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OpenToonzについて


前回の記事でも少し触れましたが今年のACTFのリモートセッションでOpenToonzという統合型アニメーション制作ソフトの紹介をします。統合型アニメーション制作ソフトといわれてもアニメ業界や専門教育を受けている方以外で記事を読まれる方には馴染みのないものだと思いますので少し紹介をしてみたいと思います。

OpenToonzは平たく言うとアニメを作る専用のソフトウエアです。アニメ制作は絵を描く作業から始まり、彩色、撮影(コンポジット)等のいくつかの工程から成っています。現在のアニメーション制作では描かれた絵から映像にするための制作工程は紙に描いた絵をスキャンし、デジタル化することから始まります。そこから線画を抽出して彩色作業を行いセルと呼ばれるキャラクターなどの画像を作成します。そこに別途用意した背景画を加えセルと背景画やその他の素材を演出の指定通りに重ね合わせ、最後にカメラワークやエフェクトを付加して合成画像の計算と出力(レンダリング)を行います。
現在はそれぞれの工程はすべて別々のソフトが使用されており各工程ごとに運用されています。また作画工程もデジタル化が始まっており、最近では始めからPC上で作画する例も少しずつ増えています。また3DCGとデジタル作画のハイブリットも増えています。

一般的にはこのような作業工程ですがOpenToonzは統合型のソフトウエアなので作画から撮影までの機能一式を持っていて、一通りの作業を内部で行うことができます。デジタル作画だけでなく紙での作画にも対応した機能もあるのでどちらの方式にも対応可能ですし併用も可能です。
また紙で描かれた動画をUSB接続したカメラで取り込んで動きをチェックする機能もあります。高画質な一眼カメラを接続すれば人形を使ったコマドリアニメーションの制作なども可能になります。
また一応カスタマイズ可能なブラシペイント機能もあるので簡単な背景は作れますが、機能的には専用のツールには及ばないので背景に関してはPhotoshopやFrescoなどのツールに任せたほうが無難です。

OpenToonzはもともとイタリアのDigital Video社が開発したToonzがベースになっています。

スタジオジブリでは『もののけ姫』(1997)の製作時からデジタルカットの制作で使用を始めていました。その後『ホーホケキョとなりの山田くん』(1999)からToonzをベースにデジタル制作環境に移行し、その後も改良を続けながら最新作の『君たちはどう生きるか』まで使用されています。開発の途中でDigital Videoとの協力でジブリでの作業環境に合わせてカスタマイズされ、独自の機能を搭載したToonz GHIBLI Editionが開発されます。
その後Toonzをdwangoが買収し、Toonz GHIBLI Editionをベースにオープンソース化されたのがOpenToonzです。
現在はジブリでもOpenToonzが使用されているので理論上はジブリクオリティの映像を誰でも作ることが可能…というのは言いすぎですが基本的にはジブリで使用しているものと全く同じ機能を有したソフトウエアということになります。
現在GitHub上でソースコードが公開されており、新機能を実装した最新版や派生バージョンなども公開されています。

私自身ジブリで実際に使っていてこのまま埋もれるのももったいないという思いからオープンソース化を期に「OpenToonzエヴァンジェリスト」などと名乗って手弁当で普及活動を行っています。
自身も関わるプロジェクトで使えるチャンスがあれば使用しています。制作に関わったものではアニメーターを主役に描いたNHKの朝ドラ「なつぞら」のオープニングのアニメーションや劇中アニメの制作で全面的に使用しています。また最近ではジブリとスター・ウオーズのコラボで話題になった「グローグーとマックロクロスケ」などで使用しています。

OpenToonzはクセの強いソフトで、初めて使う人にはなかなかハードルが高い部分があるのは否めません。現在Windows版とMac版がリリースされていますが、まずUIはOS標準ではなくQtで作成されています。このおかげでOSの敷居をまたいで同一の操作性は得られるのですが、現在では各OSのUIに慣れた人のほうが圧倒的なので面食らうことが多いようです。また非常に多機能であるがゆえに操作のわかりにくさもあります。
オープンソースということもあり、最近は個人でアニメーションやイラスト制作をされている方の利用も増えていますが、SNSでの声を聞くとやはり圧倒的に情報が少なくて困っている様子が見えてきます。
少しでも理解が広まればとYou Tubeで解説動画を公開したり入門書の出版もしました。また依頼があればスタジオやグループなどでのデモンストレーション活動なども行っています。とはいえ一人ではなか手が回らないのが現状で、もう少し充実させていきたいところではあります。

アニメーション業界での本格的なデジタル化からすでに20年ほど過ぎた現在、ほとんどの現場はほぼ固定されたソフトウエアで運用されています。中には重要なソフトウエアが既に開発終了から数年経っていながら使い続けられている例もあります。長年の運用で固定されたワークフローを変更するのは容易ではありませんが、いつ使えなくなるかわからない中での使用にも問題があります。大手の会社の中には独自のソフトウエア開発を進めている動きもあります。そのような中で選択肢の一つとしてOpenToonzというツールがあるということをまずは知って頂ければと思います。

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