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現金な話

 あいかわらず、だいたい現金で支払っている。

 キャッシュレス化しなさい、しろ、しないやつは悪、とみんなが言っている(体感)ので、肩身が狭い。別にキャッシュレスが悪いとは思ってないし、むしろ絶対的に便利な世の中になると思うが、データの移動だけになってしまうと支払った感覚が薄く、そこに不安を感じるので現金の方が好きだ。二十歳の頃から出納帳もつけているし、今更そこにキャッシュレスの分の記帳を挟むとややこしくなってくる。

 以前に、有名なチェーンのカフェにふらっと入ったとき、注文を終えてお金を支払う段階になって初めて、「当店はキャッシュレスのみで、現金は使えません」と言われた。入口とかに書いてあったのかもしれないが、知らずに現金で払おうとしていた。

 財布やスマホにキャッシュレスで払えるようなアイテムもアプリもなかったので、慌てて先にかばんを置いてあった席に引き返し、交通系ICカードを取ってレジに戻った。しかし、私はこの手のカードも毎回使う分しかほぼチャージしていない。残額が足りなかったらどうしようとドキドキしたが、ぎりぎりあったので一応払えた。

 一部始終を見ていた店員は、最後ににこやかに言った。

「当店のコンセプトは未来をイメージしているので、キャッシュレスなんです」

 そう言うんだから、きっとそうなんだろう。しかし、それで何を納得したらいい。キャッシュレスに対応できず、あたふたしていた客に対して何のフォローになるんだ。私はたまたまなんとか払えたからいいが、もし払えずに去るしかなくなった場合にも、同じことを言うつもりだろうか。

「そっか。未来じゃしょうがないっすね!」

 そんな風に笑って納得できるほど、私はまだ未来にいない。というか、どんなにキャッシュレス化が進んだとて、現金がまったく使えなくなるのはちょっとどうだろうかと思う。でも、そういう世の流れ。

 本題はここから。

 あいかわらず現金払いが多いので、あいかわらずATMを利用している。だいたい一週間くらいで使い切りそうな金額をおろし、足りなくなってきたり、必要になった時には改めておろす。

 ATMではまず残高を確認する。毎回きっちり決まった金額を引き出すのなら別に確認しなくてもいいのだけど、なんとなく残高のキリがよくなるようにしたい。だから、まず確認しておろす額を決めてからおろす。

 この時、なぜか同じ暗証番号を二回入力しなくてはならない。残高の確認の時と、おろす時の二回だ。

 これが解せない。

 セキュリティとしての念押しかもしれないが、仮に私が悪いやつで赤の他人の口座から金をおろそうとしているのだとしても、一回目の時点で暗証番号は突破できているのだから、二回聞いたところで何の意味もない。残高が見れる悪党は全員、金もおろせるのだ。

 だから、残高の確認の時の入力だけで充分のはずなのに、毎度毎度、暗証番号のアンコールを受ける羽目になる。

 こんなわずらわしい思いをしなくて済む方法はないだろうか、と思案した時に、ひとつの考えがよぎった。

 ああ、キャッシュレスにすればいいのか。