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戦時下でもないのにあらゆるものが値上がりする昨今に鑑み、戦時下の値上げ資料をご紹介

 2024(令和6)年6月18日にこの記事を書いておりますが、既にさまざまな食料品などの7月引き上げが予定されているほか、クッキーやお菓子など、いろんなものが小さくなる「ステルス値上げ」にもさらされてきました。円安誘導を10年以上続けてきた平時の政策の影響だけでもこの有様ですから、戦時下にはもっとすごいことになったのではないかーということで、以前、たばこの値上げを取り上げました。今回は、日中戦争初頭の値上げ資料をご紹介します。
 まず、1937(昭和12)年7月に日中戦争が本格化して、軍需物資の輸入や運搬のため民間の船舶使用量が少なくなる中、影響が大きかったものとしてパルプがあります。パルプは紙の生産に不可欠ですが、かさばることから輸入量が減少したのと、綿糸の代用品として化学繊維のステープルファイバー(スフ)の材料にもとられていったため、たちまち紙の値段に響いてきます。大阪名刺用紙協会は、1938(昭和13)年5月1日に「二割以上値上げ即日実行」との「急告」を出しています。

名刺業者への即日値上げを呼びかける通知

 やはり名刺やはがきなどを扱っている大阪市の株式会社沢村商店も同年5月10日、値上げの通知を出しました。
 この年の1月以降の紙の高騰に悩まされてきたが、割安品などを強いれていたこともあって値上げをしていなかったが、それらも底をついてきたので5月21日に「定価改正値上げ実行」をするが、その前に手持品を従来の値段で販売すると顧客の引き留めをしつつ、やんわりと値上げを知らせています。

沢村商店の「値上げに対する急告」
「今後も引き続き漸騰の見込み濃厚」と予防線を張り、今のうちに購入をと。

 そして、三重県の清涼飲料水同業組合津支部は値上げ即日実行の「急告」を1939(昭和14)年2月1日付けで組合員に伝達しています。

予告なしで値上げをせよとの指令
瓶は自社製造品が少なかった時代で、仕入れが主でした
瓶代も合わせて値上げ

 残念ながら、この前がいくらかは分からないので、どれぐらいの値上がりかはわかりませんが、それなりに消費者には響いたでしょう。また、瓶も生産、回収などさまざまな部分で値上がり要因があり、ラムネ瓶などは加工が大変なので、紛失すると1本買うよりも瓶代の方が高い値段を払わされることになります。
 この軍需によって民需の輸入が減り、国内ストックが尽きてきてインフレがどんどん進む中、政府はこの年、「9・18ストップ令」という非常措置に出ます。つまり、あらゆる商品やサービス、給料などを9月18日時点の「停止価格」にせよと、19日に国家総動員法を発動してインフレを抑えようとします。価格等統制令、地代家賃統制令、賃金臨時措置令、会社職員給与臨時措置令が、それぞれ国家総動員法に基づいて発令され(国会を通さなくてよかった勅令です)ました。
 しかし、経済はそんな単純なものではないので、次々に物資を統制せざるをえなくなり、後の配給割当(有料)を山ほど生むことになります。そして、表の経済とは違う闇取引の横行が物資不足に拍車をかけることになります。こちらの長野市と長野商工会議所が主催した講演会の案内は、戦時経済統制の必要性を訴えているので、発行年は不明ですが、おそらく9・18ストップ令の効果を出すため、政府が11月に物資統制要綱を発表したのに合わせ、同年の12月に開いたと推定しています。

赤いペラペラの紙が物資不足を伝えます。
「近代戦は国力戦」「経済統制が強化されてきた事も必然」と。

 こうした一時的な対策も物資不足はもちろん解消せず、その後はさまざまなスローガンと配給切符の氾濫、経済事犯の増大という中で、何も持たない庶民が振り回されていくことになるのです。

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