【ゼロから学ぶNVC #2】教室を安心な場にする「共感」の重要性(現場で使えるワーク付)
共感のパワーと技術
連載#1では、NVCの基礎とその可能性ということで、NVCの概論とNVCを教育現場に取り入れた際の可能性についてお伝えしました。
どんな感想を持たれたでしょうか?どなたかの希望のニーズを満たすことができていたらうれしいです。
さて、今回から4回にわたって「子どもたちとNVCをどう実践するか?」「さっそくエッセンスだけでも教室で取り入れてみたい!」そんな思いを抱かれた先生方に向けて、NVCのワークをシェアさせていただければと思います。
NVCを実践するまでに必要なプロセスとは?
上の図は、NVC Singaporeがシンガポール政府機関と教育機関向けのプログラムを開発していた際に作成した「NVC実践までの到達プロセス図」です。
図の頂点に示されているのが、NVCが目指す最終的なゴールである「思いやりを持った与え合いが生まれるつながりの質をつくる」を分かりやすく言い替えた、「自分のニーズも他者のニーズも大切にしようとできる」という言葉です。
図をご覧いただけると分かるように、NVCって、いいね!→ではさっそく、4つの要素(観察・感情・ニーズ・リクエスト)について教えよう!と、一足飛びにゴールを目指しても、実はなかなか上手く実践に至りません。
【4つの要素を用い、正直に話す+ 共感的に聴く】と、NVCは言葉にしてしまえば非常にシンプルなのですが、そのプロセスをどんな意図をもって行うか?というところが、実は最も大切なポイントです。
上の図は、そのポイントを大切にする力が育まれる過程を意識して設計しました。各自が他者からの承認を通じて自己信頼を育てること、場に心理的安全性があることをベースとし、NVCの学びを通して身につけたい力をスモールステップで把握していただけます。上の図は、子どもにも大人にも当てはめて考えることができます。
「誰かに大切にされている実感がある」ことの重要性は非常に大きく、ここでは語り尽くせません。ぜひ先生方には「子どもの安全基地になる」という意識を忘れないでいただきたいです。
全5回の連載でご紹介するのは、上記のステップ図の「創造的な解決策を考えようとできる」(緑で色づけされた項目)のステップに到達する手前までです。
これから紹介するワークを通じて、「対話を通して相手とつながり続ける」意図を持った、『リクエスト』ができるようになるための準備」を整えていくことを目指しています。
紹介するワークを順番に取り入れていただくと、ステップ図の下から力を積み上げられるようになっています。日常的な環境や年齢、特性などにより、子どもたちのレディネス(心身の準備段階)もさまざまですので、もちろん一度のワークで力が身につく訳ではありません。そもそも、大人でも繰り返し落とし込んでいく必要のあることばかりです。
「完璧にワークを実施し、なんとかNVCを理解させなければ!」と気構える必要はありません。強要のエネルギーでは、ものごとはうまくいかないことがほとんどです。「観察・感情・ニーズ・リクエストというNVCの各概念を導入し、子どもたちに新たな世界の捉え方を提示する」という軽い気持ちで取り組んでみてください。
ご存知の通り、子どもがNVCの感覚を記憶に定着させ、実践まで促すには「繰り返し」が鍵となります。各ワークの一部を切り取って、繰り返し学級活動の時間に取り組むなど、子どもたちの様子を見ながら試してみていただければと思います。
これから、1つ目のワークで大事な「共感」の考え方について解説をしていきます。
あるがままを聴かれる「共感体験」の重要性
(1)共感体験とは?
私たちは、NVCの力を使って自他の可能性を最大限に引き出そうとするとき、「どれだけ共感され、寄り添われた体験があるか」という共感体験が最も重要だと考えています。
あるがままを聴かれる経験は、自己尊厳につながります。自己尊厳とは、他者に敬意を持ってあるがままを受け止めてもらうことで、同じように自分にも敬意を持って接せられるようになること。完璧ではない自分を誰かに認めてもらうことで、自己愛や自己信頼が増し、自分の短所や失敗も受け止められる柔軟な心の土壌が育ちます。
自己受容度の高さは、 他者を受け止められる器の大きさですから、他者に共感的に寄り添えるようになるには、まずは共感体験が欠かせないです!
