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日本に「貧困問題」はあるの?

 日本に住んでいるとアフリカ(サハラ以南)や南アジアのような明日のご飯も住む場所もまともに着れる服もないという人に会うことはあまりありません。また、孤児が街中を歩き回り、お金を恵んで欲しいと集まってくる光景もあまり見られません。そのため、日本の「貧困問題」というとイメージが湧かない人も多いのではないかと思います。実際に私も大学生になるまでは想像することさえ出来ませんでした。今回は「絶対的貧困」と「相対的貧困」という二つのキーワードを基に見ていきたいと思います。

● 日本に「貧困問題」はあるの?

 答えはYesです。多くの日本人が日本に住んでいると、栄養失調で道端に倒れている人やボロボロの服を着ている人を見かけることは少ないと思います。しかし、日本にも「貧困問題」が存在している理由には貧困の定義が大きく分けて二つあるためです。この二つの定義とは、一つ目が「絶対的貧困」、そして二つ目が「相対的貧困」です。その中で日本が直面しているのは「相対的貧困」と呼ばれる存在です。先ずは「絶対的貧困」について見ていきます。

● 「絶対的貧困」って何?

「絶対的貧困」とは、食料や衣類など人間らしい生活の必要最低条件の基準が満たされていない状態のことです。世界銀行では1日1.90ドルを国際貧困ラインとして定義しています。およそ日本円に換算すると一日200円以下で生活している人々を指します。多くの人が「貧困」としてイメージするストリートチルドレンや飢餓に苦しんでいる人々は、この分類に属しています。この言葉の通り、絶対的に貧困な状態にあり、明日の生活さえもまともに送ることが出来るかもわからない貧困の状態です。

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● 「相対的貧困」って何?

「相対的貧困」とは、国、社会、地域など一定の母数の大多数より貧しい状態のことです。少し難しい言い方をすると、等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯員数の平方根で割った数)の中央値の半分未満である人を示しています。2018年の段階でこれに該当するのは、日本の場合で年収約127万円以下と言われています。これはおよそ1か月の収入が10万円以下の方々が該当します。
「絶対的貧困」とは異なり、「相対的貧困」は食料や衣服が全く買えない訳ではなく、中にはスマホやゲーム機を所有していたり、ブランド品を身に付けていたりするため一目で「貧困」とはわからないことが多いです。しかし年々物価が上昇している中で、月10万円以下の生活は非常に厳しいと言わざるを得ないです。仮に東京都23区内ですと、月10万円では住宅費や水道光熱費等の固定費を払い、生きるために必要な食費や医療費を払ってしまうと手元には殆ど残りません。ここに子どもがいると更に状況は複雑です。子どもは毎月おこずかいを貰えない、習い事も出来ない、友だちの持っているゲームを買ってもらえない等、経済的な理由で自由が剥奪された記憶は本人の成長に大きな影響を与えます。
 では、このような子どもの貧困について、2021年現在では6人に1人が「相対的貧困」状態に置かれていると言われています。30人クラスであれば、その中の5人が貧困ラインで生活していることになります。では、過去から「相対的貧困」の推移を見ていきたいと思います。

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● 日本の相対的貧困率は悪化しているの?

 厚生労働省が2020年7月17日に公表した「2019年国民生活基礎調査」に基づいて見ると、下図のようになっています。先に答えを言うと相対的貧困は2012年以降快方に向かっています。

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 相対的貧困の割合は2012年の16.1%をピークに減少傾向にありますが、依然として非常に高い数値で推移しています。その中で子どもの貧困率は同じく2012年に16.3%のピークをつけて以降、現状では2003年と同じレベルの13.5%まで減少しています。この数値は依然としてOECD加盟国の中でトップ7には入って来る数字ではありますが、多くの行政、NPO、団体の活動のおかげ状況が改善して来ていることがわかります。実際に「相対的貧困」に対する各取り組みが功を奏したことで状況の「悪化」は免れています。
 しかし、一方でまだ15.4%の割合で「相対的貧困」が存在しているということからも、引き続き多くの人々にこの問題を認識して頂き、解決に向けて一緒に取り組んでいく必要があると言えます。
次に細かく年代別、性別で見ていきます。

● 年代別、性別での相対的貧困率 - 男性編 - 

 年代別、性別で相対的貧困率を見ていきます。先ずは下図が1985年-2015年の男性の年代別貧困率の推移です。

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参照:相対的的貧困率の長期的動向:1985-2015 首都大学東京 子ども・若者貧困研究センター 阿部 彩様

 この表から20-24歳の若年層、70歳以上の高齢層で貧困率が上昇していることがわかります。更に、このブラフからは2015年時点で若年層の貧困率は先10年に比べて改善に向かっている一方、高齢層では2015年時点の方が2012年時点よりも悪化していることが読み取れます。このことから、男性の若年層と高齢層に対しての貧困対策が近々で求められることがわかります。

● 年代別、性別での相対的貧困率 - 女性編 - 

続いて女性の1985年-2015年の年代別貧困率推移を見ていきます。

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資料参照:相対的的貧困率の長期的動向:1985-2015 首都大学東京 子ども・若者貧困研究センター 阿部 彩様

 上図から男性と同じく、20-24歳の若年層、70歳以上の高齢層での貧困率が高い傾向にあることが読み取れます。この状況を男性と比べたときに高齢層での貧困率が約5ポイント程高く、2015年時点ではその更に年齢が高い層で貧困率が拡大していることが読み取れます。このことから女性に対しても若年層への対策はもとより、高齢層へのアプローチが更に求められることがわかります。

●子どもの貧困率

 子どもの貧困率は2012年16.3%をピークにして最新の2018年時点で13.5%まで改善に向かっています。しかし、依然として13.5%は決して低い数字ではないため、今後も継続したアプローチが必要です。具体的にどの層に問題が潜んでいるのか下図で見ていきます。

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資料参照:相対的的貧困率の長期的動向:1985-2015 首都大学東京 子ども・若者貧困研究センター 阿部 彩様

 上図にて頭一つ抜けているのが「ひとり親と未婚子のみ」という項目です。この項目が子どもの貧困の半数を占めており、結果的にこの層へのアプローチを強化すれば相対的貧困率の改善に寄与出来ることがわかります。

● まとめ

  • 日本にも「貧困問題」が存在している。

  • 「貧困」には「絶対的貧困」と「相対的貧困」の2つの定義があり、日本は「相対的貧困」に属している。

  • 日本の全年代・性別の相対的貧困率は2012年の16.1%をピークに2018年時点では15.4%まで改善している。

  • 日本の子どもの貧困率は2012年の16.3%をピークに2018年時点で13.5%まで改善している。

  • 男性の貧困率は20-24歳の若年層、70歳以上の高齢層で高くなっている。

  • 女性の貧困率は20-24歳の若年層、70歳以上の高齢層で高くなっている。

  • 子どもの貧困率は「ひとり親と未婚子のみ」が半数以上を占めている。

● 最後に

 2018年時点で相対的貧困率も子どもの貧困率も改善に向かっていました。しかし、2020年から始まっているコロナ禍で状況は一変しています。目に見える形でフードドライブや食糧配布に並ぶ人が増え、ハローワークでは年代を問わず多くの人が押し寄せています。まだ統計データは公表されていませんが、非常に厳しい数値になるのではないかと想定されます。しかし、このような時でも一番ダメージを受けるのは元々貧困率の高かった層です。日本の状況は一変しましたが、この層へのアプローチを継続して行うことで再び貧困率の低下に向けて取り組むことは出来ると考えます。あまり悲観的になり過ぎず、明るい未来を信じて活動を続けていきたいと思います。






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