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大人の期待を越えていく子どもを育てたい。ユニークな教室を立ち上げた元広告ディレクターが考える、教育業界の魅力とは?

大学卒業後、大手事業会社に就職するも1年で退職し、独立・開業して「studioあお」というプロジェクト型の学習教室を立ち上げたのが、株式会社COLEYOの川村哲也さんだ。

現在は教室運営だけでなく、「よのなか体験教室 タッチ」という、子ども時代に体験できることを増やす事業にも力を注いでいる。

やりたいことを見つけ、挑戦し続ける子どもたちを増やすべく日々奔走する川村さんは、なぜ教育業界での起業という選択肢に舵を切ったのか?詳しくお話を伺った。

子ども時代の体験の数を増やし、将来の選択肢を広げたい

——川村さんは民間企業に就職後、独立して教育事業を立ち上げられたそうですね。これまでの経歴について詳しく教えていただけますか?

大学卒業後は、広告制作専門の会社で人材広告の仕事に就きました。働いていたのはたったの1年間だけでしたが、広告という仕事のおもしろさに魅了され、情報を必要としている人に魅力的に届ける伝え方についてたくさん学ばせていただきました。そして1年勤めた後に退職。今思うと、生意気だったと思います(笑)。

1年でやめた理由は「早いうちに大きく失敗しておいた方が絶対いい」という考えが根底にあったからです。独立を考えたときに、子ども相手の仕事に挑戦することを決めました。当時は教育に関する知識は全くなかったのですが、これまでの経験から、子どもを相手にする仕事なら自分の情熱をそそげるという確信はあったんです。

その背景には、僕が育った環境が大きく影響しています。7人兄弟の中で育ったこと。そして、父が「病気とともに生きていく」というテーマで精神科医をしていたこと。患者さんや看護師さんの子どもと一緒に住むという、少し変わった経験をしながら育った僕は、小学校6年生で赤ちゃんのオムツを手際よく変えられるほど、小さい子の面倒を良く見ていました。

そんな環境で育った僕にとって、子どもと毎日会えることは喜びです。そんなわけで、「子ども」と「世の中のいろんなことをおもしろく見せる広告の仕事の要素」を掛け合わせた事業に挑戦したら楽しそうだなと思い、独立しました。

京都市上京区に拠点をおくstudioあお

——好きなことと得意なことを掛け合わせて起業されたのですね。現在はどのような事業に取り組まれているのでしょうか?

「studioあお」を運営する株式会社COLEYOは、アクティブラーニングやプロジェクト型学習のノウハウを取り扱っている会社です。具体的には、「studioあお」の運営や、企業とコンテンツを開発し学校や自治体に提供する事業に取り組んでいます。

その中でも現在は、自社で開発したコンテンツを使った「よのなか体験教室 タッチ!」という事業に注力しています。タッチ!とは「子ども時代の体験の数を増やし、将来の選択肢を広げる」をコンセプトに、商売・科学実験・アートなど多様な活動を、1年で24種類体験できるというもの。さまざまな体験から知識や経験を増やすことで、やりたいことに出会える子どもを増やしたいと考えています。

最近では「桃太郎電鉄」というゲームと、地理の授業を掛け合わせたコンテンツを作ったり、日本航空(JAL)と共同開発した謎解きゲームを開発したりと、いろいろな企業や団体とコラボレーションして教材開発に取り組んでいます。

よのなか体験教室 タッチ!のホームページ

「10年後、やっと商売になる」という覚悟で始めた教室

——教育業界に土俵を変えて起業されて、大変だったことも多かったのではないでしょうか。

そうですね。「プロジェクト型学習教室」というスタイルは、創業当時はまだ誰もやっていないものでした。「勉強を教えないプロジェクト型学習って、一体何をするところなの?」と、怪しい印象しかない教室だったと思います。

起業したばかりの頃は、尊敬できる大学の先輩たち3人にかなり頼っていた時期もありました。初めは先輩にお金を借りて、教室となるテナントを借り、看板を作って、何とか「ここが教室です」と名乗り始めたのが「studioあお」のスタートです。

創業当時のstudioあお

半年間ぐらいは生徒が1人だったんですよ。それから地域の子やその友だちと、つながりの中で少しずつ生徒が増えていきました。それでも全生徒は10人ほどでしたね。

——本当にゼロからのスタートだったのですね。現在は生徒さんが100人を超えているそうですが、何か起爆剤となるようなことがあったのでしょうか?