「あるがままを聴かれる」ことで、心地よさ・安心を体感する。そして、自分の望み、力を再認識することで、内側からエネルギーが湧いてくる。共感によって湧きあがるエネルギーが、誰かを尊重しようとするときのエネルギーにもなります。
NVCを体系立てたマーシャル・ローゼンバーグ氏は、次のような言葉を残しています。
飛行機に乗ると誰もが見る、緊急避難時のインストラクションでは「お子様がいるお客様は、ご自身が先に酸素マスクをつけてからお子様のケアをしてください」と注意喚起がなされます。
共感するということは、このインストラクションと非常に似ています。皆さんの「共感酸素」が足りていない状態では、他者を共感的にケアすることはできません。ゆえに、教室にNVCの叡智を取り入れたいと願ったとき、まずやっていただきたいのは、「ご自身が他者から十分に共感される体験を得ること」となります。
(2)そもそも「共感」ってなんですか?
ところで、「共感」とは何ですか?と問われてはっきりと答えることはできますか?
私たち自身、NVCを学び始めた頃にふと思い立ってインターネットで検索したところ、解釈がさまざまあり、かえって悩みが深まったのを思い出します。最も悩ましいのは、「共感」と「同情」ってどう違うんだ?というポイントではないでしょうか?
アメリカの有名な子ども番組でも、”Empathy (共感) ”の説明が、私たちの考える「同情」と同意になっていたり、定義は一つに定まっていないのかもしれません。
NVCにおける「共感」の定義については、下の図をご参照ください。
さて、定義さえ分かれば「共感」は簡単にできるかというと...そうでもありません。試しに、次に誰かと話をする機会に、ご自身の脳内で繰り広げられる会話に意識を向けてみてください。
このように、自分の視点で話を聞き始めてしまったり、相手の話とは違うことを考えてしまうことがあると気づくと思います。黙ってただ聞いていること自体に違和感を感じる方もいるかもしれません。
使い慣れた言語での会話中にNVCを活用したとしても、NVCを学び始めた頃は「まるで第3言語で話をしているようだ」と感じます。私たちが慣れ親しんだいわゆる「普通のコミュニケーション」とは大きく異なる感覚を覚えるのです。ゆえに、NVCを知らない人同士で、NVC流の共感的に聴き合う取り組み(=共感リスニング)をやってみると、ときに「本当にこれでいいのかな?」と、困惑されるかもしれません。
そんな理由もあり、「他者から十分に共感される体験を得る」ときは、ぜひ一度、NVC流の共感をしてくれるトレーナーやプラクティショナーに依頼されることをおすすめします。子どもたちに対してどのように接したらいいのか、ということも体験的に理解していただけるでしょう。
(3)先生が教室に「安全」な場を作るには?
先生が共感すること・共感されることを体験したら、さっそく子どもたちにも共感体験を積み重ねてもらいましょう。
先生が子どもたちに共感することで、それぞれが自分の力とつながりやすくなるだけでなく、子どもたちが互いを大事にし合うことを通じて教室に「安全」な場を作り出すことも目指します。
人は「安全」を感じられないとき、自動的に「戦うか/逃げるか/固まるか/おべっかを使うか」の神経ストレス反応を示します。その状態で「つながり」を生み出すことはできません。
加えて、「安全」を感じられない状態において人は、成長、修復へ向かえないことも分かっています。ですから、元気で活発に学ぶ教室を作りたいと願う場合に、やはり教室の「安全」はとても重要なものになります。
教室に安心感を醸成し、子どもたちが自己開示できるよう促すために、共感を心掛けることに加え、ぜひ先生方には率先して、一人の人間として、ご自身の弱さも含めた姿を自己開示していただきたいと思います。
例えば、
このように、先生があるがままの気持ちを開示してくれると、子どもたちも自己開示がしやすくなっていきます。それと同時に、先生自身が感情やニーズを言葉にして日常的に伝えることで、子どもたちにとって感情やニーズを表現する言葉を増やすことにもつながります。
さらには「感情やニーズをどう表現したらいいか?」というモデルを示すことにもなるので、先生があるがままの気持ちを開示することは、一石二鳥ならぬ、一石三鳥の効果が期待できるのです!
