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対話的な学びの質を見とるには?ーアプロプリエーションという概念ー

 授業では、考えを広げたり深めたりすることを目的に「話し合い(conversation)」「対話(dialogue)」「議論(discussion)」が行われています。
 しかし、「対話の質」は盛り上がりや活発さが注目されがちで、ともすれば子ども達の学びが軽視される懸念があります。
 そこで今回は、「対話の質」を「子どもの学習」という視点から評価する際に有用だと考えられる「アプロプリエーション」という概念を用いた研究を紹介します。
 紹介する論文の概要は以下の通りです。 

  • 本論文は、子どもたちが科学的な事象や法則について認識を深めるときに、「話し合い」が重要な役割を果たすことに注目しました。

  • その中でもとくに「認識を深める」を取り上げ、その分析の視点として「アプロプリエーション」を用いました。

  • 「アプロプリエーション」とは、他者の発言を借りて取り込み,自分の意図に沿って変化させて用いる活動と定義されています。

  • 本研究では、小学校6年生を対象に理科の授業を行い、そこでの話し合い活動を分析しました。

  • 次の対話は、本論文の例「血液循環の仕組み」の学習で、「そもそもきれいな血とは何か。なぜ血液は汚くなるのかという」という問いに対しての児童同士、教師の部分です。

  • A:「酸素が血液に入るって聞いたよ」
    B:「空気が汚いんじゃない?」
    T:「汚い空気を吸うと血液が汚れるの?」
    C:「いやいや、僕たちだって何かを食べたら排泄するでしょ。」
    A:「なるほど!排泄は、必要な栄養をとって、不要なものを出すもんね。」(アプロプリエーション)
    C:「血液もそうだよ。」
    B:「どういうこと?」
    A:「つまり、不要なものを含んだ血液が汚い血液なのか」

  • このやりとりでは、「排便」という話をきっかけに、お互いに経験や知識を出し合い、相互作用しながら科学的な認識を深めました。

  • Cの「排便」をきっかけに、AもCの用いた「排便」を自分の言葉(アプロプリエート)にして科学的な認識を深め、BもきっとAやCの話を聞いて理解してきています。

 この論文は理科の授業を取り上げていますが、対話をする教科すべてに通じるものです。児童同士の発言を整理したり、つなげたりすることで児童たちはよりアプロプリエーションするのではないでしょうか。
 このような児童たちは、互いに切磋琢磨しながら考えを広げたり、深めたりしていき、教師からだけでなく友達から学ぶことを知るのではないでしょうか。

村瀬公胤(2011)「理科授業の話し合いにおける科学的概念の協同構成一比喩表現のアプロプリエーション(借用/領有)に注目してー」『理科教育学研究』51 (3), pp.227-237
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjst/51/3/51_KJ00007111477/_article/-char/ja/

文責:町田晃大


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