いかなる花の咲くやらん 第6章第4話 再会 序文
一一九〇年 夏 大磯
十郎と五郎は、大磯の宿に来ていた。仇討ちをしようとしても、そう簡単に仇に会えるわけもない。まして、二人に狙われていることを知っている祐経がそうそう簡単に姿を現すわけもない。とりあえず人の多く集まる宿場町を巡って、情報を集めようとしていたのだ。
大磯まで行くと、平塚へ行く道がやけに混雑していた。何かあるのか、町の人へ尋ねると、頼朝が高麗山の 高來神社 へ安産祈願へ来るという。
「なに、頼朝が。兄上、頼朝様が来ているということです」
「うむ。頼朝様がいらっしゃるのなら、祐経がともに来ているかもしれない」
「すぐに参りましょう」
二人は高麗山へ急いだ。
高麗山に着くと、そこは大変な人だかりだった。
「さすが、頼朝様の人気はすごいな。皆、一目見ようと集まっている」
「お兄さんたち、何をのんきなことを言っているんだい。ここに来たおおかたの人は、今を時めく、虎御前を見に来ているんだよ。」
「虎御前とは」
「大磯の新しい踊りの名手だよ。さあ、そろそろお出ましになる頃だよ。俺は亀若御前が御贔屓だけれどね」
「永遠ちゃん、今日は鎌倉様が、政子様の安産祈願を高麗寺でなさるそうで、私たちは。その踊りの奉納にいくそうですよ」
「え、鎌倉様って、源頼朝?」
「そうだよ。頼朝様、源の頼朝様以外に鎌倉様はいらっしゃらないよ。永遠ちゃんおもしろい」
(ということは、今は鎌倉時代か。八百年も昔に来てしまっていたのか。
ああ、あの神社のお札に、書いてあった頼朝様が御祈願なさったって。そこで自分が踊るなんて)
「頼朝様の御祈願だから、大勢の人が一目頼朝様を見ようと、集まっているのね」
「それだけじゃないかもしれないよ。永遠ちゃん目当ての見物人も、結構いると思うよ」
「えー、そんなことないよ。それなら、亀若ちゃん目当てじゃないの」
「まあ、それもあるね。私たち人気者―。あははは。あっ、くるみ割りの君だ」
「えっ!?くるみ割りの君?」
次回 第6章第5話「くるみ拾いが命拾い」に続く
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