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妖怪と音楽シリーズ2 奄美・沖縄の音楽と怪異

先日、奄美・沖縄が、世界自然遺産に登録されましたね。独自の生態系を持ち、希少種や固有種も多いこれらの地域は、文化においても独自のものが今も受け継がれています。
ということで、今回は、奄美・沖縄にスポットを当てて、音楽に関する怪異をご紹介します。

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奄美大島、ホノホシ海岸

「歌」が生活に根付いた奄美群島の文化

奄美群島では、シマ唄をはじめとした音楽文化が根付いており、本土以上に「歌」が重要な意味を持っています。昔から歌かけ遊びが盛んであり、男女の仲もこうした歌かけ遊びの中で発展した節もあります。“歌かけ”とは、現代でいうところのラップバトルのようなもので、歌にのせてお互いの言い分を歌い合い、相手を負かすようなものでした。こうした歌かけ遊びに使われた歌が“シマ唄”です。このシマ唄の他にも、奄美諸島には、八月踊りなどの行事歌や労働歌など、多くの歌が生活に溢れており、近年は形態を変えつつもその精神は残されていると感じます。

私は2017年から研究チームの一員として、奄美大島や喜界島に何度も訪れていますが、島の住民の殆どが高い音楽的センスを持っています。六調(奄美民謡の一種で、会のフィナーレなどに演奏されるノリの良い曲)が聞こえてくると、腰痛のおじいさんまでもが自然に体を動かしていたのがとても印象に残っています。「歌」が非常に身近にある奄美だからこそ、音楽に関する怪異も、本土よりも多く、生活に密着しています。

徳之島の呪い歌 “サカ歌”

奄美大島と沖縄本島の間に位置する徳之島。ここにはかつて、《蟹口説(かにくどき)》という口説(民謡の一種)が歌われていました。
この歌の歌詞は、

川の蟹が物を取って食べる 1つ2つ3つ…

となっており、数え歌のようですが、実は、呪いから身を守るための歌でもありました。蟹のハサミで呪いを断つといった意味合いがあります。他の集落(シマ)の人と歌かけをした後(あるいは前)は、いつ呪いをかけられているかわからないので、この歌を歌ったそうです。

さて、実際に呪いをかける方の歌を“サカ歌”と言います。人間の霊力に危害を加え、死に至らしめる呪い歌で、いくつかの種類が伝えられています。そのどれもが、この世の定理とは真逆の矛盾したことを敢えて歌詞に織り込んであります。その歌詞を見ると、シュルレアリスム文学や、『不思議の国のアリス』に出てくるキャラクターが歌ってくる詩を連想してしまいます。ここではそれらの歌詞はご紹介しません。読んだ方が呪われても、責任がとれないためです。

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幽霊との歌かけ合戦

歌かけに関して、もう一つ怖い話をご紹介します。
奄美大島の向かいに喜界島という小さな島があります。そこに伝わるお話で、幽霊と歌かけの試合をする際の注意事のような話が伝わっています。幽霊が歌かけを挑んできた場合、負けると命を取られます。幽霊は、「(三味線の)キーを上げろ、糸をもっと強く張れ!」と言ってくるので、そんな時は、糸を強く張るふりをして、逆に弱めろと言います。なぜならば、糸を強く張ると、糸が切れて、歌かけどころでなく負けてしまうからです。また、鶏を持って行き鳴かせると、幽霊は朝だと思って逃げていくとも伝えられています。
これらの話は、喜界島だけでなく、奄美大島や徳之島などの他の島々にも類似の話があります。また、鶏でこの世ならざる者が逃げていくという話は、沖縄のキジムナーの話や本土の河童の話にも類似したものがあります。まず幽霊に歌かけを申し込まれる時点で怖すぎますが、幽霊も歌が好きというのは、さすがは奄美諸島だな、と感じます。

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喜界島、百之台からの景色

夜に歌うことを禁じられた歌《かんつめ節》

さて、シマ唄の中には、夜に歌うことを禁じられた歌もあります。奄美大島の有名なシマ唄、《かんつめ節》です。“かんつめ”とは女性の名前で、実在した美女です。岩加那という男と恋に落ち逢引きしますが、働き先の主人は嫉妬し、その後の虐待により自殺に追い込まれました。かんつめの死後、呪いにより主人の家は没落したといいます。その歌詞は、

昨夜まで一緒に遊んでいたかんつめが急になくなって、
明日の夜にはあの世で袖を振って泣いている。

という、かんつめの死を歌ったもの。非常に人気のあるシマ唄ですが、夜に歌うと、かんつめの幽霊が来ると言われており、多くの唄者(シマ唄の歌い手)はそれを注意深く避けています。

最恐の子守歌《耳切坊主》

最後は沖縄の例をご紹介します。
子どものころ、「早く寝ないと○○が来るぞ~」と言ったようなしつけをされた経験が誰しもあるでしょう。沖縄には、まさにこの類の子守歌が存在します。それが《耳切坊主(ミミチリボージ)》
メロディは琉球音階の楽観的な雰囲気のものですが、歌詞はそれとは真逆で恐怖そのもの。

大村御殿の角に 耳切り坊主が立っているよ
何人何人立っているの 三人四人立っているよ
鎌も小刀も持っているよ
泣いている子の耳を グスグス切るよ
へイヨーへイヨー 泣かないよ
ヘイヨーへイヨー 泣かないよ

“耳切坊主”とは、昔、北谷王子という人に成敗された悪いお坊さんの幽霊で、北谷王子を恨んで大村御殿に生まれた子どもを呪っていました。この伝説から生まれた子守歌です。原文の歌詞「耳グスグス」という生々しい表現が、なんとも恐怖心を掻き立てます。

音楽の霊的な力

以上、4つの例をお話してきましたが、これらの例を見たとき、やはり音楽の力は人知を超えているなと感じます。音楽は、人を呪い殺し、また幽霊を呼ぶのです。思えば音楽は、東洋でも西洋でも、多くの儀式や呪術に使われてきました。岩笛の調べによって神霊を呼び出し、また多くの芸能は神仏に捧げるものであり、魔除けのまじないでもありました。

奄美諸島のシマ唄や八月踊りには、歌にのせて先人たちの教えや歴史の出来事を伝える意味合いもありました。お話だけで聞かせるより、歌に乗せた方が効果的に伝えられ、廃れにくくもあったでしょう。音の力、音楽の力…。それは直接的に精神に語り掛け、言葉以上に多くのメッセージを伝えます。こうした音楽は、時に人知を超えた呪術的な力を発するのでしょう。


(参考文献)
松山光秀『徳之島の民俗1』2004未来社
岩瀬博 他『琉球の伝承文化を歩く3 喜界島の伝説・昔話』2006三弥井書店
小川学夫『奄美における伝承的呪詞の表現形態』2005鹿児島純心女子短期大学研究紀要第35号


Text by 一色萌生

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