているんですが、あらためて当社の来年の統合報告書にむけて期待したいところや要望など、ご意見いただきたいです。

寺島さん:
細かい部分についてはこれまでお話しさせてもらいましたけど、全体としては、もうちょっと未来のことについての話があると良いと思います。3年先ではなくもっと先の話です。

そのベクトルがまっすぐ直線的に右肩上がりなのか。二次曲線で右肩上がりなのか。他社さんの決算資料の中で、二次曲線を効果的に使っているものがあるのでぜひ参考にしてほしいです。伸びが直線なのか曲線なのかで見た印象がだいぶ変わってくるんですね。

御社のローリング方式の中期経営方針は3カ年しか数字を出していないので、直線的な右肩あがりの表にしか見えないんですけど、数字を入れなくても10年先まで矢印を伸ばすなら、おそらく直線ではなく二次曲線のようにグインと上がるカーブになると思うんですよね。

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このカーブを見せることがとても重要で、このカーブで成長ができない会社っていうのは、基本的にはどこかのタイミングでROEと資本コストが逆転してしまうんですね(※)。売上や利益の増加額が一定なら成長率は鈍化していきますので。

(※)資本コストを上回る ROE水準を達成すると企業価値が向上すると言われています

なのでこの矢印をしっかりと意識して統合報告書を作っていただけると、受ける印象もだいぶ変わってきますし、御社の本来の成長力を示せると思います。ぜひ曲線は二次曲線で。これをモットーに!期待しています。

岡田さん:
ありがとうございます。先ほどお話しいただいた通り、30年前に人材系の事業で立ち上がったセプテーニグループは、30年後のいま、デジタルマーケティングがメイン事業になっています。次の30年でどうなるのか、もちろん自分たちにもまだわからないところではありますが、二次曲線の成長をイメージしていただけるように、統合報告書の制作を進めつつ、投資家のみなさまとも継続的に対話させていただきたいです。本日はどうもありがとうございました。

* 編集後記 *
「私は非財務情報ではなく“未”財務情報だと思っています。」寺島さんのこの一言が特に印象に残ったインタビューでした。財務情報とそうではない情報たち、ではなく、財務情報と、これから財務につながっていく情報たち。

財務情報と“未”財務情報の統合は、非常に難易度が高く、深いテーマです。いま行っているこれらの取り組みは、将来こんな形で業績に貢献します。これを具体的に、ロジカルに、そしてオリジナリティをもって表現することの難しさたるや・・・。制作を重ねるごとに、その難しさが深くなるような感覚も覚えています。

3年という一つの区切りを経て次に発刊する統合報告書2021は、これまでのものより一段階レベルを上げたい。そんな思いで、統合報告書制作プロジェクトでは議論を続けています。年末(予定)の発刊を、どうぞ楽しみにお待ちください!

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