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臨時教員免許で2年間小学校教員に。民間企業で培った経験は、教育現場で必ず生きる!

教育系NPO「Teach For Japan」の仕組みを活用し、現在は福岡県の公立小学校で、英語とプログラミングを教えている吉田菜那さん。

大学時代には学校教育学を専攻し、子どもと関わるさまざまな経験をする中で「子どもを教える大人のあり方が、子どもに強く影響する」と感じ、卒業後は人材教育のコンサルティング会社に就職。企業内の研修などを通して、大人の変容に携わってきました。

そんな吉田さんが、なぜ民間企業から小学校教員に転職しようと考えたのか、詳しくお話を聞きました。

大人の教育の重要性に気づき、人材教育の会社へ

——吉田さんはTeach For Japan(以下、TFJ)の仕組みを使って、福岡県の小学校で働かれているそうですね。

TFJには「フェローシップ・プログラム」といって、教育をより良くしたいと考える多様な人材を集め研修を行い、学校現場に教員として2年間送り出すという取り組みがあります。私はこの仕組みを使って、2020年から福岡県の公立小学校に派遣されています。

現在は、小学3〜6年生の英語とプログラミングの授業を担当しています。大学時代に「J-SHINE英語指導者資格」を取得していたので、小学校での英語教育に関する知識を持っていたことと、民間企業で働いていた前職の経験からICTに強かったこともあって、学校の管理職との面談で担当教科が決まりました。

「フェローシップ・プログラム」の参加者には、研修後に臨時教員免許が発行され、教壇に立てるようになります。私はいつか学校の先生になりたいという思いを持っていたのですが、学生時代に教員免許を取得しなかったので、とても有難い仕組みでした。

英語の授業の様子

——教員免許を取得していなくても、先生として働ける仕組みがあることに驚きました。先生になりたかったのにすぐに教員にならず、新卒で民間企業への就職を選んだ理由は何だったのでしょうか?

教育実習やボランティア、家庭教師や塾講師のアルバイトなど、学生時代の経験を通して「子どもは大人の背中を見て育つ」と強く感じたことが理由ですね。次第に「子どもへの教育より大人の教育の方が重要なんじゃないか」と考えるようになり、大人にアプローチする道に進みました。

新卒で入った人材教育のコンサルティング会社では、企業内の研修などの設計を担当し、企業に勤める大人が自分のパフォーマンスを上げるための研修やコーチングの提供、会社内の人事制度をつくるサポートもしていました。学生時代からインターンシップをしていた期間も含めると合計4年程、とてもやりがいを感じながら働いていました。

前職のコンサル時代の吉田さん

もっと間近で人の成長を感じたくて、教員の道へ

——やりがいを感じていた人材教育の仕事から、教員に転職しようと思ったきっかけは何ですか?

きっかけは2つあります。1つは、大人の教育に関わって感じた、大人の成長スピードのゆるやかさです。人材教育コンサルタントの仕事を通して感じたのは、大人が今まで培ってきた考え方をアップデートするのは難易度が高いということでした。

もう1つは、企業内研修では、単発的かつ局面的にしか人の成長を支援できないことです。それらの経験から、人の成長をもっと間近で支援したいと思うようになりました。

そんな中で、「学校の先生だったら、成長スピードの早い子どもと毎日向き合い、多面的かつ長期的な成長を間近で支援できるのでないか?」と考えるようになり、教員の道に進むことを決めました。

——家庭教師や塾講師のアルバイトなど、学生時代から子どもと関わる経験がたくさんあったとはいえ、教員になるという選択にはきっと不安もありましたよね。

もちろんありました。教員という職業に対するネガティブなニュースが多く報道されていたこともあり、公務員としての働き方や学級経営・保護者対応について不安を持っていましたし、先生同士の上下関係が厳しそうだというイメージも持っていました。

そのような状態から私が不安を解消できた理由の1つに、現役の教員や教員経験者からたくさんお話を聞く機会を持てたことがあります。TFJのプログラムには、教員として派遣される前の研修が充実していて、授業づくりのことだけでなく、校務分掌と呼ばれる授業以外の学校内の仕事についても学びました。TFJの研修を受ける中で「私が民間企業で培ってきたビジネススキルは学校現場で十分に活用できるのでは?」と思うようになり、自信がつきました。

あとは、前職を退職してから半年ほど、学校現場で先生のサポートをする「学習支援員」としてボランティア経験を積んでいたこともあり、着任する直前には私の中にあった不安はかなり軽くなっていましたね。

——研修に参加するだけでなく、吉田さんご自身でも教員への転職に向けた準備を進められていたのですね。実際に学校現場で働いてみて、どのような場面で民間企業での経験が生かされていると感じますか?

