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【売春風土記】第10回 横浜から来た2人組

場所:歌舞伎町、大久保公園

 前回は、妊婦立ちんぼのエピソードを引き合いに出し、家なき子のサバイバル力についての話をしました(『第9回 サバイバル力』)。
 その手のエピソードをもう一つ語りたくなったので、今回はそれを――。

 先週木曜の深夜2時ごろ、歌舞伎町の大久保公園のそばを歩いていたときのこと。キャリーバックを持って立っている2人組の女性を見かけました。片方は左目にシール型の眼帯を付けており、片方は左腕に包帯を巻いている。何だか負傷しているコンビです。
「こんばんわー」
 声をかけると、やはりというべきか、2人は家なき子でした。聞けば、横浜から来たとのことでした。
「なんでまた歌舞伎町に?」
 2人が事情を語ってくれ始めました。
 まずは眼帯ちゃんが。
「家を出てきたのは、ウチの元カレに殺されかけたからなんですよ。というのは、ウチとこっちが2人で家にいたら、そこに元カレがやって来て、それでケンカになって。目を殴られて、それで包丁持ち出されて」
 包帯ちゃんがあとを続けます。
「まぁ助けるじゃん。そしたら、こっちの腕にグサ。で、このザマ。あっ、これ、貫通してるからね」
「貫通っすか?」
「そーそー」
 そんなわけで家を飛び出し、タクシーで歌舞伎町まで逃げてきたそうです。
「だからせめて、タクシー代くらいは回収したくって」
「…お金がほしいと?」
「そーそー。どうします、遊びます?」
「…ていうか、腕、大丈夫なの?」
「一応、病院でモルヒネ打ってもらったから。今は麻痺ってるんで。何とか大丈夫」
 そう言うと、腕の動きを確かめるように手を握ったり閉じたりする包帯ちゃん。眼帯ちゃんも何やら目をさすり始めます。
 そして2人はニコっと笑いました。
「2人でイチゴーでいいよ」

 ――というエピソードなんですが、この話、みなさんはどう思われるでしょうか?
 正直、貫通うんぬんの真偽のほどはよくわかりません。同情を買うための小芝居のような気もします。が、われわれ一般人にはまずないこういうサバイバル力こそ、家なき子の魅力なんだよなぁ、と私は思います。結局、買うことはしなかったんですが。
 彼女たちは現在、まだ歌舞伎町にいると思われます。横浜から来た2人組、会ったら優しくしてあげて下さいませ。

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