先生からの共感と自己開示で、子どもたちとの間に信頼関係を築きながら、まずは、子どもが自分のありのままの感情を感じることを許せるようになること、本心を話せる勇気を持てるようになることをサポートしていきましょう。
これから紹介するのは、定期的に「共感リスニングの時間」を設けるためのワークです。
「共感リスニング」を教室で実践するためのワークとは?
先生たちは、多大な、そして多種多様な業務をカバーする中で、常に子どもたちに共感リスニングをしていくのは、至難の業だと思います。
効率性を重視せざるを得ない場面が多い中、恐らくほとんどの学校環境において十分に子どもの話を聴く時間を取ることが難しいのが現実ではないでしょうか。
だからこそ、子どもたちが「共感体験」を積めるよう、また「安全な教室」を作るために、意識的に時間を確保して、先生が共感リスニングを実施する時間を設けられるといいですね。時間を短くし、朝の会や帰りの会に、日常的に設けるのもおすすめです。「話をするのは日直」などと事前に決めておくのも一つのやり方です。
他者の時間を尊重する、人の話を集中して聴くことは、他者に自分のことを話すということと共に練習が必要です。聴かれる番でない子たちのトレーニングにもなっていることも伝えましょう。また、人前で話をすることを嫌がる子もいるかもしれません。その場合は、個別に対応する機会を設けるなどし、無理強いをしないようにしましょう。
このワークを取り入れることをきっかけとして、教室内に、感情リストとニーズリストを貼り出しておくと、子どもたちの語彙力増強につながります。また、可能であれば、感情リストとニーズリストを裏表でラミネート加工し、各児童生徒がワーク中、もしくは必要に応じていつでも参照できるとより良いかと思います。
✍️ワーク01:共感リスニングタイム (低学年向け:キリンの時間)
✍️ワーク02:歴史的な学びを共感体験ワークにつなげる
次に紹介するのは、これまでの社会や権力の構造について俯瞰して捉え、これからの目指したい【Power-with】の姿を考えるワークです。
NVCで【Power-with】(#1参照)の関係性を築こうとするとき、そもそも現在の社会的な構造やパワーバランスがどのようになっているのかを知ることも、大きな助けとなります。
当たり前にあるものと捉えていた社会のアンバランスに気づき、自分の持つ力に自覚的になること。私たちの「今」そして「意識」は、何世代にもわたる過去の影響を受けていることに気づき、NVCを通じて、そこから派生する習慣を取り去ろうとしようとしているのだと自覚すること。しかし、取り去ろうとしている習慣にも、それを採用した人たちが大切にしていたニーズがあったのだということに気づき、慈愛を伴った平和的な社会変革のエネルギーを育てられるようになることを意図しています。
日本史、世界史、政治経済など社会科系の授業と親和性が高いと思います。また授業でSDGsを取り上げることがあるようでしたら、次のような項目と関連づけていただけます。
誰もが力を発揮できる【Power-with】な社会を築くには、対話でつながり、互いの想いを聴き合えるようになることが欠かせません。共感リスニングによって受容された人は、別の誰かを共感的に聴くことができるようになるもの。ですから【一人ひとりが目の前の相手に共感的に寄り添うこと】たったそれだけで、波紋のように、共感的に聴ける人が一人また一人と増えていくのです。何かを変えようとするのではなくただ目の前の相手を大切にするだけで、社会を変えることに貢献し、そして改めて私たち一人ひとりの持つ力に思い至れることを願います。
ゼロから学ぶNVC#2はいかがでしたでしたか?
次回は、【実は難しい!NVCの第1ステップ「観察」】というテーマを中心にお伝えしたいと思います。