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いかなる花の咲くやらん第6章第5話 くるみ拾いが命拾い        

「えっ、くるみ割りの君って?」
「うん、この前、高麗山に鬼くるみを拾いに行ったの。沢山落ちている所を見つけて、夢中で拾っていたら、山肌のくるみの木が倒れてきて、下敷きになりそうだったの。そこへあの方が突然現れて、その大きな木をがっしり受け止めて、投げ飛ばしてくれて、命拾いしたの。あはは、くるみ拾いが、命拾いになったの。あはは」
「あはは、って、亀若ちゃん笑い話じゃないよ。危なかったね」
「あのね、ちゃんと詳しく話すね
夢中で拾っていたから下ばかり見ていたの。そしたら、変な音がして、見上げたら木が落ちてきたの。

【「きゃー」
「あ、危ない」
五郎は大木を難なく受け止め、「えいやっ」と横へ投げた。
「危なかったですね。お怪我はありませんか」
「はい、ありがとうございます。もう少しで下敷きになるところでした。まだ、ドキドキしております」
「しばし休まれたほうが良い。そこの崖に沢山洞穴があります。そこで少し休みましょう。歩けますか」
「はい」
「この穴は何だろう」
「これは大昔のお墓みたいですよ」
「すごい数だな。古の精霊たちよ、少しお邪魔します」五郎は古墳群に手を合わせて、傍らの石に亀若を座らせ、自分も腰を掛けた。
「くるみですか。ずいぶんたくさん拾いましたね」
「拾いすぎて、山の神様のばちが当たったのかしら」
「いやいや、老木が最後の力を振り絞って、できる限りの実を付けたのでしょう。木が倒れてきたのは寿命というもの。最後のくるみの実、ちゃんと食べてあげましょう。そして、いくつかこうして埋めてあげましょう。命は巡るものです」
「ここなら古の精霊たちが見守ってくれますね」
「それにしても、これだけのくるみを割るのは大変でしょう。どれ、手伝ってあげましょう」
五郎はいくつものくるみを両手で握り、まるで大きな握り飯でも作るかのように軽く力を入れると、バキバキとくるみの殻を割ってしまった。亀若が驚いて目を見張っている間に、あっという間にすべてのくるみが仁だけになっていた。
「うまそうだな。一つ頂いても良いですか」
「一つと言わず、いくつでも」
「では、ありがたく」】

というわけなの。
がっしりした大きなお体なのに、子供みたいにおいしそうにくるみをたべるの」
「素敵。どの方かしら。私も見たい」
「ほら、あそこ、ひときわ大きいからすぐわかるよ」

次回 第7章第1話 「巡り会い」に続く


楊谷寺谷戸横穴群
大磯丘陵にある横穴墓群
古墳時代後期のもので現在27基が確認されています。
亀若ちゃんが五郎と出会った頃はもっと多く残っていたかもしれませんね。

第1話はこちらから。


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