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文系と理系の判断基準の違い(2)

(1)で「自然科学(理系)は確実性、社会科学(文系)は可能性」を優先する傾向について整理しました。更に違った角度(トレードオフの存在)から、判断基準への影響について考えてみましょう。

(2)では「機械学習プログラムの性能評価」について取り上げます。この分野では、偽陽性と偽陰性などの相互関係が「混同行列」と言う形で整理されています。性能を評価する指標(正解率、適合率、再現率など)はそれぞれ以下の数式で表されます。

混同行列:confusion matrix

ここで注目したいのは「正解率と適合率の ” トレードオフ ” の関係」です。どちらかの成績を上げれば、もう一方が下がる関係になっています。

トレードオフとは、何かを得ると、別の何かを失う、相容れない関係

Wikipedia

例として、「レントゲン画像の自動診断システム」で考えてみましょう。
機械学習プログラムに「正解率」の高さのみ追求させると、疑わしいデータをどんどん棄却するようになります。これではグレーな症例を全て取りこぼしてしまうため、本来の検査の目的に合わなくなってしまいます。
グレーな症例が再検査にまわるように「適合率」を向上させると、プログラムの「正解率」は下がってしまいます。必ずしも「正解率が高い=使えるシステム」にはならないところがポイントです。(使い勝手を優先して「適合率」を高くし過ぎると、再検査の件数が増えてオペレーションが煩雑になる弊害が出てきます。)

正解率 と 適合率 の違い

以上のように、機械学習システムの実用性を高めるには「評価指標のバランス調整」が大切です。判定結果が自動で出力されるプログラムでも、その内部ではやはり人間の意志が反映されています。

一般的に、正解率は「高ければ高いほど良い」と思われがちです。
「正解率を下げる」調整の意味は、直感的に理解されにくい難しさがありますが、冷静になって考えれば、
・完璧に近い「確実性」を求めると「可能性」が犠牲となり、
・逆に「可能性」を広げすぎると「確実性」が失われる。

 ・・・これは、当たり前の話として理解できると思います。
トレードオフの関係が、あらゆる判断や意思決定の中に存在していることは、常識として理解しておく必要があります。

一般的に、マネジメントやプロデュースといった業務には「さじ加減」が付きもので、それらはよく「風呂敷を広げる/畳む」に例えられます。
(1)では、文系マネージャーに「風呂敷を広げすぎて畳めなくなる」、理系マネージャーに「畳める範囲でしか広げたがらない」傾向があること、
(2)では「広げすぎれば畳むのが大変」「広げすぎなければ畳みやすい」当たり前の感覚(トレードオフ)が伴うことを確認してきました。

プロジェクト管理では、こういった「バランス感覚」が常に問われます。これらを的確にコントロールするには、意思決定や指示出しに携わる関係者の中に、トレードオフのような「変数の因果関係」の全体像を把握している人が必要になります。

ビジネスの性質として、投資案件は成長性(事業規模の拡大)、受注案件は確実性(品質管理や納期厳守)が求められます。前者は「広がり」、後者は「畳みやすさ」優先の判断になりますが、こういった前提条件の区別がないまま、単なる押し問答になることも少なくありません。

判断や意思決定をする際には、互いの見解の相違が生じている「背景」について、関係者の中で理解し合うことが大切です。

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