見出し画像

「概念を探究する」ってどういうことですか?【おしえて!先生 vol.01】

2022年にスタートした「総合的な探究の時間」に関する先生方の悩みを解消すべく、先生の学校では「探究」について学ぶ機会を多く作ってきました。

その中で、概念を探究する学びに取り組む先生や、国際バカロレア(IB)における概念学習の存在を知り、「概念」というキーワードに出会います。そして、私たちの「概念」を探究する旅が始まりました。

「概念」とは一体何なのか。「概念」について学べば、探究についてより深く理解できるのではないか。そう考えた私たちは、探究する学びを実践し続ける市川力さんに「概念」についての疑問・質問をぶつけてみることにしました。

(1)概念って何ですか?

もっと教えて!Part.1

Q. 概念を探究する学習に取り組んでみたいのですが、何かいい方法はありませんか?

概念が立ち現れてくるのを体感するには、私が考案したFeel度Walk(フィールドウォーク)がおすすめです。なんとなく気になるモノやコトを追い求め、あてもなく学校の中や外、街など(場所は問いません)を歩いてみるという活動です。

子どもたちには「歩いていてなんか変、おもしろそう、不思議と思ったものをなんでも探そう」とだけ伝えて出かけます。

Feel度Walkから帰ってきたら、気になったモノを絵や言葉で1枚の紙にみんなでまとめていきます。それを知図(ちず)と呼んでいるのですが、みんなの気になったモノを集めてみると、歩いた場所の特徴が見えてきます。

もしこの活動を「歩いた場所の特徴を見つけてみよう」という問いから始めてしまうと、その地域で有名とされている物や場所しか、話題に上らなくなりがちです。しかし、なんとなく気になったモノを寄せ集めるだけで、歩いた場所の特徴が見えてくる。つまり、その街の概念が見えてくるのです。

Feel度Walkをすると、気になったモノの背景に、一人ひとりの価値観も透けて見えてくるので、自らが持つ概念があぶり出されます。なので、保護者会や先生の研修など大人のチームビルディングとして実施するのもおすすめです。

▼Feel度Walkをもっと知りたい方はこちら
https://www.mitsukaruwakaru.com

(2)3つのCと探究学習

もっと教えて!Part.2

Q. コンテンツ型教育とコンセプト型教育について、もう少し詳しく教えてください!

コンテンツ型教育は、知識を網羅的・体系的に蓄積して理解させようとするので、知識を詰め込んで記憶する必要があります。あらかじめ蓄積する知識が決まっているので、できるだけ効率よく学びを進めることができます。

一方、コンセプト型教育は、目の前にあるモノ・コトの意味をじっくりと時間をかけて、さまざまな角度から探究していく学び。一つのことを多面的に捉えたり、深く掘り下げていくのが特徴です。

新たな概念を構築する過程で、そこから派生するたくさんの知識にも自然と出会っていきます。その知識はコンテンツ型のように整理されたものではありませんが、だからこそ思わぬつながりを自ら見出した生きた知識として体験とともに身についていくのです。

コンセプト型教育は、今自分が持っている「概念」というメガネで、目の前のモノ・コトを多面的に見つめることで新たな概念を構築していく学びです。自分が持つ概念というメガネを、常に新しいものに作り直し続けるイメージを持ってもらうといいと思います。

(3)「概念崩し」のススメ

もっと教えて!Part.3

Q. 「概念崩し」にコラボレーションが欠かせない理由を教えてください!

概念というのは、裏を返せば先入観や偏見でもあります。自分自身にこびりついた先入観や偏見はなかなか落とすことができないので、他者の力を借りる必要があります。

ですが、いきなりコラボレーションをして概念崩しをしようとすると、人によっては批判されているように思えてしまうこともあります。本来、概念崩しとは自らの考えが広がる豊かなものです。だから私は、コラボレーションが自然に起こるような流れを大事にしています。

そのために①マイ・ディスカバリー(自分の発見)、②ユア・ディスカバリー(相手の発見)、③アワー・ディスカバリー(自分たちの発見)という3つの段階を意識しています。

まずマイ・ディスカバリーは、自分の発見を思いっきり味わい楽しむ段階です。次のユア・ディスカバリーは、お互いの発見を伝え合い、違いや共通点を見出す段階です。おもしろいことにマイ・ディスカバリーを愛で合ううちに、互いの発見の認め合いが起きてきます。こうして仲間同士でいろいろな話をしていく中で、アワー・ディスカバリーに到達し、概念が深まったりほぐれていきます。

概念崩しとは決して批判ではなく、他者とともに自分の考えを広げることだと、子どもたちが実感できる発見共有の場を日頃から作っておくことが大事でしょう。

これから「概念探究」に取り組みたい先生方へ

探究というのは、唯一無二の絶対的な正解を見つける学びではなく、暫定的な答えを見つけ続ける学びです。だから子どもたちが見つけたモノをとことん突き詰めたり、先生も一緒に立ち止まったり、途方に暮れたりしながら学びを作ってみてほしいです。

そのために先生には、いつも「アマチュア」であってほしいと思います。アマチュア(Amateur)の「ア(A)」は否定を表す接頭辞で、「マチュア(Mature)」は英語で成熟するという意味で、いつまでも成熟しない状態を表しています。あえて成熟しないでいることによって、子どもたちと一緒に探究する存在であり続けられるんです。

アマチュアはスキルや知識がない素人とは異なります。先生はたくさんの知識を持っている存在ですが、自分の知識だけではカバーできないこともたくさんあると思います。そんなとき、自分の持っている知識だけに固執してしまうか、相手の意見を柔軟に受け入れて自分の考えを発展させられるかで、探究の楽しみ方が変わってきます。

ぜひ先生には、他者からの意見や質問を「そうきたか!」とおもしろがって受け止めて、もっと知りたいという情熱を持つ大いなるアマチュアであってほしいと思います。

取材・文:先生の学校編集部 | 漫画・イラスト:島田 あや

※こちらのマンガは、「先生の学校」が発行する、雑誌HOPE 2023年春号に掲載したものです