偶然地元の街歩き番組で「変な教室」として紹介していただいて、そこから問い合わせが来るようになったんです。それ以降、一時教室が満員になったんですよ。その後はオンラインイベントでの登壇をきっかけに企業からお仕事の依頼が増えてきて、法人を設立することになりました。

この話をすると順風満帆のようにみられるのですが、実際は大変でしたし、不安もありました。そのようなときには必ず、「10年後、やっと商売になる」という起業当初の覚悟を思い出していました。

創業当初、プロジェクト型学習は時代を先取りしているというイメージでした。だから、10年間は流行らないと覚悟していたんです。「最初の10年は貧乏でもいい」と自分を納得させて、事業を続けていました。

けれども実際には、世間の反応は思ったよりも早くて。先ほどの登壇の話やテレビ出演の機会をいただいたのが、立ち上げ3年目の頃でした。現在は8名が在籍する会社にまで成長させることができ、来期も採用をして会社の規模を大きくしていくようなフェーズにあります。

現在のstudioあおの様子

大人のリアルな体験の数が、子どもにいい影響を与える

——さまざまな事業に取り組まれている川村さんが、事業に取り組む上で大切にしていることは何ですか?

僕がこの仕事をしていて一番うれしいのは、子どもが自発的に何かに取り組むようになったときです。やりたいことを家でやってきたり、何かを作ってきたり…自分なりに試行錯誤してみた結果や報告を聞くときが最高にうれしいんですよね。

試行錯誤の内容が、必ずしも何か人生の役に立つものである必要はありません。「やらなくていいことを、どれだけやりたくなるか」ということが、人生を楽しくする上でとても大事なポイントだと思っています。

目指すのは、誰かが子どもの心に火をつけるような世界ではなくて、子どもたちが自分でやりたいことにチャレンジできる世界。子どもたちが、自家発電しているイメージです。特に「これをやるぞ」とか「やらなきゃ」という気合を入れなくても、「楽しくて、自分でやりたいと思うから、新しいものを作って生きてます」という気持ちを持った人を増やしていきたいんですよね。

——「自家発電」という言葉、いいですね!やりたいことが自分でわかって、それを楽しめる準備がこども時代にできていたら素敵ですよね。

そうですね。今の社会の仕組みには、世の中と教育現場の間に大きなギャップがあるように感じています。僕自身、20〜22歳ぐらいで社会人になって世の中に出ていくときに、それまでの経験とのギャップに苦しむ人にたくさん出会ってきました。社会に出るまでに20年ほど準備する時間があったのにも関わらず、「社会人1年目は大変だから」と言われてしまいますし。

でも、もし20年という月日を世の中に出る準備期間としてしっかり使えた場合、そのギャップに苦しむ必要もなくなり、楽しい社会人生活が始められるはずなんですよ。結果残りの80年間を「こんなことがやりたいんだ」と、モチベーションを高く持って生きられる。いい意味で大人の期待から外れていく人が増えていくと思うんです。

実際に、studioあおを卒業した中学生がオンラインゲームを使って英語を教えていたり、街の困りごとを見つけてその問題を役所に陳情して、国会議事堂にまでいった高校生がいます。そういう、思いがけないことをして楽しんでいる子たちの思いがけなかった報告がおもしろいなと思っています。

大人の期待を超えていく子どもたちの話を、今後もお酒を飲みながらできるようにしていけたら、とても楽しいですよね!

——これからも大人の期待を超えていく子どもたちのお話が聞けることを楽しみにしています!最後に、川村さんのように民間企業から教育業界へ転職する人へ向けて、アドバイスをいただけますか?

もし教育業界に転職するのであれば、成功も挫折も含めて、ぜひ色々な経験を持っている人であってほしいと思います。実際に自分で「見て、感じて、聞いて、嗅いで、食べた」とういうリアルな体験の数が多い人の方が、 子どもたちにとってより良い影響を与える人になれると思うからです。

リアルな体験を持っている人の話は、とにかくおもしろいじゃないですか。そういう大人は子どもからも好かれます。逆に、誰かから聞いた話は、子どもたちにはすぐに見透かされてしまいます。よりリアルな経験や情報を持っている人の話は、子どもたちの記憶にも残りますし、子どもたちが何かに挑戦するきっかけを作ることにつながる気がしています。

ぜひリアルに手足を動かした回数が多い方に、教育業界へ飛び込んでいただけたらうれしいです!

取材・文:増田 千華 | 写真:芝田 陽介 ほか

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