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<戦時下の一品> 千人針の腹巻

 戦場へ出向く兵士に対して「無事で帰ってきてください」とは直接言えないのが戦時下。慰問の手紙も未練を残させないように「さようなら」で締めくくるという息苦しい、天皇の為の軍隊の定め。その中で、無事を祈って庶民が作り出したのが「千人針」です。
 女性が一人一針、心を込めて玉止めを作ります。寅年生まれの女性だと、その年齢分、玉止めを作っても良いとされており、お願いする側としては大変その出会いも嬉しかったでしょう。腹巻が一般的ですが、チョッキのものもありました。こちら、長野県松本市から出征された方のために作られた千人針の腹巻です。武運長久の文字と、玉止めで描かれた走る虎の千人針腹巻です。

武運長久の文字と、玉止めで描かれた虎
うっすらとした赤い下線に沿って、玉止めが並んでいます。

 虎が題材に使われるのは、「虎は子を思うて、千里を帰る」という故事にならっています。子を思う親の愛情は、極めて深いということのたとえです。もちろん、ただ並べて玉止めをつくってもらったものもありましたが、いずれにしても、思いは同じです。きれいな形のものは、商店で下絵の入った千人針用のものを販売していて、それを利用したものが多いと思われます。
 こちらは、そんな商品の一つを使ったもので、旭日を中心に据えて、虎は両脇に絵で描いてあります。旭日は形が簡単で、既にしっかり色がついていることから、手早く作るにはむいているデザインといえます。

中央に大きく旭日をあしらった千人針の腹巻
絵だけですが、虎をいれてあります。
旭日には白抜きで玉止めを縫う位置を示しています。

 出征兵士が増えると、街頭に立つ家族らが道行く人に声をかけるなどしている姿があちこちで見られたことでしょう。それにしても、無事帰ってこい、と言えない世の中。それは自分の子でも天皇に捧げた赤子であるから。こんな世の中のどこが民主主義か。国民主権か。二度と招きたくない時代です。

 

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