いろいろありますが、特に効率的に仕事に取り組む点、例えばICTなどデジタルを活用するスキルは生きているなと感じます。

学校現場では、ほとんどの資料は紙で配られます。特に若手教員の机上は整理が追いつかず山積していて、必要なときに書類が見つからないことも多いみたいです。その状況を改善するために、GoogleやMicrosoftの機能などを活用して、連絡や書類をデジタル化することにチャレンジしてみました。

デジタル化すれば、机の上がプリントでいっぱいになることもありませんし、検索機能を使えば必要な書類をすぐに見つけることができるので探す手間も省けます。とはいえ、同じ職場の中には新任の方から再任用の方もいて皆が皆デジタル化に前向きではないので、現在勤務する学校では少しずつデジタルに移行できるように進めています。

この他にも、多様な人と良好な人間関係を形成する力や自分自身をコントロールする力、企画力、タイムマネジメントのノウハウなどもとても役に立っていますね。ビジネスの現場で培ったスキルは、学校現場でも十分にいかせますし、むしろ自分の強みになっています。

民間で培った強みに自信を持ってチャレンジしてほしい

——学校で働いてみて感じていることもぜひお聞きしたいです。

とてもやりがいのある仕事だと日々感じています!毎日の授業や関わりを通して、子どもたちが何かに気づき、自ら学びに向かう瞬間に立ち会え、それを近くで最大限サポートできることは、とってもおもしろいですね。

ALTの先生と一緒に行った外国語活動の様子

TFJの任期は2年で終わってしまうのですが、赴任中に小学校教員免許の取得もできたので、任期が終わった後も教員を続けたい気持ちがあります。

「先生は忙しい」と聞いていたのですが、私の場合は、企業で働いていたときよりもプライベートの時間を確保できています。学級担任は持っていないのですが、外国語やプログラミングの他にも低学年の体育・図工・音楽を教えているので、毎日授業は全て埋まっています。しかし、企業で身につけたスキルのおかげもあって、自分の仕事はその日のうちに終わらせられることが多いので、放課後の時間は管理職や他の先生の手伝いをする余裕も作れています。何も手伝うことがなければ、「今日は早く帰っていいよ」と同僚の先生から言っていただけることもあって、ありがたいですね。

Pepperによる英語絵本の読み聞かせの様子

——時間を効率的に使い、空いた時間で他の人の仕事を手伝う。これは同僚の先生方と良い関係を築くコツの1つとも言えそうですね。吉田さんが現在チャレンジしていることがあれば教えてください。

まずは担当している英語についてお話しますね。今の勤務校には、「English room」という特別教室があるのですが、この教室は他の教室とは異なる環境をつくることを意識しています。

具体的には、世界各国の国旗やおもちゃ、英語のぬりえや迷路、アルファベットやローマ字表、英語版のアニメや絵本など、English roomを訪問することで、一度にさまざまな情報に触れられるようにしました。

English Roomの様子

床に座ってゆっくりできるスペース等も設けてあるので、休み時間にも多くの子どもたちがきてくれます。ハロウィーンやクリスマスの時期にはイベントを企画し、外国語の授業がない低学年の子どもたちもEnglish roomに遊びにきて、異文化に触れるようになりました。距離の近い、お姉さんのような存在の先生だと思ってくれているのかな。それがとてもうれしいですね。

——English room、いいですね。

学校の業務という観点では、ホームページのCMS化にチャレンジしました。今までホームページの更新は情報担当教員が担っており、その作業は難しいイメージを持っていました。しかし、学習指導要領にも示されている通り「社会に開かれた学校」をつくる一歩として、保護者や地域の方々に学校の様子を知ってもらい、地域ぐるみで子どもたちの成長を支援していきたいというおもいがあったのです。

この目的を市教育委員会に伝えると、「数年前からやりたかったことだけど、できる教員がいないから着手できなかったんだよね。ぜひ、よろしく!」と回答をいただき、ホームページCMS化の研究指定校にしていただきました。そして、先生方全員が簡単にホームページを更新できるように、CMSにサーバーチェンジをしました。

先生方は「思ったより簡単にできるんだ!」と驚いてくれ、日々の様子や学級通信などを更新してくれています。管理職も率先して取り組んでくださり、今、一番頻度高くホームページを更新してくれているのは、教頭先生なんですよ。思い切って改革した甲斐があったと思います。

また、プログラミング教育では、コンピュータ内のみのプログラミングではなく、実際にロボットを操作するような体験活動をさせたいと思いいろいろなところに声をかけてみた結果、Softbank社のプログラミングロボット「mBot2」をお借りして授業を実施することができました。

mBot2を活用したプログラミング授業の様子

子どもたちは初めてのロボットを組み立て、プログラムを組み、試行錯誤しながらプログラミング的思考力を育むことができたと感じています。学校内のリソースだけではなく、外部の協力を積極的に得ていく行動は、民間経験があるからこそできたことかもしれません。

TFJで教員として派遣される期間はあとわずか。今後は、外部とのつながりを強化したキャリア教育を検討しています。最後のチャレンジになると思うので、とにかく最後までやりきりたいです!

——現場での取り組みや、吉田さんの熱い思いを聞かせてくださり、ありがとうございます!最後に、民間から教育現場に転職したいと考えている方にメッセージをお願いします。

私は民間企業を経験した人が教育現場に挑戦することは、子どもたちにとって、そして学校にとって、とても意味のあることだと思っています。むしろ、「民間企業で働いてから教員になるというルートを作った方がいいのではないか?」と思うくらい、私にとって民間企業で得た経験は大事なものだったと感じています。なぜなら、これから子どもたちが羽ばたいていく「社会」を、先生自身が経験することで、どのような学びをどのようにデザインして子どもたちに伝えるかを深く理解することが大事だと思うからです。

民間で培ったスキルは、教育現場で生かせるものも多いですし、強みをしっかりと持っていれば、管理職や同僚の先生はどんどん頼ってくれるようになります。ですので、いま教育現場への転職を考えている方や興味を持っている方にはぜひチャレンジしてみていただきたいです。

社会で培った経験・強みに自信を持って、よりよい学校教育を創るために共にチャレンジしましょう!

取材:三原 菜央 | 文:岩田 龍明 | 写真:ご本人提供