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「いかなる花の咲くやらん」第12章第4話 「いかなる花の咲くやらん」

 寝室で永遠は窓辺に虎御石を置いて、月を見上げた。
(今宵は中秋の名月なのね。涙だかすんでおぼろ月にしか見えないわ)
軒端に吹きくる風の音、雁の群れの羽ばたく音、枕元で弱弱しく鳴く螽斯(きりぎりす)、静かな夜のかすかな物音の全てが永遠の心を傷つけた。
(秋が過ぎ冬になったら私は雪や霜になって消えてしまいたい)
 
 『嘆きにはいかなる花の咲くやらん 身になりてこそ思ひ知らるれ』
 (嘆きという木にはどのような花が咲くのでしょう。実がなってから分かるように、我が身のことになって、その思いを知るのですね)
 
大磯に戻った永遠から万劫御前の言葉を聞いた亀若は、心に乗った大きな荷物がほどけていくように感じた。涙と共に気がかりが流れ、少しづつ元気になった。そして二人で曽我へ行くことにした。曽我から箱根に向かい、権現様の元で濃い墨染の身になって仏道に入ろうと心に決めた永遠と亀若であった。しかし永遠は異変を感じていた。(元の時代へ帰る時が近いのかもしれない。突然消えるわけにはいかないわ。亀若ちゃんには全てを話そう。そして万劫御前様と菊鶴さん、夜叉王さんには、手紙を書いて亀若ちゃんに託そう)
 

参考文献 小学館新編日本古典文学全集53曽我物語

吾妻鏡曽我物語には、沢山の短歌が挿入されています。
上手に物語に編む込めなかったのですが、この短歌だけは、どうしても入れたいと思いました。そして表題もこの短歌から付けさせてもらいました。

次回はいよいよエピローグに向かいます

こちらのリンクから第1話に行かれます。

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